Melntese冒険日記 十二日目 「少女は如何にして魔法使いとなりし乎」


　昔々、或る処に一人の少女が居ました...

　彼女は血の連環に囚われていましたが...
　熟慮の末、その連環を受け入れる道を選び出しました...

　しかし、彼女がこの連環に飲み込まれることは、別の運命によって定められていました...
　その別の運命へ身を委ねたとしても、さらにまた別の宿命に囚われてしまいます...

　結局は、其の輪を何処まで広げようと、何れは簡単に絡め捕られてしまうのです...


　血の論理が御理解頂けるかしら...？
　血の連環は例外を赦さないのです...

　而して彼女はどのような運命を辿ったのでしょうか...？

　そんなことはどうでもいいのです...
　然したる問題ではありません...

　星々の光は凡てを知っているのですから...


　幾度となく 誕生 と 消滅 を繰り返す世界...
　全ては予定調和のうち...

　血の論理が御理解頂けたかしら...？
　血の連環は例外を決して赦さないのです...

　結局彼女は血の連環からは逃れられませんでした...
　されど憐れむ必要はないのです...


　?私?も貴女も、誰一人として逃れられないのですから...


　めでたし、めでたし。


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それは、今から遡ると20年ほど前のお話になります。

変哲のない地方都市に住まう一人の日本人の青年が居りました。
彼の姓の頭文字を取って、彼に"Ｋ"君としましょう。

Ｋ君が高校生活の二年目を迎えた時でした。
高校一年目の喧騒も落ち着き、高校三年目の受験狂想曲とは無縁。
華やかな高校生活の中で、最も穏やかな時間の流れを感じることのできる歳です。

そんな高校二年のある日突然、彼はロンドンへ渡航することになりました。

それは、国際交流を謳う、県が予算を注ぎ込んだ教育事業の一環。
いわゆる 交換留学生 というものです。

さて、Ｋ君自身に特に海外志向があった訳ではありません。
当時流行りつつあったグローバリゼーションの流れには関心を持たず、
好景気の煽りを受けてブームとなっていた海外旅行に憧憬を抱いていたわけでもありません。

特に英語の成績が良いとも思っていなかったので、海外へ行ったところで、と思ってすらいました。
……彼の頭の良さは、実は周囲が認めるところだったりしたのですが。


それはともかく、彼が何故、そのような事態となってしまったのか。

これは本当に『魔が差した』としか言いようがありません。
本人に問いただしても、当時の心境は記憶にないと返答するでしょう。

本当になんとなく、ただなんとなく、交換留学生の候補に応募してしまったのです。
そして、その「なんとなく」が偶然を呼び、見事、県内でも数名しかいない交換留学生に目出度く選ばれてしまいます。

しかし今思えば、結果的にそれは、彼はおろか彼の子孫代々の運命をも大きく変えていくことになります。


斯くして、一人の日本人の青年が、ロンドンへ留学することになりました。


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少女が口を尖らせる。

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Ｋ君のロンドン生活は驚きの連続でした。

青天の霹靂というか、まさに雷を打たれた衝撃のようだったと後に述懐しています。
彼がロンドン生活の拠点としたのは、学校のあるシティ・オブ・ウエストミンスター。

その街は、旧跡の多いウエストミンスター地区あり、繁華街であるピカデリー地区あり。
彼が足を運んだかどうかは分からないが歓楽街であるソーホー地区あり。
……そこはまさに、ロンドンという街の全てを凝縮したような場所だった。


全身で ロンドン を感じただけでなく、最も衝撃を受けたのはパブリックスクールでの生活だろう。
学友たちと触れ合う機会も素晴らしいものだったし、隣接する寺院が醸し出す荘厳な雰囲気。
そして、古びた図書館に眠る、宝の山の数々……。

自称「英語が得意ではない」ながらも、持ち前の能力を駆使して、洋書に噛り付く日々が始まった。


……その図書館の片隅で、Ｋ君は一人の少女と邂逅する。

寄宿舎を一番最初に飛び出して、一番乗りで図書館の門を叩く。
そして、一限目の始業の鐘が鳴るまで、朝の済んだ空気と、洋書の独特の匂いを吸い込むのが好きだった。

その日も、Ｋ君がいつものように早朝の図書館に潜り込んだ時だった。
今日も一番乗りだと思っていたはずの図書館には、先客がいた。


窓辺の席に、一人の少女が座っていた。

膝の上に茶色の革表紙の本を広げ、少し前屈みで小さく座るその姿。
後から入ってきたＫ君には一瞥もくれず、一心に本を読んでいた。

その少女は……とＫ君はその時記憶を辿る。
確か、同じクラスに居たハズである。

普段から女生徒と仲睦まじいことは無かったが、それにしても印象の薄い娘である。
あまり話題の輪に入ってくることはなく、一歩引いて黙って微笑みを浮かべている印象しかなかった。

Ｋ君はその時、初めて少女の姿をまじまじと観察することになった。
その学年にしては三歳ほど幼く見える顔立ちに、体格も同年代の女の子と比べても小柄。

柔らかそうな髪が肩の辺りまで伸び、少女が本のページをめくるたび小さく揺れる。
その琥珀色は、窓辺から差す朝の柔らかい光に包まれて、なんとも言えぬ輝きを放っていた。


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両親のことを話すときの少女はすごく嬉しそうだ。

そう言って、白兎がメグの方を見やる。

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Ｋ君とその少女――姓の頭文字を取って仮にＡさんとしましょう。

Ａさんの出自はアイルランドに在ることは、Ａさんの娘が先にも申した通りです。
しかし、彼女はＫ君の問いに何故「アイリッシュ」ではなく「ケルト」と答えたのか。

実を言うと、敢えて「ケルト」と答えたことが大きな意味を持っていたのです。


……ええ、そのままの意味です。


つまり、彼女の血筋は単なるアイルランドの民だったわけではなく、伝統あるケルトの民だったのです。
もっと言えば、古のケルト魔術を代々伝承してきた、魔法使いの血筋だったのです。

そんな彼女と東洋人の青年の間に生まれた子が、偶然にも女の子だった。
……いや、書の記述の言い分によれば、これは偶然ではありません。


これは 血の連環 です。

少女の運命は、少女がこの世に誕生した時から既に定まっていたのです。
……そして、血の連環は一切の例外を赦さない。

予言書に記されているように、少女の運命は既に生まれた時から始まっていたのです。


　では、血の連環に囚われた少女は如何にして魔法使いとなりし乎？


それはまた別のお話……。


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参照引用：Sound Horizon 「書の囁き」　by 『Chronicle 2nd』

そっと手を伸ばすと、控えめに兎をもふりと撫でます。
触れた彼女の手は、まるで死人か何かのように、ひどく冷たく感じます。

　クロエも満足したのか、アルから手を離し解放した。

　クロエはメグが取り出した薄くて四角い機械に興味を持ったようだ。

魔法使いの少女が杖を ぎゅっ っと握り締めた。

従者たる白い兎がベストの内ポケットから懐中時計を取り出した。

兎の吐息を掛け声に、少女はすぐさま呪文詠唱を始めた。

少女は振りかざしていた杖を下ろし、一息つきます。