「あいつらばかり、いいなあ」
　空にうかぶおおきな船のとある乗組員が、そんな愚痴をこぼした。
「いいって、あいつらがもうすぐ進化することが？」
「そうだよ。わたしたちより下の存在だったあいつらが、わたしたちの上の存在に進化するんだろう？」
「それを手伝うのがおれたちの仕事じゃないか」
「きみはうらやましいと思わないのかい？」
　興味がなさそうな仲間に、彼はため息をつきながら言った。
「上が言うには、これだけ高度な存在であるわたしたちをもはるかに上回る、ひとつにまとまった存在になれるんだろう？
　今よりもずっと、それこそ想像もつかないような高度な思考をえられるそうじゃないか」
「だけど、おれたちは上にあがれないんだからしかたないだろう。そういうふうにできているんだ」
　頭のかたい同僚と話すのはあきらめ、彼はふたたびため息をついた。

　この世界の住民たちも、前の世界とおなじでおろかな連中だった。
　きちんと使えばたっぷりあるはずの資源を奪いあうために、毎日のようにどこかでいさかいを起こしていた。
　彼らはその世界の住民たちの前にあらわれ、やわらかくおごそかな力であらそいをおさめ、
　さまざまな知恵をさずけることで、その世界をとても平和で文化的な理想郷に作りかえた。
「慈善事業でこんなめんどうなことはしやしない」
　あいつらをここまで導くのについやした苦労を思い出し、彼は宇宙船から下界をながめた。
　子供たちがうつろな目で風にゆれるように同じ動きをしている。もうそれぞれに意志はやどっていないようだった。
　これまでの努力は、すべてあいつらを進化させるためのものだ。
　わたしたちよりも上の存在がわたしたちにそう命令するんだから、だまってしたがうしかない。
　そうして進化したあいつらは上の存在にくわわる。これまで見くだしていた連中が上司になるわけだ。
　この過程を、彼はなんどもなんども繰り返してきた。
　それが彼という種族が受けもった役目だということを、生まれたころから言い聞かされてきたからだ。
　進化した彼らは世界のどこかへと消え去っていき、もう追いかけることはできなくなる。
　それを見るたびに、彼はどうしようもない寂しさを胸のなかで積み重ねてきた。
「いやだなあ。あいつらが進化できて、どうしてわたしたちは進化できないのかなあ」
　彼の思いは、とっくの昔に限界をむかえていた。
「よし、決めた。あいつらのうちのひとりを取りこんでやる」

　仲間たちが自分の世界に帰っていたある日、彼はその世界の子供のうちのひとりにひっそりと近寄った。
「わたしにもわけてくれ、その遺伝子を」
　彼は胸をおおきく開き、その子をまたたくまに体のなかへと取りこんでしまった。
　すこしだけ罪悪感はあったが、彼はわたしのなかで生きつづけるのだと自分に言い聞かせた。
「ああ、すごい。力がみなぎってくる」
　彼の姿かたちはその子供と同じになり、これまでに感じたことのない力がながれこんできた。
　彼はたからかに笑い、子供たちの中にまぎれこんだ。
　行方不明になった彼は、仲間たちのあいだでは殉職としてあつかわれたようだった。

　そして、進化の日がやってきた。
「ああ、わたしはついにひとつ上へと進化できる」
　まばゆい光に導かれて、彼はその世界を旅だった。

　真っ暗闇だった。
「あれ、おかしいぞ」
　自分の手も足も見えない。それどころか、自分の体の感覚すらないのだ。
「どうして。ひとつの意志なかにわたしは迎えられるんじゃなかったのか。何も見えない、何も聞こえないぞ」
　やがて、その黒の意味を彼はなんとなく理解できてしまった。
「わたしは、死んだのか」
　そう考えるしかなかった。これまで何度かいろんな形で遭遇した、命が散っていく感覚にあまりに似すぎていたからだ。
　そう時間もかからずに、彼は最悪の結論にいきついた。
「わたしたちは、あいつらを進化させているわけじゃなかったのか。
　どうしようもない、未来がない、そうわたしたちが勝手に判断した生き物たちを、
　世界全体からこっそりと間引いていただけだったんだ。
　進化というのは、そのための口実にすぎなかったんだ」
　怒り、嘆き、悲しみ、憎しみ。高位の生命体だったはずの彼は、そういったつまらない感情をはじめて経験した。
　彼の肉体はたしかに滅んでいたが、そのつよい感情が彼の魂を呼びもどした。
　魂だけになった彼は死を抜け出し、かつての仲間たちの目の前にあらわれた。
「おまえたちも、わたしたちも、みんなみんなばかだ」
　彼は自分の種族をみなごろしにした。
　彼も死んでいるので、その種族は彼らがこれまでにほろぼしたほかの種族たちと同じように、あらゆる世界から消え去った。

「わたしたちは、うぬぼれていたんだ。自分たちが高位の生命体だからって、ほかの命をもてあそんでいた」
「私はもう死んでしまっているけど、この魂という姿はちょうどいい」
「それがうそだっていい。誰も死なない、ほんとうの理想の世界をつくろう」
　彼は、ゆっくりと準備をはじめることにした。なにしろ、時間はたっぷりとあったんだから。

困惑した様子でアムルイは言う。

プリマ は以下を装備！
【自由】 ゆっくりえねりwith異国の紋様（ 装飾 / 87 / 活力1 / 治癒1 / - ）