――招待状に導かれ、
たどり着いた先にあるのはお城だった――
「……」
確か招待状には敵が王とか書いてあった気がするのだが……
(王は城にいるものよね。
――王が複数いるのならともかく、
王が一人と書かれていた気がするのだけど……
……
あら、まさかもう終わる所なのかしら。
だとしたら興醒めね。
――過程こそが楽しいというのに。)
まぁ、折角来たのだからと魅月は城へと近づいていく。
城の前には大量の人がおり、
一喜一憂する様と共に、その更に奥から声が聞こえて来た。
「一揆に参加の方は順番に城の中庭の方へ来て下さい！」
声から察するに女性の人らしい。
もっと近づいて城の中庭に移動すれば誰の声なのかは分かるだろうが……
(……まだ始まってすらいなかった、と。
という事は……
まぁ、大名の城といった所なのかしらね。
となると……
……一体どんな規模なのかしら。
その王様のお城は。
楽しみね……
まぁ、並んで待つのは苦手だけど……
――私も並びましょうか。
早く並ばないと大変な事になりそうだし。)
知り合いという訳でもないでしょうし、
と誰の声なのかは考えないようにして、
魅月も他の人達にならうように静かに並ぶ。
気配を抑え、
目立たないようにしながら。
――とはいっても……
セーラー服姿の女性という事で完全に目立たないなんてことはないのだが、
それをいうならば、
もっと目立つ人達は一杯いる。
そして、次々と庭に入って行く人を眺めながら、
出てくる人には二種類居る事に魅月は気づいた。
一つは普通に自分の足で出てくる人間。
もう一つはたたき出されるようにして出てくる人間。
恐らくは前者が合格者で、
後者が失格者なのだろう。
……そして、遠くの声を拾わせたところをみると、
大体において、
失格した人間というのは呼ばれた人間ではなく、
この世界の人間が多いらしい。
(呼ばれるには呼ばれるなりの理由がある……
戦える力を持っているものばかりとは限らない。
けど、ここで敗れるような人間では、
この先生き抜けない……
……
優しさなのかしらね。
態々実力を測るなんて。
……やれやれ、ね。)
流れるように列が前に進んでいく。
とはいっても、前に数百単位の人が居る為、
暇つぶしの為に携帯ゲームを始める魅月。
並んでいる間実に暇をもてあますとはいえ、
緊張感というものが全く存在しない辺り、
これに合格しようが失格しようがどうでもいいのかもしれない。

――暫く携帯ゲームを弄りながら魅月は順番を待っていると、
とうとう魅月の前の人物がいなくなり、
魅月の順番が回ってくる。
それを確認すると携帯ゲームの電源を切り、
携帯ゲームをしまう。
「――さて、と。」
そろそろ自分の順番だ、と深呼吸をする魅月。
別段気負うつもりもなく、
自分が何かをするわけではないが、
気構えだけはしっかりとする為である。
そうして、
「次の人ー。」
魅月の順番が回ってくる。
その声を聴くと同時に足を踏みだし――
城の中庭へと足を踏み入れる。
そこにいたのは、
麦わら帽子をかぶった赤い髪の女性。
素朴な魅力に溢れているといってもいいだろう。
「初めまして、私はルリアンナ。
　この一揆を影でサポートする参謀！
　ルリでもアンナでも、好きに呼んでね。
　一揆に加勢してくれるのよね？
　ありがとうっ！！」
元気で威勢のいい声もまた交換がもてる、
そんな彼女に対し魅月は――
「伊賦夜魅月よ。
　……じゃあ、ルリルリで。」
「いや、それはちょっと……」
「じゃあ、アンアンにするわ。」
「いやいやいやいや！
　それはもっとまずい気がッ……！」
「……仕方ないわね。
　ルリアンナにするわ。
　で、招待状は貴女が送った……でいいかしら。」
ルリアンナをからかい、
適当な所で切りあげて招待状をルリアンナに渡す。
「仕方なくないと思うんだけど！？
　コホン……
　ともあれその通り、私が送り……
　あれ、これ私が送ったのじゃない……」
「あら、そうなの。」
「……ええっと、
　きっと誰かが奥ってくれたのね！
　一揆に加勢は……？」
「するわよ。」
招待状に首を傾げながらも、
一揆に参加するか期待の眼差しを浮かべるルリアンナに、
承諾しながら魅月は招待状に思案を巡らせた。
(――最も、加勢はするけど基本は観光、
期待にはそえないと思うけれど――
しかし、あの招待状、あの子が把握していないのだとしたら、
この世界の人間で送れるとしたら――
限られてくるはずよね。
……まぁ、でも――
もしかすると……
王、あるいは王に近しいものの存在の仕業かもしれないわね。
一揆を推奨しながら、
その実、和を乱し、
一揆する者達を狩る存在。
勿論、王の側の者達を狩る事もあるだろうけれど、
王の援護ともなりうる者達は存在する。
――事実――
私にはその気はないけれど、
私ならばそうしかねないというのも確か。
――面白くなってきたわね。)
結局の所、答えは何も出なかったし、
それが何を意味するのかも分からない。
けれどもただ一つだけ分かった事がある。
それは、
実に面白くなりそうだという事。
故に、自然と魅月の顔に笑みが浮かんでいた。
そんな様子に気づく事はなく、
ルリアンナもまた疑問に思っていた。
エンブリオらしき存在とはもう契約しているようには見える。
けれども、
常人――
多少は戦えるのかもしれないけれども、
魅月自身の力は其処まででも無いように感じられ、
直にでも死んでしまいそうに感じたからだ。
しかし――
「あら、エンブリオとはもう結んでいるのね。
　だったらまぁ大丈夫だと思うけど……
　念のためっ
　……ラルフ！
　ラールフー！！
　いまこっち来れるー？」
どうせ試すのだと、ラルフを呼ぶことにした。
エンブリオと結び力を得れば戦えない事なんてないはずなのだから。
そんなルリアンナの声に応えるように
隻眼の大男がゆっくりとルリアンナの後ろから歩み出てくる。
「――貴方がラルフ？」
そんな大男に向けて確かめるように問いかける魅月に、
「おうとも。
　しっかし……
　……ふぅ、今日は増援が多いな！
　さて、まずは腕試しだ。
　ネクターも多くないが……
　何より、無駄な怪我人は減らしたいからな。」
笑いながら頷くと拳を構える大男――ラルフ。
「あら、ネクターで回復しながら全員を試しているのね。
　それはそれはご苦労様。」
「そういうこった。
　何、これが仕事だからな。
　後もつっかえてる。
　ルリアンナ！」
「はいはい。
　っというわけで、
　貴方の力……見せてちょうだい！
　十分な実力なら、
　ネクターを預けるわ。」
ルリアンナがそういうと、
ラルフの表情が引き締まる。
――どうやらここから先は有無を言わさぬ戦いになるらしい。
「さぁ、精一杯楽しみましょう？
　勿論、受けてもらえるわよね？ 」
「手加減なんて生意気なことすんなよ？」
二人の戦いが始まる、だが――
魅月は構える事もなく動く事もない。
「手加減するなよといっただろう！」
それを、油断とみたか、慢心とみたか、
猛然とした勢いで突っ込んでくるラルフ。
「――」
そんなラルフの皮膚が突然裂けるも、
ラルフはひるまず突っ込み――
「どおぉるぁぁッ！！」
見えざる霊を突き破り、
魅月本人へとその強靭な肉体を叩きつけた。
「――」
それをいなし、
後ろへ飛ぶことでかわし、
例えダメージを受けても最小限にしようとする魅月ではあるが、
それが通用するのも人の領域から少し外れた程度まで。
鍛えられ、人を完全に超えた猛者に対しては通用するはずもなく――
「――やはり駄目ね。」
盛大に吹き飛ばされて地面へと叩きつけられる。
バウンドする身体。
下手に回避運動を取ったのが不味かったのだろうか、
その衝撃で骨が圧し折れる。
それもそのはず。
彼女自身の身体能力だけで闘うのに、
ラルフという相手は非常に相性が悪く、
その上全ての能力において劣っているのだから。
だから、この結果は必然で――
「……おい。」
「え、えーっと……」
「一発で終わっちまったが……」
「失格だね。
　残念……じゃあ――」
魅月が敗北したものとして扱う二人。
退場してもらうね、とルリアンナが言おうとする前に、
魅月の声がそれを遮った。
「――貴方達は
　……何と闘っているのか分かっているのかしら？」
「あん？」
「へ？」
その声に疑問の声をあげる。
それもそのはず。
二人が戦っていたのは魅月に他ならない。
故に、魅月がこうして破れた時点で終わり……
そのはずだった。
相手が他でもない、伊賦夜魅月でなければ、だ。
「言わないと分からないかしら――
　ああ、
　私本体狙っても意味はないわよ。
　だって――」
闘う相手は魅月ではなく、
貴方達がいうエンブリオそのもの。
魅月の周囲に存在する霊全てがラルフの敵なのだから。
故に、
「っぐぅ！？」
魅月を倒した所でどうにもならない。
見えざる力なき霊群を倒さなければ勝利はないのだから。
「――ね？
　意味は無いのよ、私を狙っても――
　それに大きな攻撃はよした方がいいわ。
　だって――
　悪いけどそれ逆に急所狙い安いわ。」
ゆらりと立ち上がる魅月。
骨がきしみ立っているのもやっととはいえ、
これくらいの怪我など何度も何度も受けてきた。
魅月にとっては立てない方がどうにかしているほどには。
そして、指を鳴らすと同時に、
四方八方よりラルフを霊が押しつぶす。
力ずくで抜けようとするラルフではあるものの、
能力ではラルフが圧倒的に上でも、
圧倒的な数の暴力、
そしてラルフでは相性が悪すぎる。
それ故に――
「――降参していただけないかしら？
　この辺でもう十分だと思うのだけど……」
「チッ、確かにな。
　よぉし、いいだろう。
　ぜひ俺達の力になってくれ！」
魅月の降伏勧告を受けて、
ラルフは構えを解いて拍手をした。
――元よりこの戦いでは力を見せれば十二分。
故に元よりお互い本気でやり合うつもりなどは無かった。
もし本気を出していたのなら、
ラルフはもっと早く気づいて別の対応をしていただろうし、
魅月にしたって、
本体を狙われてただやられるままという訳にはいかなかったろう。
――戦いにおいて自分の身体能力だけを使う方が珍しいのだから。
「え、えーっと……
　うん、いい線いってる！
　……よね？ラルフ？」
「え、あー……
　おう！
　これだけ動ければ大丈夫だろう。
　心強い限りだ、よろしく頼む！」
かといって試合内容をみれば実に魅月本人の評価は微妙である。
魅月本人の力だけでは足りていないのだから。
しかし、力を示した以上、
誤魔化すように合格を出す二人を魅月は微笑を浮かべ――
「さて、それじゃあ……後は私の役目ね。
　……頂くわよ。ネクター。
　精々上手くいくよう願ってくれるといいのだけど？」
ネクターを受けとり任せなさいとでもいうように、
二人に頷く。
「よぉし、それじゃ行ってらっしゃい！
　バックアップは黙って私に任せんしゃいっ！！
　パパの行動力とママの分析力を兼ね合わせた
　プレミアムブレンドガールに死角はないわッ！！」
それを見て元気よく応援するルリアンナ。
「明らかに親父の血が濃そうだが……
　少しは母親の大人しさが欲しかっ……」
「黙れおっさん。さぁ次いくからねッ！！
　魔王パラダイス討伐への道は険しいのだ！！」
「王のこと魔王って言うの、やめねぇか……？」
「パラダイスってほんとフザけた名前よね！！
　あ、魔王城には厄介な奴らがいっぱいいるからね！
　なるべく誰かと一緒に進むようにしたほうがいいわよ！！
　あとこれ支給品！
　がんばってね！！」
支給品の支給までしてくれるあたり、
手際がいいのは分かる、が……
二人の様子を見ていると漫才にしかみえず、
魅月は笑いをこぼす。
もうこの二人だけを観察していても良いかとも思ったが、
引き受けた以上、
引き受けた事は多少やらなければならないだろうと首を振って思い直し――
「あら、ありがとう。
　嬉しいわ。
　それじゃあ、またね。
　お二人さん。」
笑顔で支給品を受け取って二人に背を向ける魅月。
その後ろから、
「さてと、とりあえず一休みでもす……」
「はい次いこ次ぃ！！」
ラルフの苦難はまだ始まったばかりだといわんばかりの会話を聞いて、
まぁ、大変ねとばかりに、
ちっともそう思っていない様子で、
一人意地悪く嗤いながら魅月はその場を後にする。
「それにしても、魔王、ね……
　言い得て妙だけど、
　まだ見てないから判断が出来ないわね。
　――ああ、出会うのが本当に楽しみね。
　王とはいかなる人物なのか――」
これから立ち向かう事になるであろう王への興味と共に。

要するに物理攻撃の効かない相手が苦手らしい。脳筋だ。

この辺は普通にセールストークだ。

不意に頬を触られ、彼はきょとんとした表情を浮かべた。

「きこえてるわよ？」その声に、なんでか、反射的に叱られた子供のように謝ってしまった。
そんな自分に電話口で首かしげつつ。
[土蜘蛛][魂の気配][本当に自分を知っている]そういったメタ発言をティーンに有り勝ちな妄想ではなく、確信を持って発言してる相手に、

と気付き

勘弁してくれと、つい小声で洩らした。
こう云う所は何年生きてても学習してない。むしろ失礼さパワーアップしてる。

覚えておくべき相手だったのかな？と、よぎる動揺は自分で押し殺しスルーする。それどころじゃないし。

記名が無いどころか、番号入れてるのは当たり障り無い知り合いの分だけで、外部流出は絶対に防ぐべく土蜘蛛関係の番号は最初から入力していない。
そんな事情は記憶ない本人に解り様が無いが――土蜘蛛仲間より先に魅月さんに連絡が届いたのは、そんな理由。

会話しながら、[土蜘蛛]が自分の個人名じゃなくて種族名だと気付いたらしい。

初っ端から警戒心強かったのは、魅月嬢の声に被って魍魎共の怨嗟も聞こえていたかららしい。