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　銀の幼子が見ていた。
　何が起きたのかわからない、といった風体で呆然と佇んでいた。
　俺も、何が起きたのかわからなかった。

　俺は死んだはずだった。
　捨て駒の暗殺者として、組んでいた女と共に殺されたはずだった。
　四肢はちぎれ果て、身体中何もかもが肉片と化して、間違いなく俺は死んだはずだった。
　それなのに。

　銀の少年。紅の一粒。右目は赤黒くまだ新しい傷跡を残している。
　少年が、死んだ俺を見ていた。

「しんだの？」
――死んで、いる。
「でも、そこにいるでしょ」
――……ああ、そう、だな。

　確かにそうだった。俺は死んだはずなのに、意識だけが、不思議と残っていた。悔いは何もなかったはずなのに、何かに捕えられるようにして、浮遊する個の意識を繋ぎとめていた。

「てつだってほしいんだ」
――死んで、いる、俺に、か。
「だれでもいい。てつだってくれるなら」

　子供の応答はどこまでもはっきりとしていた。まだ十にも満たないような幼児であるのに。
　呆然としていた次の瞬間には、もう何もかもを理解したかのように、俺に声をかけていた。

　――今、思えば。
　俺を捕えていたのは、この子供の求め、だったのかもしれない。

「きらいだったひとたちも、だいすきだったひとも、みんなしんだ。ぼくだけいきのこった。
　ぼくはいきなくちゃならない。きらいだったひとたちと、だいすきだったひとのために」

　あれから、何十年、何百年が経ったか。
　俺は今も、その『子供』の傍にいる。

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　少年の唇から、言葉の尾が切り離されるまで、数えるには長い程度の時間が掛かった。
　その間、『呪術師』は顔に微笑みを貼り付けたまま、彼の『望み』を待っていた。
　歯切れ悪く、訊ねられたそれは、ある種の『禁忌』とも言えるもので。

　それでも、『呪術師』は、当たり前のように声を投げ掛けた。

　甘ったるい、撫で付けるような声。それに紡がれる言葉は、自然で、途切れなく。

　『殺す』という単語にすら、躊躇いが無かった。

ひとつ頷き、しかしそれ以上言葉を紡ぐ事は無い。
ふと辺りを見回し、青年を改めて見詰めて首を傾ぐ。

純粋な興味からの疑問。辺りにそれらしき影は無い。
腕の中へと収まっていたヴェスのエンブリオたちも一様に首を傾ぐ真似をする。

じぃ、と半目で白くて赤い目を見上げる。

彼が何を思ってそう言ったのかまでわからないまま。

色とりどりの糸に呪符を織り込んだ、呪いの房は病や怪我には効果はあるが、

それ以外には、あまり効果はなさそう、だ？

こっそりと鈍器たるエンブリオ（カメ）を手にしている。