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　日は落ち、夜深く。そこはタンポポ荘の屋根の上。二つの影。
　どうやって登ったのかはわからないが、空でも見ているのかもしれない。

　一人は月に照らされ輝く金色の髪が眩しい猫耳の生えた少女のようである。
　一匹は・・月の明かりすら飲み込むような真っ黒の猫である。

　なんとも不揃いなシルエットの一人と一匹が空に向かって何かを話しているようであった。
　別に、本当に空と話をしているわけではない。ただ、少し遠くを見て話したいのであろう。
　

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　黒猫は問う。

　『七切（ナナキリ）、その後の調子と経過はどうだ？』
　

　とても簡素な問いである。
　少女は応える。
　
　「別に。まぁ、次の器が整うまでは暇じゃろうな。器の出来は心配しておらんが・・・
　　何分不慣れな土地じゃからな、それなりに長い目で見るしか無ぇー感じだわ。

　　それで、そっちは何かわかったんかい？
　　例えば、俺をぶち殺そうとした奴が誰なのか・・とかさ？」


　少女は当然知っているのだろう？と言わんばかりに悪意のある笑顔を向けてくる。
　黒猫は彼女の、いや、彼の視線をさらりと躱し淡々と応える。
　
　『そうだな、対象は未だ逃亡を続けているが夜叉の追跡からは逃げられないだろう。
　　彼女の実力と貴様への執着心を考えればそこも時間の問題だろう。

　　まぁ、問題と言うならば対象がお前の弱点を知っていたという点か。
　　しかし、そこを知って尚トドメが刺せていない点を考えると詰めが甘いとしか言いようが無い。
　
　　最初は内部犯も疑ったが、弱点の本質を理解していたわけでは無いようだからな。おそらくは・・・・。』
　　

　「帝国の研究者か・・・。」


　『その線が濃厚であろう。お前の行動から"動けなくなる時間"を割り出したのは流石と言った所だが
　　そのカラクリにまでは辿りつけていなかったと言うべきか。不幸中の幸いだがな・・。』


　「暗部を動かすのであれば俺や夜叉に情報が入る、それが無かったって事なら実行の不手際も納得か。」
　　　

　『その点については私からお前に訪ねたい。帝国は何を焦っている・・？
　　近年の、他集落での無茶な実験もそうだが。とても冷静な判断をしているとは思えない。

　　傍にいたはずのお前は・・・一体何を見てきた？』



　その問に少女は軽く溜息をつく。まるで、何かに呆れているかのように。

　「簡単に言えば・・よそさんとの戦争が拮抗状態、相手は小さな国同士が連合軍を作っての包囲戦。
　　本部はその打開策に翻弄され軍用の研究機関は成果を出すのに必死。

　　それであの村でも有数の実力を持つ俺を討ち、その事から村を脅し実験の拡大を迫りたかったんかもな。」

　頭がいいのか悪いのかと付け加えて。




　『強い者は貴様だけでは無いからな。上層部としては内乱どころでは無いであろう。
　　しかし、問題は帝国内部での統率が取れていない事だ。これを上手く手取れば独立も夢では無いが。』


　「ヘマして帝国と道連れなんて笑えねーからな。」



　『うむ。ああ、そうだ。そちらのネクターの調査はどうなっている？』


　「あー・・・そこは俺よりぬこに聞け。これでも病み上がりなんだよ。
　　ここに来てからはある程度回復させるのに専念してたもんでね。」




　『了解した。それではまた訪ねるとしよう。

　　
　　ああ、そうだ。七切。これだけは言っておく。その体で無茶だけはしてくれるな。』




　そう睨みをきかせると黒猫の体は霧散していく。
　まるで最初からそこには何も居なかったのように、その場には七切が一人残っている。


　へいへい・・・。全く、愛されてますね。っと拗ねるように七切は空を見上げならが呟いた。





　その言葉は夜空に吸い込まれて、彼女には届かない。

そう言うとデミタスを盆にのせ、マキリの元に運ぶ。

差し出されたのは言葉通りのエスプレッソ。黄金色に輝くクレマと辺りを包む芳醇な香り。
ぶっきらぼうな店主とは打って変わって、本格的な一品がマキリの前に差し出された。

敵対心丸出しで威嚇している。

　

　自分の心配をしたことはあまりなかった。
　自身を犠牲にしているつもりもなかった。
　　

　でも、そうやって、皆に迷惑かけてきたのかなと、少し反省する。

　
　少ししんみりとなりかけた空気をマキリがぶち壊す。