「……自分を殺す方法を見つける事？」
レーネの怪訝な声が、何もない空間に響く。
「そう。その通りさ。理由には答えてあげられないな。好きに想像するといいよ」
人形――始祖ディ・ステラは、何でもない事のように返し、そしてこう言った。
「……で？」
「で、とは？」
怪訝な顔を崩さぬまま、レーネが返す。
「君はあの一族に血を受けた吸血鬼じゃない。更に言えば、真っ当な生き物でもない」
「単なる人形だよ。意思を持った、ね。幽霊の類でさえない、純粋なバケモノだ。　
　――実のところ、吸血鬼上がりの僕よりも君はバケモノ然としているんだよ。　今の君に主導権があるのがその証拠だ」
今まで自分が寄り代にしていたモノが全て、作り物であって。
それでどうするのか。　そう、始祖は問う。

「――関係ありませんわ」
それを、レーネは一刀両断に切って捨てた。
「……ほぉう。それはどうしてだい？」
「私が貴族だからです」
「その貴族の地位も、作り物……僕のものであって、君のものじゃないだろう？」
「関係ありません。　それでも私は貴族です。
　貴族とは地位でもなく、資産でもなく、思想であり精神だと私は信仰しています。
　力のある限り、貴族的精神により持たざる者を救い、庇護し続ける。
　そうある限り、他の誰が何と言おうと私は貴族です」
そう断言した。
「その論理は滅茶苦茶だ。　持たざる他人を救うのに、どうして他人の言葉を退けられる」
「私が貴族だからです。　その証と誇りは私の胸にあり、行動がそれを証明する。
　そこに、どうして他人の言葉が入る隙がありましょう？」
真顔で言ってのける。
他人の為でも、また自分の為でなく、自分の行動原理の為に他人を救う。
手段と目的の大回転である。
「……なるほど。　大した狂人だよ、レーネフィア・ディ・ステラ。
　元より空っぽの状態で生まれた君は、“貴族”以外の価値と論理を持たないのか」
「何とでも言うがいいでしょう。　元より理解を得ようとも思いません。　貴族ですから」
自己を確立するアイデンティティを、自己ではなく行動原理に委ねているから、自己に対する事実を全く考慮しない。
そんな見ようによれば滑稽な『貴族』を前に、始祖は愉快そうに笑う。

「……いいよ。　悪くない、むしろ気に入った」
「あなたに気に入ったと言われても、嬉しくはありませんわね」
鼻を鳴らすレーネフィアに、始祖は構わず言葉を投げる。
「力を貸してあげようじゃないか。　魂の扱いは今より楽になるし、意識的に無機王の力を使えるようになる」
「……いいのですか？　そのようなものを私に渡せば――」
「僕を殺しに来るかい？　それもまたいいんじゃないかな。
　では――目が覚めたらまた会おう、我が子よ」

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レーネフィア・ディ・ステラは、タンポポ荘の一室で目が覚めた。

何日か眠っていた気分――事実、日付表示付きの時計に目をやると二日ほど眠っていたらしい――を押しのけ、立ち上がり、ドアを開けると――

相手の第一印象が覆ったわけではないのだろう。
ただ、それよりも質問の内容の方に興味が行ったらしく…2人はそれぞれ考えるようにしながら目線を外し。

そして「2人分の匂いがする」と言われると…少年は少し困ったような表情を浮かべたが。
程なくして、しどろもどろに説明をし始めた。

青年は訝しげな目線を相手に向けて問うた。