●関係性。あるいは13日目、E-1769への返歌。
「――何故、私が[軍曹]に忠実なのか、ですか」
衣服の大半を取り上げられて裸体にサイズの合っていない白地のシャツを被っただけの姿の[仔犬]は、質問を復唱した。
「端的な事実から回答しますと。私と[軍曹]は[取り立て屋]小隊というGorupeに所属していますが、今現在この場にいる小隊Memberは一人、です」
ぼんやりとしか光を感じることしか出来ないと語った瞳は、中空を見据えている。
「一人なのです。所属している人員は[軍曹]一名。備品として私、[仔犬]が所属しています」
その表情には、語っている事実への負の感情一つ浮かばず。いっそ薄着になったせいで赤みがわずかに差したその血色も相まって、恍惚すら感じているかの如く。
ただ声音だけは平坦そのままに。
「亜人の私に人権はありません。――[軍曹]はそれを嫌っています。今まで同様の質問があった時に一番納得された解答が、この形になります」

「――事実をより正確に伝えるならば、確かに不足しています」
「人間と亜人を比較した場合。こちらの地域ではそうでもないようですが、どうしても亜人の方が肉体的に優れていることは否めません」
「殺傷の容易な武装を解除できない亜人を相手に、人が安心できるかどうか。身体Specだけならば大人と子供の差があるといえるLevelなのですから」
「ですから、我々は人権を持ちません。物です。家畜です。人の所持する財産です。人と共にあるために人の尊厳を捨て、人ではない人に似たもの――亜人としての挟持を手に入れました」
「――人扱いされないことに亜人が反感を持ったならば、そんなことは大多数の亜人の方が許しません。一人でもそんな亜人がいれば。そのことを人が恐れたら。我々は人の隣に居られなくなる。だから、許さない」

「まぁ、財産である以上、無体な関係は基本的にありません。無い訳でもないですがそれはそれで人の間でそれなりに眉をひそめられる趣味と捉えられていますし。ただ、[軍曹]は標準以上に私を丁寧に扱っていますね。それこそ人間扱い、です」
「えぇ。実際のところ、先ほどの回答では真逆とはいいませんが。[軍曹]は良い飼い主ではありますが亜人としては少々行き過ぎと思っています」
「――むしろもう一寸無体を働かないかと期待しているのですが。そうすれば、捨てられ辛い、でしょう？」


●修復作業
「ぁー。面倒クセェ……」
黒い布――に似ているだけの防刃"板"を片手で切り取り、破けた下士官服に押し当てる。
続いて取り出したリューターを押し当て。重ねた縁目を溶かしていく。
繊維構造ではあるが繊維そのものではない、故に、押し当て、こすりつけ、癒着させることで新品のごとく修復することができる。
繋ぎ目のところは継ぎ目が見えないように丁寧にやる必要はあるのだが。
「やーっぱな。手、必要だよな」
手首から先のない左腕を見つめる。
左足も脛半ばからが絶たれている。
左側ひとそろいの損失は、彼に松葉杖などの歩行補助も、車椅子の操作の自由さも奪っていた。
どうにかこうにかできる軽作業がこの修復作業と、生産プラントの維持、そして。
「……せめて、踏ん張りが効かせればコレも扱えるんだがな」
車椅子に結わえられた、鎖付きのソードオフメアズレグライフル。
片手でも扱えるレバーアクション方式のソレは、せめて彼に左手下左足さえあれば、まだ、使えていたのだが
「……義手、か。そういや、[仔犬]に資材集めさせてるはずなんだがな……」
呟きながら、こめかみのあたりを指で叩き、[仔犬]との視覚共有を開始する。修復が終わったと伝えるために。


●――
「――ところで。捨てられないといえば」
「この一人では何も出来ない状況それ自体が、彼女の首輪の保証、だよネ」
「……もうちょっと、煽ってやろう、カナ」