あの人にはもう会えない。
時が過ぎてしまったから。

あの人にはもう会えない。
もうあの瞳には私は映っていないから。

思いが募る。降りやまない雪のようにさらさらとさらさらと積もっていく。
忘れなければと自分で思う。でもあの人のことを忘れることはできない。

あの人と交わしてしまった。
また会うことを。
でももう会えないとわかってる。
あの言葉は嘘だと分かっている。
でも忘れられない。


私は変わらなければならない。変わらなければならないの。
あの人のこともあの子のことも皆忘
私は既にあの頃の私ではない。
私は雪火女。雪の降りし夜を照らす妖怪。

泣ければ楽になるのかな。
でも泣けなかった。代わりに山が泣いてくれていた。

会いたい。
会いたい。
でももう会えない。
ああ、どうして？何故こんなことに？
全ては私の所為。あの人の傍にいたかっただけなのに。
あの人とずっと過ごしたかっただけなのに。
ああ、このまま雪になって溶けてしまえばよかったのに。


今日も山が泣いてくれている。
ここは雪哭きの山。
私が照らす炎はあの人に知らせるため。

私がここにいることを。

氷面に僅かに色を映す自分の色。しぱしぱと見渡せばそれが幾つも重なる。

少し予想外だったのか、息をついて氷を一瞥した後、雪火女を見遣る。

プラシーボ効果に似たものだろうか。能力、体外にまで発露するものも確か何といったか……。
頭をふるると軽く振り、ハマりかけた思考を救い上げる。
より冷ややかな感覚。傍に近づけられたそれを、思わず指を突き出して触れようとしてみたり。

考えるのは止めた。自分はその筋の人ではないし、考えるだけ無駄だと。