ざわり、と木々が啼いた。
　新月の夜。淡い星明りは葉に遮られ、深い森の中は闇に満ちている。
　全てが寝静まる刻限、大地を撫でるのは時折吹く風だけであった。

　闇が蠢く。夜色の気配を乱すのは、夜色の衣に身を包んだ、夜色の髪の娘。その胸は豊満であった。
　突如、閃光が奔った。遅れて、何かが炸裂したような乾いた音。閃光は、娘の持つ夜色の奇妙な刃によって弾かれた。

「銃弾を落とすなんて、やるね。けれど、いつまで落とし続けられるかな」

　再び閃光が奔る。刃が弾く。奔る。弾く。奔る。弾く。奔る――落ちる。木が、啼く。
　娘は答えない。襲い来る相手に対し交渉は無用だ。そういう事なのだろうか。このまま時を稼げば、弾丸切れも狙えるだろうか。
　果たして、断続的な閃光は途切れた。ふうと息をつく。対人戦のスペシャリストと言えど、銃弾を弾き続けるのは容易ではなかったという事か。

「弾丸切れのようですね。このまま退くなら良しとしますが、どうします？」

　闇に向けられた声。少しの間の後、くっくっく、という笑い声が返って来た。

「退く？退くだって？冗談じゃない。漸く準備が終わったというのに」

　地鳴りが起こった。葉擦れが辺りを包み、闇を一層濃い物とした。
　大地が震え、波打つ。尋常では有り得ないその動きに娘は足を取られ、不覚にも転倒した――否。転倒し、そこに何かが絡みついた。
　月明かりでもあれば、そが木の根である事が解るだろう。銃弾に篭められた悪魔の力が木々を揺り起こし、娘を襲う魔物に変貌させたのだ。
　声を挙げるまもなく夜色の娘は吊り上げられ――


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※E-No.127 音無 志津香さんをお借りしたりしなかったりしました。