「どうかした？」と尋ねられ　はっ、と眼を外し、反射的に脅えた声を返す。

イコンが料理の注文を終えたのを見て、ようやくそこで
思い出したのか、はじめて礼が口から出た。
そうしてイコンの言葉をじっと聴いてだまったまま、何度か頷いて見せる。

…
運ばれてきた料理はなんだったろうか？
何であっても少女は料理にひとくち、ふたくち、口をつけ、
そのあとはよほどおなかがすいていたのか
しばらくは会話も耳に入らない様子で、その料理を食べ続けるだろう。

泣きながら料理を口に運ぶ。
次第に歯の根が鳴って上手く嚙めなくなり、食事の途中で、食器を取り落とししばらくはそのまま泣きじゃくってから
再び、残りの料理をすべて平らげようとする。




…
腹を満たせば、より落ち着きを取り戻すだろう。手当てをしてもらえるようなら、大人しくイコンに身を預ける。
最初に比べると、言葉もどもらずに出るようになっていた。

少女はまだ、迷っていた。
イコンには「好きで巻き込まれた」とは言って貰ってなお、恩義を感じるからこそ
頼ってしまっていいものかわからず、顔を曇らせてしまう。
単純に、まだ逃げてきたものへの恐怖が強く残っていて、舌が思うように動かないのもあった。

恐慌状態の解けはじめた少女は、逃げる最中に自分の手を強く握ってくたイコンの手、
それからその指先の震えを思い出して、自分の手を見詰めながら　ポツリと呟くように一言だけ言う。

……と言ってるらしい。

内線連絡から数刻、部屋のドアをノックする音が３回
「ルームサービスをお持ちいたしました」と聞き覚えのある声

ドアを開けるとそこに居たのは普段の給仕ではなく―――

鶏肉と葱の入った五分粥と暖かい茶、菓子などを載せた盆を差し出し
相手が盆に手を添えたと同時に、小さく、唸るような声で