おーい。
長い長い夢を見ていた気がする。
どこからが夢だったんだろう。彼らにあったところからか、翼が生えたところからか、身体が引き裂かれたところからか。
眠っていた間、みんなはどうしただろう。
目はつむっているはずなのに、周りがチカチカと明滅する。
そうだ、起きないと。せっかく出来た友だちが待っている。
よし、せーので起きよう。


いくよ、せーのっ


＊　　　＊　　　＊


「おきた」
「ふむ、随分寝ていたな」
「うん、おはようしろ」
「待っていろ、今あめ玉娘にでも料理を作らせよう」

そういってふわふわとどこかへ消えるしろ。
どれくらい寝ていたんだろう。なんだかとても懐かしい感じだ。
寝起きだからか感覚が定まらず、視点はふわふわと宙を漂っている。
腕は、ついてる。脚もある。さて、本当にどこからが夢だったんだろう。
とにかくここにいてもわからない。着替えてみんなに挨拶もしないと。
体中に包帯を巻き直し、フードをかぶるとボクは部屋を出た。


＊　　　＊　　　＊


主は3日目を覚まさなかった。
体の傷はすぐに癒えたが、あれだけ力を開放したのだ。むしろ3日で目を覚ますほうがおかしい。

「目を覚ましたんだね」
「うむ、思ったよりも早かったようだ」

ふわりふわりと舞い踊る蝶が近くの葉へ止まる。
陽気に話しかけてくる声はその蝶から発せられていた。
嫌な声だ。できることならもう聞きたくはない。

「それで、今度の身体はうまくいきそう？」
「そうだな、耐久力は問題ない。ただ、まだまだ精神は未熟なままだな」
「ふうん、でも、身体さえ出来てればいいと思うんだけどなー。精神なんてまやかし、必要ないんじゃない？」
「ふん、今の主があの忌まわしき記憶を受け止めきれるとは思えん。発狂して精神が犯されるのがオチであろう」
「ま、アンタがそう言ってるならそうなんだろうけど」

まったく、この姿になってから続くこの関係も飽きたものだ。
蝶は言いたいことだけ言うとまた、ふわふわと空へ舞い上がった。

「じゃあね。今度こそ成功させてよ、白龍さん」

鮮やかで美しい羽は太陽の光と同化すると瞬く間に姿を消した。
舞い落ちる鱗粉はそれまで青々としていた葉を腐らせながら、まるで宝石のように煌めいていた。