光を備えながら天使は消えていった。在るとも在らないともどちらとも決められないまま。それとも私がどちらとも決めかねているそのことを指し示すようにして。あとには灰のような香りと瞼の裏の光の残像が焼き付けられて遺存していた。ただ、顕れたその姿はおぼろに捉え切れず、触れることも困難で、事実と非事実の境目を軽々と越え、およそ目にしてきたあらゆる物象の容態のどれとも似ていなかった。

天使は針の上に千人立つことができる。なぜなら天使は物理的な存在ではないからだ。空間上の延長に課される空間上の規律に天使は束縛されない。しかしまた同時に、針の上に千の天使の力が場を持つ avoir lieu ことはできない。力が起こる avoir lieu 時、どうした奇蹟であるにせよそれが現実世界に関わるものである以上、物理的な現象として起こるのであり、力が起こる空間は、現実世界の空間上の規律に従うからだ。針の先に千人の天使が存在することはできるが、歪曲する作用と真直になる作用が同時に針先に場を持つことはできない。天使の非在性は存在の不自由から天使を隔てるが、天使は作用においては己を非在から存在へと――あるいは不在へと――実現せざるを得ないからだ。だから、天使が参戦する=戦いに一部を切り分ける participer à une guerre とは、否応なく天使に作用を求め、作用の顕れる存在性を求め、その論理的連結によって天使の非在性を切り分けられた一部として奪うことだ。

天使はけれど、奪われながら決定的なものを奪われることはない。天使から奪い切ることはできない。非在は無限だからだ。天使を存在へ切り分けることはできるが、切り分けられたもとの非在は、汲み尽くされない泉のように、量的な数論を無化したひとかたまりの完全性として非在し続ける。そこでは奪うことは一過性の、ただ時間のなかに針先の点として場を持つ avoir lieu 一事、ひとつの奪取として歴史化はされるが、奪取の結果の喪失としての痕跡化はされない、雪につけた足跡の振り返れば消えているような、奇妙な不完全さとして顕れる。天使からはなにかを奪うことができる、しかし奪ったものはどこにも残らない。欠如としてさえ。

死者のようだ、と、思う。触れられない死者。戻りはしない死者。時折は亡霊として私たちが日々の中に面影を召喚し、そして忘却の霊廟へと送り返していく死者たち。ただ、死者たちは非在としてではなく、不在として存在している。天使はそこにいないという形でいる。死者はそこにいるという形でいない。似通いながら遠ざかるそのふたつのどちらも、私の心を魅するが、姿をつかませはしない。いくらかの知識や思索を経た今にも私はまだ、エンジェルとは何か、わからないままでいる。