〜とあるサラマンダーの手記〜

砂地にてアルミ・カーンなるエンブリオが捕獲されているらしいとの噂を聞いた。
どうやらそのエンブリオは物理攻撃者にとっては非常に有能とのこと。
というわけで俺たちはそのアルミ・カーンとやら捕獲に向け、意気揚々と砂地へと赴くに至った。
乾ききった大地に突き刺さる灼熱。
ここは極楽か。
惜しむらくは俺が燃やすことのできるものもそうそう見つからないくらいだ。
ともあれ、鼻歌でも口ずさみながらスキップでもしてしまいそうだ。
鼻も口もないという事実はこの際脇にでも置いておこう。
細かいことを気にすると大きくなれないぞ？少年。

「ちっくしょぉ…、なんでアルミ缶捜しにこんなとこに来なきゃなんねえんだよ」

俺の横をぐったりしながら歩いている少年が愚痴っている。

…ふむ、ひととはまことに難儀だな。こんなに快適なのに

「うっせえ、おめえだって水辺で似たような顔してんじゃねえか」

…うっ…そ、そこはそれだ。てゆうか少年、何故俺の表情がわかるのだ？
…俺はこう見えてポーカーフェイスにおいて右に出るものなきと呼ばれたサラマンだぞ

「何だよそれ、知らねえよそんなこと。てか丸わかりだぞ」

なんということだ。
声を発さずに言葉を交わせるどころか、我の一喜一憂すら感知しているとはっ…恐ろしい子！
まあ、それに関しての対策はおいおい考えるとしよう。
それはともかく。

…俺の表情のことはこの際どうでもよい。ところで少年。

「なんだよププカ。暑いんだから話しかけんなよ」

…まあまあ、今日の俺は気分が良いのだ勘弁しておいてやろう。
…少年はアルミ・カーンを知っておるのか？

「アルミ缶ぐれえ知ってらぁ。オイラの村にはねえけど、旅のモンが手土産に持ってきたりしてるからな」

…持ってくる、だと？

「なんだよ、そんな驚くほどのこっちゃねえだろ？そりゃ、オイラんとこはおもいっきり辺境だけどよ。
今の世の中、なかなか便利になってんだぜ」

…いやいや、便利とかそういうことではないだろう。アルミ・カーンを持って来るだと？？

「売ってねえんだから持ってくるしかねえだろうよ。都会には自動販売機とかこんびにとかいうものもあるらしいけどな。」

…こんびにとはなんだ？じどう…？自動か…自動で販売する機会のことかっ！？アルミ・カーンを自動で販売するのかっ？」

「こんびにってのはよく分かんねえけど何でも売ってる都会のシンボルらしいぜ。自動販売機ってのはアルミ缶だけを売ってるわけじゃねえ。当然中身だって入ってるさ。まさか空じゃあ売れねえだろうよ。実物を見たことはねえけどな。」

…ちょっと待て。いよいよ分からんぞ。空のアルミ・カーンとは一体何のことだ。アルミ・カーンを空にするのか？くり抜くのか？

「変なこと言うなよ。アルミ缶の中にはじゅーすっていうそりゃ、とびきり美味ぇ飲み物が入ってたりするのさ。しゅわしゅわ泡の出る飲み物もあるぞ」

…アルミ・カーンをくり抜いた上に泡の出る美味い飲み物を入れて機械に詰めて自動で売るのかっ！
…ましてやそれを買うのか、少年の世界ではっ！？

なんということだ。まさか他の世界ではそのような残忍な所業がいとも当たり前のように行われているというのか。
それとも、それは少年の住む世界だけの習わしに過ぎぬのか。
そして俺はもっと恐ろしい考えに至った。
聞くべきか、秘めるべきか。
俺は意を決して少年に質問をすることに決めた。
たとえ縁なき世界のこととはいえ、知らずに過ごすことは俺の人生の汚点にすらなるだろう。

…ちとものを尋ねるがよいか、少年

「なんだよいきなり。今までだってさんざん聞いてるじゃねえか。言えよ、暑いんだよこっちゃ」

…無駄に暑がっている場合ではないぞ、少年。これは少年の世界の存亡に関わるかもしれぬ重大な問題なのだ。

「世界のそんぼうって…困ってるのはおめえんとこの世界じゃねえのかよ。いいから言えよとっとっと」

…う、うむ。

俺としたことが動転して、思わず声を荒げてしまった。
こういう時こそ落ち着かねばなるまい。
はい大きく深呼吸ー。
すー……はー……すー……はー……
よし。

…では聞くぞ。

「…おう、かかってこい」

…まさか、少年の世界では
…サラマンダーの中身をくり抜いて飲み物を詰めていたりもするのかっ！？

「………」

…さあ、どうした少年っ。答えられぬと言うのか。沈黙は了承の証などと洒落たことをしようというのか

「…いや、そうじゃなくて」

…ならばその身にやましい事でもあるというのか

「えっとな、ちょっと言いにくいんだけど」

…さあ言え、言うのだ。俺はそう簡単には動じたりせぬぞ

「おめえさあ…」

…うむ

「馬鹿だろう。んなこと誰がするかよ。アルミ缶の話じゃねえのかよ」

…だからアルミ・カーンがそのような扱いをされるのであれば、その他のことも想像に難くない

「だからなんでアルミ缶とサラマンダーが一緒なんだよ」

…いや同じだろうよ、同じエンブリオだぞ

「だからってアルミ缶だろ？」

…おう、アルミ・カーンだ

「…ちょっと待て。ア・ル・ミ・か・ん、だよな」

…ア・ル・ミ・カーンだ、何を言っているのだ、少年

「なんだよそのカーンって」

…カーンはカーン、アルミ・カーンだ

「………え？」

…………え？

少年と俺が同時に首を傾げた。
ややあって、少年が先に口を開いた。

「よくわかんねぇけどさ、見りゃ分かんだろ」

…そのようだな。話の続きはその時にしようか。

「それにしても、暑いなここは」

…うむ暑くて快適だな

「おめえとは話が合わねえな」

…気が合うな、俺もそう思ったところだ


そしてその日の探索の結果、運命の女神とやらはいとも簡単に我らの期待と願いを裏切った。
色んな意味で話題沸騰待望のアルミ・カーンとは出会えず。

俺と少年はPTに一時別れを告げて砂地探索を続けることとなった。

そして翌日。
俺たちは苦難の末、出会ったのだ。

「なんだありゃ？あの、頭に缶かぶったテラテラしたやつは」

…なにを今更驚いているのだ、少年

「いや驚くって。だからなんだよあれ」

…なにを言っているのだ。あれこそアルミ・カーンではないか

「アルミ缶、だろ？探してるの」

…アルミ・カーンだぞ。カンなどと縮めて呼んでは失礼というものだ

「………」

…どうした、少年。あれを捕獲すれば、この砂地とはおさらばだ。少年の世界ではあれに飲み物を詰めて売っているのだろう？

「………ぜんぜんちがうじゃんっ！？なんかかっけーけどさぁ！！」


何が違うのか、落ち着いたらもう少し語り合わねばならぬようだな。

残念そうな一瞬の顔を見て、ちょっと悪かったかなと思い。

悪人も悪事も分かりやすいとは限らないのよね。と、心の中でのみ呟いた。