自分の呻き声で目が覚める。
また、夢を見た。嫌な嫌な夢だ。息が苦しくて、窓を開ける。髪を揺らす風にブルりと震えて、身体が汗で濡れている事に気付く。
あぁ、もう嫌だと、独り言が漏れる。
白い虎と契約してからだ。こんな夢を見るようになったのは。人を疑うようになったのは。

小人の老人は言う。今回お前に戻った感情は負のものなのだと。
怒ること。疑心暗鬼になること。人を憎むこと。
怒り狂った白の虎が、こんなモノお前に返すと、無理やり押し戻された記憶は、目の前で少女が消えるものだった。
その瞬間からだった。周りがとてつもなく、怖くなった。

もしかして、わたしは疎まれているのではないだろうか。
背が小さく、歩幅が狭いわたしが混ざっていれば、一日に進める距離は必然的に短くなる。
自分の考えをはっきり言う事も出来ない。そもそも、誰に何を伝えたら良いのかも分からない。
知識もなく、決して強くもない。
そんなわたしを、周りの皆はお荷物と思っているのではないだろうか？
小さいからと、本音を言えないだけで。本当は面倒だから出て行ってしまえばいいのにと、思ってはいないだろうか？

一度そう考えると、皆の声が怖くて仕方がなくなった。
「大丈夫？疲れてないですか？」と聞いてくれる言葉も。裏には「あぁ、さっき休憩したばかりなのに」なんて嫌味が込められているのではないか。
「早く大きくなれると良いな」なんて言葉には、「力がないなら早く強くなるか、出て行くかにしろ」なんて意味が含まれているのではないかと、考えてしまう。
そんな筈がないと思っても、振り切れない事が更に自分を追い詰めた。
本当にそんな事を考えていなければ、疑う自分はどれだけ最低なのか。そんな目で見てしまうわたしは、どれだけ汚いのか。

そんな事を考えてしまう自分が唯々嫌だった。
老人は、誰もがそうやって疑う心を持っているのだと言う。
それを抑えられるのは、他にもたくさんの感情があるからで、お前もそのうち心が成長すれば、大丈夫になるのだと。

それでも、こんなに苦しい事が無くなって、どんよりとした心が晴れる日がくるとは、今は到底思えなかった。
こんな気持ちにさせる元凶を作ったマザーすら、憎く思えた。

寒さに震える身体を再び毛布にくるめる。目を瞑る。
夢の中で、少女が助けてと泣く。こんな世界が憎いと、喉を震わせる。

少女の声を聞くのが怖くて、耳を塞ぐ。


再び暗い夢が始まる。

子供は面白い事を思いつくものだ、と秘かに笑う。

何かかっこつけようとしてポーズに悩んでいるようだ。