人に会っては人を切り、神に会っては神を切れ。
　征こう、血と憎しみに彩られた王道を。
　この手にはついに掴めなかったものを、滅ぼしに。



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　 ┃The 10th Day　持たざる者
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　その日、アムルイは出発の直前まで、武器の手入れを丹念に行っていた。
　剣の刃を研ぎ過ぎるのは、かえって剣を駄目にしてしまう。
　だが逸る気持ちが、じっとさせてくれなかったのだ。

「……やっぱり、決意は変わらないんだな？」

　背後から問いかけて来たのはリアスだ。
　彼女は彼女なりに、アムルイのことを気にかけてくれていた。
　それはとても有り難いことだと、アムルイは思う。
　自分のような者にそんな仲間が、友がいてくれることは、この上ない幸せだ。
　けれど今は、その気遣いに応えられない。
　刃を研ぐ音はそのままに、振り返ることもなくアムルイは言う。

「ごめんね――私にも、許せないことってあるみたい」

　返事は短く、「そうか」と、諦観の篭った一言だけ。
　それでいい。
　諦めて、見下げ果ててくれた方がいい。
　叶うならば、ほんの一欠片の理解も得られたくはない。

（私は今まで、何故と問うために、何故と問いながら歩いて来た）

　それが彼女の、アムルイの在り方だったから。
　見えないもの、聞こえないもの、届かないもの。
　理解の及ばない何かに満ち満ちた世界を、そうして歩いて来た。
　時に強い風に負けそうになりながら、それでも世界と向き合い、立ち向かって来た。
　けれど。

（違うよね――今回だけは、そうじゃないんだ）

　何故、とは尋ねない。
　疑問を得る前に、自らの内で答えを得てしまった。
　知ってしまったその瞬間に、道は一つしか残らなかった。

（私は初めて自分の意思で、自分のために、戦うと決めた）

　その道が。
　たとえどんなに過酷で、誰からも顧みられないとしても。
　その答えが。
　たとえどんなに醜悪で、誰もが醜いと見下げるとしても。

　戦うと決めたのだ。
　誇りを地に貶すとしても、それは彼女だけの神聖な誓い。

（だから征こう――）

　刃を研ぐ手に、ぴたりと止めて。

（――かつての願いと、いつかの哀しみを終わらせに）

　そうしてアムルイは立ち上がった。
　その小さな胸に秘めた決意は、その剣のように極限まで研ぎ澄まされている。
　何が起きたしても、その足が止まることはないだろう。


　――ラズロのおっぱい。
　男でありながら、巨乳疑惑を得た死霊術師。
　アムルイが望んだものを、望まずして得てしまった者。

　そう。こんなものは、ただの醜い嫉妬と八つ当たり。
　分かっていながら、許せないものがある。
　持たざる者として、アムルイは決戦に臨む――――。
　

アムルイは敵を――ラズロを見る。
その細面といい、華奢な体格といい、戦う者には見えない。
だが見た目には弱そうでありながら、強者の風格を漂わせている。
油断はできない、と思いながら、アムルイは呟いた。

聞かせるつもりはなかったが、ラズロが首を傾げる。
同僚からも「女みたいだ」と言われてきたラズロである。
コンプレックスというわけではないが、看過できないものがあった。

問題はこの噂、真偽を尋ねまくったせいで、広めたのはアムルイである。
自覚はなくともラズロにとって、許されざる大敵だ。
しかしアムルイもアムルイで、胸に関してはこだわりがある。
そう、これは。

相容れない者同士の、宿命である――――！