―ただの日記―






―○月×日―




花冠、フローラとここで別れる事になった。
彼らもそれぞれ行くべき道がある。
また、一緒になることもあるだろう。

俺はまたなと一声かけ、トラックのアクセルを踏んだ。








―同日―

さらに、タイガーとも別れる事になった。
話はこういうわけだ。


どうやらタイガーの裏情報によると、ここいらに城の地下に通じる道があるらしい。
しかし、タイガーは軽トラ。横幅制限に引っかかると前に進めなくなってしまう。

そこで俺の出番である。
この何でもない屋が偵察役として、先行することになったのだ。

―同日―

迷子になった。










―さらに同日―




『人生は死と隣合わせである』




誰が言ったか知らないがうまいこと言ったものだ。
まったく、俺はこの言葉を痛感している。




俺の場合はベルと隣りあわせだったわけだが。




すごい怒られたうえに、魔術をぶつけられまくり、殺されるかと思った。





危うく地下牢の道を見つける前に、三途の川の入り口を見つけてしまうところだったな。





隣のエンブリオが死を運んでくるとはまったく怖い世の中だ。








―さらにさらに同日―




当ても無く彷徨っていると、少し開けた場所にでた。
森を抜けたのか、空中から降りそそぐ光が暖かい。

だが、そんなことよりも重要なことに気づく。



視界の先に写るもの。
あれは人影。



しめた。道案内を頼める。一揆の参加者なら地下牢に通じる道も詳しく聞けるかもしれない。

俺の声が届いたのか、人影のひとりが振り向いた。
お、この犬耳に、穏やかなスミレ色の瞳。
ラノカネ君ではないか。

言いかけた俺の足元にどすっと何かが突き刺さる。
視界を下に降ろす。見るとそこには矢が突き刺さっていた。



なるほど、前言撤回だ。
全然助かってない。



―さらにさらにさらに同日―




ラノカネ君の「逃げろ！！」の一声で、俺たちは一目散に逃げ出した。状況は把握できてないが、俺もラノカネ君に賛成である。「三十六計逃げるにしかず」。迷ったら逃げるのが得策だ。

どうやら、追手の狙いはラノカネ君であるらしい。他の二人は俺と同じように巻き込まれただけなのだろうか。一人は女性。やたらと背がでかい。俺より高い。燃えるような朱の髪が印象的だ。

もう一人は少年。先ほどの女性と比べてひどく小さいように見える。つれている小さい小人みたいのはエンブリオか？

俺はそんなことを考えながら、ひたすら走っていた。
目指すは森林。
あそこなら弓矢での攻撃も難しいのではないか。
希望的観測だが、まあどちらにしろそちらに逃げるしかない。



―さらにさらにさらにさらに同日―


その結果、何故か俺たちは地下牢にたどり着いていた。

話の顛末はこうだ。

俺たちは無事森林まで逃げることに成功していた。

追手からも少しは距離が取れたかと思う。
その道中で小さな少年が転んだ。
転んだ先は木々の茂み。その中にまともに突っ込んだ。
大丈夫かと駆け寄る俺たち。そして俺たちは驚いた。


階段である。木々の茂みに巧妙に隠された地下牢の入り口はひとりの少年によって暴かれたのだ。



さっそく階段を下りる俺たち。



ここまでは追手もこないだろうということで、一息つくことになった。
俺はラノカネ君とは顔見知りだが、他の二人は始めて会う顔である。



女の名前はフィンヴェナハと言った。どうやら人を探しているらしい。
その特徴を聞くとある人物に思い当たった。というかさっきまで一緒だった。

花冠である。どうやら彼女の相棒は花冠らしい。

では、あの花冠の怪我は喧嘩別れの傷だったのだろうか。あんなに血みどろになるまで喧嘩するなんてずいぶんバイオレンスなコンビだな。

しかし、このフィンとかいう女性。ただの人間ではない。
気配からしてまったく違う。この世界でであったのは二人目だ。

ドラゴンである。

このメルンテーゼではドラゴンは珍しくないのか。



そして、小さな少年。彼はティルムというらしい。

彼はフィンとは違い普通の人間である。
そしてエンブリオをつれている。ノーフというらしい。

彼がなんであの場所にいたのかは定かではない。そして一揆の目的も。
わかることがひとつだけある。

ノーフはかわいい。


そしてご存知ラノカネ君だ。
追っ手から無事に逃げれたというのに、彼はどうにも不機嫌そうだ。

理由はすぐにわかったが。

「おい、貴様」

フィンがラノカネ君に声をかける。
不機嫌そうに顔を上げるラノカネ君。

「…なんだよ」

「奴らは一体何者だ。何故奴らは貴様を襲う？」

「なんであんたにそんなことまで喋らなきゃなんないんだ」

「奴らが貴様を狙っていたことはわかる。我はその間に偶然居合わせただけだ。
貴様に付き合って、時間を無駄にしたのだ。質問のひとつ罰はあたるまい」

「別に頼んで着いて来てもらったわけじゃない。あんたがただ僕に近づいて勝手に巻き込まれただけだろう、教えてやる義理なんて無いね」

「貴様…」


どうもこのふたり、初対面ではないらしい。
しかもすごく仲が悪いときたもんだ。

「あ…、あの、二人とも喧嘩は…」

ティルム君も割ってはいるが、二人の険悪な雰囲気は変わらない。

こんなときにどうすれば良いか。
はっきりいってまったく問題が解決する糸口はみえないが、せっかく4人でチームを組むことになるのだ。やることは決まっている。

こうして地下牢は一日パーティー会場と化した。
新王も地下牢まで乗り込んできてパーティーを開く奴がいると知ったら、震え上がるだろうな。





この俺の恐ろしい料理力が我ながら怖い。




(Eno353ティルム君　Eno985フィンさん　Eno1161ラノカネ君お借りしました！)

トートの話を聞いて、何か感じるところでもあったのだろうか。
どちらにせよ、全く変わらない無表情のままだったけれど。

　鳴き声と共に、首肯を返した。
　一応、それなりに警戒心は解けたらしい。

　しれっと言い放つトート、そういえばタックルを連打してきたラルフ。
　常識とは何か。少女は混乱していた。
　それから、ベルの言葉を聞いて、きょとんとした表情になって。

　依頼についての返事を聞いて、少しだけ顔が強張った。
　が、それから、彼の流儀を聞いて。

静かに刀を抜き、構える。
そのまま、敵前へ向けて歩を進めて行く。