私がゆっくりと目を空けた先は、暖かい毛布の中だった。

先程まで耳をつんざいた風の音はなりを潜め、凍え切った筈の体は随分と楽になっている。

ふと右手に違和感を感じ視線を逸らすと、自分と同じくらいの背丈の妖精が寄り添うようにして眠っていた。
どうやら今までずっと手を握られていたらしい。

なぜこのような状況になったのかをゆっくりと思案する。
そういえば私が砂漠を彷徨っていたとき、最後の力を振り絞って見えた小さな光へ向かった以来の記憶がない。
最後に見た光景は、力尽きて落ちてく最中に感じた暖かい感触と、人間の顔。

辺りを見わたすと布で囲われた空間、大きなテーブルの上にはこれまた大きいランプや食器が並べられ、布の隙間からは光が差し込んでいる・・・・。
おそらくここは人間が旅をする際に寝泊りするテントだろうと推察した。

ポツリとつぶやくと、先程まで静かな寝息を立てていた右手の主がもぞもぞと動き出す。

まるで自分のことのように安心する彼女を見る限り、悪い人ではないみたい。

そういうと彼女はふわふわと奥の方に飛んでいってしまった。

-------------------------------------------------------------------------------

後からやってきたのは想像通り、人間の男だった。
あまり人間にいい思い出のないせいか、さっきまで穏やかだった表情がにわかに強張ってしまう。

と、さっきの妖精の子と同じように言ってくれてる。
その表情は普段人間たちが私に向けてくるのと違ってとても穏やかなものだった。

私の気持ちを察したのか、さっきの子がひょこっと人間の胸ポケットから飛び出してくる。
きっとこの人は彼女の契約者なんだろう。
根拠はないけれど、なら大丈夫かなとほっと胸を撫で下ろす。

そう言いながらしっかりと私を見据えるその人は、多分本当に心配で言ってくれてるんだろう。
まだ話して少しも経ってないのに、なんとなく信用できる。そんな人だった。

このまま甘えちゃうことに少し後ろめたさを感じながらも、口を開いた。

私がそう話すとふたりは顔を見合わせたあと、突然笑い出した。
真剣に話したのに笑い出されたのでちょっとムスっとしていると彼は笑いながら口を開く。

一緒にいくってことは契約を結ぶのと殆ど一緒・・・・
突然何を言い出すかとも思ったが、彼の目は真剣そのものだ。

でもティルやティアたちの契約者さんと一緒に冒険してるって言ってるし、だったらこれから一緒に冒険できるってことだし。
でもでもこの人自身が二人の契約者ではないみたいだし。
でもでもでもこの人悪い人じゃなさそうだし、助けてくれて恩もあるし・・・・・。

もう・・・なるようになればいっか。

スッと手をかざしながら、太陽が赫々と輝く空を見上げる。
その日差しは確かにかつて甲板で浴びたものと同じかもしれないが……

おお、海の男がどうして乾燥した空気に慣れ親しもうか。
初めてと言える体験に、シーガルもすっかり辟易しているのであった。

デルフィニ？　文字通り茹ったよ。


＞ケンドリック

元騎士という庭師と戦い、惨敗を喫したのは記憶に新しい。
彼に勝つための景気付けというのであれば、さぞかし気分も乗るのだろう。
まぁ、それも無事にこの砂漠を抜けてからの話なのだが……

はて、この黒づくめの少女をどう量ったものか。
いやさ関係はあるまい。立ちはだかるというのだから、倒せばいいのだ、倒せば。
担いでいた銛を、軽く振ってから逆手に持ち変える。
銛を撃ち出すための構え。鯨捕りが誇りとする、戦の構えだ。

銛を素早く逆手に持ち変え、弓を引き絞るように右手は後ろへ左手は前へ。
深く腰を落とし、“漁”の構えを取った。