〜黒妖〜

　エンブリオが集う場所で聞いた話。
　王から奪ったネクターが集まり、その力がエンブリオのものとなる。そしてある一定数ネクターが集まると、エンブリオの『召喚』が可能となるらしい。
　黒妖の心境は複雑であった。不確定な要素に囲まれ、喜びの気持ちを覚えれば良いのか、不安な気持ちを抱けば良いのか分からないでいた。

　今の姿は、本当の自分の姿ではない。

　自分の力が戻りつつある。この事実は、ある一つの仮定を生んだ。このまま自分に力が戻り、自分が『召喚』された時、自分は本来の姿を取り戻してしまうのではないか。
　そのことが、黒妖にとって嬉しいことのようでありながら、起きない方が良いかもしれないとも思っている。

　本来の姿を取り戻した時、契約者……巴はどのような反応をするのだろうか。

　黒妖には、巴に隠している秘密がある。
　本当の自分の姿を見せる時、それは自分の過去、真実を話す時である。その真実を知った時、巴は一体どんな顔をするのだろうか。
　今まで光を逃れ、暗黒の中を闇の住人として、シェイドとしてひっそりと暮らしてきた自分が、たった一人の女性、それも人間に拒絶されることを恐れている。

　滑稽な話である。

　まだ起こってもいないことに、起こらないかもしれないことに、ここまで心が動揺するなど、今までには無かったことだ。
　杞憂に終わるかもしれないのに、誰に何を言われたわけでもないのに、ここまで心の中を引っ掻き回されるなど、昔の自分が見たらきっと大笑いするだろう。

　でも、このうねり渦巻く心境は抑えることなどできない。
　ならばせめて、巴にこのことを悟られないよう、今まで通り振る舞うだけ……。

　しかしもし、もしその時が来てしまったら。

　その時は、全てを話そう。

　例えどんな結果になっても。

　そうしなければ、ならないから。

　今はただ、この幸せな日常を噛みしめていたいから。

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※ティンバーにとってやばいことだったらしい。

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