とある日の夜。
身体の方もすっかり普段通りの調子になったので僕は夜の鍛錬を再開する事にした。

久々なので軽めの動きを中心に、時々大きな技も交えつつ。
身体もそこそこ軽く、新しい棍は少し身に余る大きさながらそれなりに手に馴染んでいる。


そういえば新しい棍といえば、これは僕が倒れている間にふわもこ達が調達したものらしい。
聞くところによると依頼して作ってもらったとの事で、ふわもこ族の人間社会への適応能力は僕の予想より高いらしい。
今回お世話になった医者も元々はシェリーの紹介らしいし。


それともう一つ、この棍を扱ってて感じた違和感がある。
通常は一体物である事が普通の棍だが、どうやらこの棍はいくつかの部品を合わせて作っているようだ。
それにもかかわらず力の伝達に淀みを感じない所に作製者の腕の良さが窺える。
しかしそれだけではなくこの棍には何かがある、そう感じてならなかった。

その後、カイルからこの棍についての説明を受けた。
説明に出てきた機能は想像できそうなものから、そんなものまであるのといった機能まで様々なものであった。
その全てを実際に使うかどうかはひとまず考えないでおく。

そういえば先代の中にそんな多機能物を創る事に情熱を燃やした人がいた。
説明を聞きながら、『からくり師』と呼ばれた19人目――帥楊(スイヨウ)を思い起こす。



〜・〜・〜・



[No.19:Sui=You]



彼は仕掛けを用いて物を創る事に楽しみを覚えていた。
初めは簡単な物しか作る事が出来なかったが、徐々に複雑な仕掛けを創りだしていった。

『あの世界』には決して資材が種類量ともにそれほど豊富ではなかったが、
彼は仕掛けを考え、工夫し、そして組み合わせる事でその資材達ではできないと思われた物も多く創っていた。


彼はいつしか、こう考えるようになった。

――資材に柔軟性が無ければ、工夫してそれを補えばいい。

――逆に考えよう、工夫を重ねれば何でも創る事が出来るのだろうか。

――我々が求めている『もの』は工夫を重ねた先にあるのだろうか。

――それとも工夫には限界があり、さらにその先にこそ我々が求めている『もの』があるのだろうか。

――それを知るために私はこの道を進む。


……結論からいうと、彼は工夫の限界という壁に当たる事すら無かった。
それ程までに工夫という世界は奥が深く、またそこまで潜り続ける彼の才能も確かな物であった。

彼がその生涯を終える間際にどう結論付けたかについては記録に残されていない。
僕達の転生システムは細かい機微は消される傾向にあるのだ。
今考えると、そういった機微に大きなヒントがあったのかもしれない――



〜・〜・〜・



数日後、僕達は水辺に沿って歩みを進めていく。
お医者さんに『最近水辺が騒がしいようだ。ちょっと調べに行ってくれ』と依頼された為だ。

途中、うっかりマーマンの巣に足を踏み入れてしまったり、シフォンの友人であるフラウに会いにいったりと多少寄り道をしたものの、そろそろ目的地に着く頃だと思う。

そう思っていた矢先、大きな音と共に巨大な生物――いや、巨大なイカが現れた。

巨大イカを目の前に様々な反応をするふわもこ達。
どうやらこれが騒動の原因みたいだけど……

そう思っていた矢先、今度は空から何かが降ってきた。
金色の長髪を持つ小柄な少女だった。

驚く僕達をよそに、振ってきた少女――自らを魔神と名乗ったベルフィは巨大イカに対して宣戦布告をする。
僕達に手を出すなと言っていたけど、この間合いでは引きようもない。

仕方なく僕達は戦闘態勢を整え、巨大イカと対峙する――