自分の脇に座り込んですすり泣く子供の頭を撫でようと手を伸ばしたところで、目が覚める。
……こうやって思い出せるように見る夢ってのはあんまりいいものじゃない。
夜は冷え込む。まだ未明の空を見上げて、こういうのは故郷を思い出すな、と思った。
師匠はどうしてるかな、なんて考えつつ起き上がろうとしたら、何かに引っかかったらしい毛布が思い切りはがれた。

「？！　さっむ！　なんだ一体……！」

さっさとまき付け直そうと毛布を引っ張ったところで、ふと手が止まる。
隣で別の毛布にくるまっているナユが俺の毛布の端をしっかと掴んでいた。

……エンブリオのくせにすやすやと……くせにってのもよくわからないが、今組んでる連中のエンブリオとはどうにも勝手が違う。

自分で考えて自分で勝手に動くわ喋るわ走り回るわ悪態をつくわ、…なんか散々な目に遇ってないか、俺。
今も毛布引っ張られていきなり冷気に晒されて……いやさっさと丸まろう。

欠伸をしながら毛布を取り返そうとしたが、あんまりしっかり握りしめているからなんとなく憚られた。

人が良い、甘い、とよく言われるが…その通りだと思う。
特に、子供には弱い。
……ナユが見た目通り子供かと言ったら絶対に違うんだろうけれども、
毛布の端を握って離さない寝姿はただの子供にしか見えない。（犬耳ついてるけど）

メルンテーゼに来てほとんどだまし討ちにあって契約してから数日、
ほんとに小生意気というかどうしてやろうかと思ったものだった。
……俗に言う人狩りってのに痛い目見てからだ、急速に懐き始めたのは。
かと思ったら、ここ数日は俺に敵意が向くだけで周りが見えなくなることもあるようで、それはそれで扱いに困ってる。

心当たりがあるとしたら、ナユが他の契約エンブリオの力を統括し始めたことだ。
最近エンブリオを使うのに負担が少ないと思っていたら、けろっと言いやがった。

「全部僕が取り仕切ってますから」

エンブリオは憑依させるとか、召喚するとかって形で使うのが典型的な使い方みたいなんだが、
こいつの場合始めからつきまとってるから他の奴らがどうなってるか、とか俺はよく分からない……。

「……あぁ、あの二人がそんな感じ、か？」

やっぱり毛布は奪い返して、それに丸まり直しながらふと思い浮かんだ顔があった。

確か、エンブリオではないが一人の精霊がすべて仲介してる…ような話をしていた。
そういう場合はどうなるんだろうか。

「……聞いてみる価値は……なくもないか」

今日にでもコンタクトを取ってみようか。
何かあればエンブリオであるナユはすぐ反応する。
そういうところはありがたい。
ギリギリまで寝かせて貰おう、と決め込んで、もう一度目を閉じた。

（過去経緯に耳を傾けつつ、興味津々という顔。左右色違いの瞳が楽しげに細められる）

（ふふっと笑いつつ、全力で遠慮されて）

（本当にやる気だろう、この顔は。異世界の基礎エネルギー談にはまた興味深そうな顔になる）

（続いた言葉に少しだけ厳しい表情で）

（お人よし、という言葉にはふふっと何時ものように笑いつつ）

（相手の難しい顔と続いた言葉に耳を傾け）

（けろりとした答えに、左右色違いの瞳が瞬いて。小さく微笑みを浮かべる）

（あまり細かい事を気にしない気性に見える割に、存外気にしていた案件だったのだろう。小さく礼を口にしてから、続く言葉には何時もの表情でふふっと笑う）

（相手の言葉に静かに耳を傾けてから）

（小さく肩を竦めつつ。戦闘民族という言葉に）

（知り合いに言及されて、自身の発言を思い出しつつ）

（首元に腕を回して何かを外して取り出し、掌の上に乗せたそれを見せる。一見すれば銀の懐中時計。表面に細かく彫刻のように紋様が刻まれ、アクセントにはシェリィの瞳色を模しているのだろう、深い赤と緑の小粒な石が飾られていた）

（垣間見えた剣呑な雰囲気に左右色違いはすっと細められて。口元には楽しそうな笑みが浮かぶ。沈黙の後、話を振られたアークが神妙な表情で）

（少しの沈黙の後）

（エンブリオの多重契約談に耳を傾けている２人。今度も話を向けられて、ふわふわと淡い光を放ちつつ浮遊しているアークは問いかけに少し考えてから）

（それらに耳を傾けてから）

（エンブリオの少年が唸り声を上げると驚いたように目をぱちぱち瞬きし）

（冗談めかすように言い）

（手をひらひら振り）