地下牢でラズロと対峙してから１日。
あの暗くてジメジメした場所から離れられたことに皆ほっとしていたが、
エンブリオの１人、エンジェルのデイジーだけは難しい顔をして考え込んでいた。

意を決してグレンダに話しかけたはいいものの、主語も何もない問いかけに彼女の契約主も返答に困っているようだ。

話し続けるデイジーの声を遮るように、ホワイトタイガーのスターの鳴き声が重なる。

そんなスターを何故かキッと睨むデイジー。
どうやらこの新しい仲間が彼女の不機嫌の原因のようだ。

完全な八つ当たりの後、仲の良いアキレアに助けを求めた視線を送るも申し訳なさそうに首を振るばかり。
彼女もあの時は必死で覚えてないとその目が語っていた。

他に頼れる者はいない。
仲裁役になってくれるパロロコンのガーベラは、久しぶりの水を堪能してきますね、と着いて早々に川へ向かってしまっていた。

渦中の虎は気持ち良さそうに喉をごろごろ鳴らしている。
まるで猫みたいだ、とデイジーは思った。


虎のくせに。猫の仲間らしいけど虎のくせに。
そんな風に猫かぶったって、あたしは騙せないんだから！
猫はもうリラがいるんだからそういうキャラはいらないのよ！

……あれ？そういえばリラはどこ？


イライラしたままよくわからない思考を始めていたデイジーは、ケット・シーのリラが周りに見当たらないことに気付いた。
いつもはグレンダの横で丸まっているのだが、今日に限ってその指定席にいない。
リラがちゃんとしないからあんな怪しいやつがグレンダの横に居座るのよ、と心のなかでリラにまで八つ当たりしながら奥に目を向けた。

リラは、あの場にいなかったもう1人のエンブリオ・キョンシーと共にいた。
正確には、悪夢にうなされるキョンシーの横で、いつものように丸まっていた。

マリーゴールド、マリーと言う名を付けられたキョンシーは、あれからずっとこの調子だ。

ラズロ、という名前はデイジーの忘れっぽい頭からは既に抜け落ちてしまっていたが、
あんなに自分を慕っていた配下を見捨てて逃げた彼の顔は、デイジーの記憶にはっきり残っていた。
そのまま放っておいたら死んでしまう、と半ば強引にネクターを与えて契約する形となったのだ。

デイジーは今でもその人を夢に見るマリーを見て口を尖らせる。
そんなに大事なら、何故この子は見捨てられたんだ。せっかく助けてあげたのに、どうして裏切った人のことばっかり言うんだ。

いつの間にここまで来ていたのか。完全に油断した。

全然くだらなくない。むしろさっきまで話していたことの本題だったのではないか。
だが、話の先が気になるので悔しがりながらも無言で続きを促す。

そう言い捨ててスターは眠りに行ってしまった。
肝心のことは誤魔化されたまま言いたいことを言われただけだったが、不思議と先程までのイライラは無くなっていた。

少し賢くなった気まぐれで幼い天使はそう呟いて自分も眠りに落ちたのだった。









〜翌日〜

グレンダは気付いているだろうか。
目の前の占星術師の瞳に、底知れぬ光が宿っているのを

すんご自信満々の文がそこにいた・・・迷子になってたのに・・・

薙疾はそう言って、王城……いや、王城の奥にそびえ立つ山脈に目を向ける。

薙疾の本音としては例えば兵舎の主や、森の魔王と戦ってみたいのだろう。
もしくは、自分との再戦の機会が伸びそうなのが悔しいのかも知れない。

それとも…仲間と一緒にいられないのが寂しいのだろうか？

笑顔で物騒極まりない事を言い出す。

でも、ただ偵察してくるよりは薙疾には似合っている。
そんな風に思えて、グレンダも釣られてくすりと笑う。

お姫様、とは言ってもなんだかあれだなぁ。もうオーラが違うような……、顔も綺麗だし、スタイルも良さそうだし……。ま、負けない！

とはいったけど、一応あたしもお嬢様なんだっけ？

ネクターを見つめながら、言葉を零す。

モクラはただ、相手を見つめている……

モクラは一礼をして立ち去った……

モクはある方向を指さしている……