◇ Intermission　→side:B



殺風景な狭い部屋に、大きな荷物を持った少女がやってきたのは、夕刻のことでした。
大きなケースを乱雑に置くと、窓際の椅子に腰かけます。
窓からは、夕焼けに染まった街路樹が等間隔に並ぶ、よく整地された街並みが臨みます。
ここはロザリンドの都市。
森林地帯の多い大陸南部に点在する街に行商する商人たちの拠点となる大きな街です。
彼女の目指すグリムドールの街も、ここから続く街道の先にあります。
窓辺に頬杖を突き、険しい顔で指で顎をトントンと叩く彼女の様は、明らかに何かに苛立っていました。


　+ + +


昼下がりの、薬品と消毒の匂いのする部屋に、少女と男が一人ずつ、椅子に座っています。
男の方は、白衣を着た黒縁眼鏡の青年で、眼鏡の下の隈と、ぽつぽつと生やした無精髭が、歳よりも老けた印象を与えます。
少女の方は、シャツを脱いだスカート姿の、金髪赤眼の長い耳をしていました。
左手には二の腕まで覆う長い手袋を履いていましたが、今は紐を緩めて手首のあたりでだぶついています。
彼女の二の腕には、まるで大きな百足がのたくって巻き付いているかのような大きな傷跡があり、
肘先から手袋で隠れた手首にかけても、小さな古い切り傷の痕が無数に残っていました。


「別に、痛むことはたまにあるけど、前みたいに力が入らないことも、動かないこともないわ。
　何も問題なんてないし、もうしまってもいい？」

男が頷くのを確認すると、彼女はそそくさと手袋を履き直し、近くのベッドに畳んであったシャツを着直します。
何やらぶつくさと文句を呟いていますが、「反対の手も見せなさい」という男の言葉にぎくりと反応します。

「……何でよ、あんたが治したのは左腕だけでしょ？関係ないわ。」

「いいから。」

毅然とした男の態度に、渋々と微かに震える右腕を差し出します。
左腕とは違い、傷痕もなく、まっさらな腕です。

「……もう、いいでしょ。」

そう言って腕を引っ込めようとした彼女の肘のあたりを、指先でつんと突くと、
彼女の身体が電流が走ったかのように、びくりと跳ね上がります。

「何するのよこのバカっ！」

「やっぱり片手撃ちの癖、まだ抜けてないんだな。」

「………。」

「そもそも君は、もう戦う必要なんて無いだろう？
　向こうでは、もっと平穏な仕事も受けていると聞いた。
　……それでいいじゃないか、もうあの時とは違うんだ。」

「……失礼します。」

立ち去ろうと、ドアに手をかけた彼女の後ろから、男が話を続けます。

「……自覚はあると思うが、その右腕のダメージは相当だぞ。
　君がまだ戦いを続けるというのなら勝手だが、相応の覚悟をするべきだ。
　これ以上そんな無茶を続ければ、その腕ではパン屋の店番すらできなくなるぞ。」

彼女は何も応えずに、バタンと少し当て付けがましくドアを閉めると、そのまま立ち去ってしまうのでした。
そんな様子に、彼は大きなため息をついて、大仰に天を仰ぐのでした。

「このくっそ忙しい時期に、余計な心配事を増やさないでほしいものだな。」

そう独り言ちると、机の上のカップの、いつ淹れたのかわからないような珈琲を一息に飲み、意識を切り替えると、
鍵が三つも付いた引き出しから、分厚い書類の束を取り出して、ぱらぱらとめくります。

「二人目、か……。」

険しい顔をして呟く彼の手にした書類の束の、羊皮紙でできた表紙には、
ロザリンドをはじめとするこの地方一帯を総括する辺境伯、ローゼンフェルド家の紋章が捺印されているのでした。

なにやら真新しい一冊の本を取り出します。
恋愛を題材にした物語とおぼしきタイトルがつけられているのです。

ミオさんも、そういう友人の一人ですよ、と続けて。

(このやり取りから少し経った日、その『大妖精』を名乗る人の声がどこからともなく聴こえてくる…かもしれない。)（※露骨なコミュ宣伝)

まるで当たり前のように人間で言えば耳のある部分に食べられたのを見て目を円くします。

ついつい興味がでて耳？をのぞき込もうとしてしまっていて

憶測の域を出ないものの、とりあえずもふもふと尻尾の数を増やしていく

まいかは構えたまま少しうさぎの魔物と対峙するも、それが自分から襲いかかってくる様子を見せないことに首をかしげました。

なんとなく警戒心を緩めつつあります。

セイロンは色々と目の前の光景に唖然としているようだ、が

なにやら頭を抱えてぷるぷるしだした

そう言うと、ぷーちゃんも羽を拡げたまま、それをはためかせてミオちゃんと同じ高さまで飛んでみせ、目線を合わせる。