［基本］OK.　［戦闘］OK.　［戦闘:エイド1］OK.　［戦闘:エイド2］OK.　［戦闘:エイド3］OK.　［スキル］OK.　

各地で繰り広げられていた最後の戦闘が終わり、
侵略戦争の趨勢はついに決着を見せた。

恐らくこのままイバラシティへの侵略は成立し、
かつて住人であった者たちは一人残らず否定の世界へ堕とされてしまうのだろう。

陣営全体が少しずつ絶望的な雰囲気に染まりつつある中で、
イデオローグたち四人は“やり残した事”の為に
マシカ区の南端、荒れ果てた灯台を訪れていた――

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時を遡ること、二時間前。

「こんど、さ、空、飛んでくれないかな。
　灯台から、こののと、みゅーちゃんと、バツ君と、4人で。
　ちゃんと、エスコートするからさ」

「空――
　ああ、いいぜ。そんなの、望むところだ。
　とびきり高くて、とびきり自由な空の旅――　そいつはきっと、
　世界を救ったご褒美に相応しい最高のアトラクションだろうぜ」

最後の決戦へと臨む前に、何気なく幼馴染が零した提案。
それは、イバラシティを守り切った先の未来の話。
想い出の灯台からもう一度、今度は四人で遊覧飛行をしようというものだった。

他愛のない約束だ。
けれどもそれは、最後の最後まで戦い抜く理由になり得たものであったことだろう。

決着後、一番に声を上げたのは巳羽だった。
諦めるつもりはない。否定の世界へ落とされてしまう未来は避けられなくても、
その先で掴めるかもしれない未来を、奇跡を諦めたくない。そう宣言する表情に、迷いはなかった。
だからこそ、彼女は“願掛け”に誘ったのだろう。

未来へ進む為に、二度空を飛んだ早生さきの異能。
その三度目は、戦いの終わりにハザマの赫空を飛ぶ為に行使されることとなった。

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「あの時にいた灯台と、やっぱり景色も変わって見えるね」

崩れかけた廃灯台を最上階まで上がれば、一行は思い思いに辺りを見回す。
真っ先に言葉を紡いだのは、この“願掛け”を提案した少女だ。
その声には、いつものような張りはないものの。
のんびりとした口調も、表情も。少女の普段とそれと、さして変わることのないものだった。

「でも灯台自体は残っとって良かったね。景色はまあ禍々しいけど……ここももうサヨナラってことで」

「あ、あっちの方柵が壊れてるみたいだね。
　全体的に荒れ果ててるし、寄り掛かったりしない方が良いかも」

「……ひゃう！手すり掴めんの怖いぃ。
　風もあるし、覚悟決めたら早めに……うん」

桜色の髪の少女が、高所特有の横風に煽られよろめきながら巳羽の言葉に恐怖を示す。
元来高所を苦手する彼女にとっては、なかなかに落ち着けない場所であったようだ。

「おっと」

体勢を崩す結枝の様子を見てとった怪人は、その手を取って自分の方へと引き寄せる。

「大丈夫さ、おれが離さないでおくから」

恐怖を少しでも落ち着かせるように語り掛けつつ、
朽ちかけた柵の向こう、眼下に広がっている荒れ果てたハザマの大地を見下ろす。
すると、最後に階段を上ってきた少女が遅れて現れた。

「やー……現実と夢？とここ、三つ見たけどぜんっぜん違うね。
　この赤は見慣れるのかなあ」

いつもなら真っ先に頂上を目指して文字通り飛んでいったであろう、三つ編みの少女。
けれど、やはり声には少し覇気がない。
負けてしまったという事実に、現実に、最もショックを受けていたのは彼女だった。
それでも今、さきは前を向く為に、三人と共にこの地を訪れている。

「……この先の未来に、どんな危険があろうと。
　おれが皆を必ず、あの美しい世界に送り返す。
　そいつは侵略に加担した罪滅ぼしとかじゃなくて
　おれが単に皆と一緒に居たいからだ」

いざ空を飛ばんとする中で、半人半獣の怪人は噛み締めるようにそう呟いた。
怪人はもう、自らを必要以上に自罰し続けるようなことはない。
過去の為でなく、未来の為に。
そして誰かの為だけでなく、自分も含めて。
分不相応だろうと、望む未来の為に。
怪人は、シティの人々と共に歩む決意を、改めて口にした。

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「えっと、具体的にはみんなで手を繋いでダイブ？」

「ああ、そうそう。命綱無しで塔からダイブ。そいつがさき流の空の旅なのさ。
　“あの世界”じゃあどうだったか分からないケド、生身の身体でやるのは中々爽快だぜ？
　なーに、怖いのは最初だけさ」

「……おれたちの、“本当の空”を取り戻して、今度こそ晴天の青空からもう一度飛ぶんだ。
　こいつは、その前の予行演習ってワケだな」

結枝の疑問に対し、怪人が代わりに答える。
人や物を浮遊させて空を舞うことを可能とする、早生さきの異能。
元より生身の体で遊覧飛行を可能とするそれは、ハザマで強化を受けたことで
四人を飛ばす程度はものともしない力を得ていたようだった。

「大丈夫？　手、繋ごっか？
　勿論、手を繋いでも……あ、でもバツ君と飛んだ時は、お互い手は放して自由に飛んだから……
　……え、お姫様抱っこして飛んじゃう？」

当の能力者といえば、すっかり結枝とイデオローグの距離感に興味津々であることを隠すこともせず、
声を弾ませて浮ついた提案をしたりしている。

「こっちだと、あっちより異能が強くなってるから四人でも問題なく行けると思うから、
　以前よりは安心安全な空の旅をお届けできると思うから安心してね、三人とも。
　今ならピーターパンにもなれるかもねえ」

そう言って笑うさきの目元は、まだ少しだけ赤く腫れていた。

「……ありがとうね。
　なんかちょっと安心した。こうやってみんなで変わらずにお話が出来て、みんなが居てくれて。
　戦いは始まったばっかりだ、みたいな感じだけど、
　またみんなで頑張って……帰る手段を探そうね」

「重ねてきた想い出も、将来の夢も、イバラシティにはいっぱい詰まっとるよね。
　うちは贅沢やから、そういうんもぜーんぶ取り戻したいっ！」

誰もが心の整理をし切れてはいない中で、それでも。
それぞれがそれぞれの未来に、けして希望を絶やすことなく前を見つめていた。

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「どうしよっか、わたしはみんなで手を繋ぐつもりでいたけれど。
　ゆえ先輩のエスコートはバツ兄にお任せして、さっちゃん、一緒にピーターパンとティンカーベルになる？」

「おいおい、なんつー提案をするんだねさきさんや。
　余計な気は回さなくていいっつーのッ！
　巳羽、おまえさんもだぜ！」

自分で蒔いた種ながら、妹と幼馴染、二方向からの生暖かい視線に耐えられなくなったのか
怪人は空気を振り払わんと大きめの声を上げる。
そうして、ばつが悪そうな視線を隣の少女へ戻せば。

「なりりちゃんに触っとらんと飛べんかと思っとったわ。
　……だ、抱っこは、伐都くんの腕力って耐えられるんかな……」

細身の怪人を気に掛けるのは、少女の建前だ。
それがただの照れ隠しであるということは、怪人にとっては一目瞭然だった。

「でっ、出来らあ！！
　しょうがねえ、おれが実はこのもやしアームの中に
　類い稀なるインナーマッスルを秘めてるってコトを
　みんなに知らしめなくちゃなんねーみたいだな……」

少女の照れ隠し。それはどうやら怪人にとっては、
“恥をかかせるまい”と変な方向に奮起させるものだったらしい。
最初こそなあなあにしていたものの、すっかりやる気になってしまっていた。

「じゃあ、どうしようか。いきなりダイブって言う訳にもいかないし、カウントでもする？」

「すー……はー……。
　うちの精神衛生のためにカウントはしてください。
　……絶対、離さんでね？」

「男に二言は無いぜ、結枝ちゃん。
　おれはぜってー離さないから！！」

「さ、フライトアテンダントさんよ！
　おれたち四人のファーストフライトだ！
　カウントはおまえさんに任せたぜ！」

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特に何もしませんでした。