「本当にあれでよかったのでしょうか？」


彼女が部屋を立ち去った後入れ替わりに入ってきた男が言う。
部屋の主は先ほどと変わらず座ったままだが、表情は少し堅い。
彼を一瞥すると男は眼を閉じ、少し苛立ちの混じった声で彼に言う。


「・・・この部屋に勝手に入ってくるなと言ったはずだが?」


彼は彼女とは違い、望まれてこの部屋に来たわけでは無いらしい。


「すみません、お嬢様があまりにも不憫だったもので・・・」


少し申し訳なさそうな振りをするが彼はまだ言葉を続ける。


「お嬢様は大変聡明な方です、確かに当主としての資質はありませんがお嬢様なら・・・」


最後のほうは蚊の鳴くような声だったが彼は訴える。
彼自身もわかってはいるのだ、それが最善であるということが。
それでも言わずにはいられなかったのだ、多分この屋敷の人間全員が思っていることを。


「長い間あいつを任せて悪かったとは思う」


「だが決定に変更は無い、明日からお前にはあの子に付いてもらう」


男ははっきりと言い切る、それは彼自身に言い聞かせていたのかもしれない。


みんな彼女に期待していた。


彼女の持つ才能が終わることを皆悔やんでいた。


それを変えられないことも。


「頼んだぞ」


そういって男は立ち上がり部屋を出る。



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彼は誰もいなくなった部屋の中で誰に言うでも無く呟く


「・・・・・・・・・・・・実様に、花お嬢様の代わりが務まるのだろうか」