否定の世界へ堕ちることが決まってまもなく。
さき、巳羽、伐都、結枝は、荒れ果てた灯台へと向かいました。

それは四人の約束だったから。

青い空へは臨めなかったけれど。
赤い空にも意味はあると信じて。


四人は願います。
皆で過ごしたあの街へ帰ることを。

四人は諦めません。
皆であの街で未来を歩むことを。

たとえ、これから今まで以上の困難が待ち受けていようとも。


言葉を交わすほど、笑顔を取り戻す四人。
まるで、灯台に光が灯るようでした。


そして、果たされる約束。

さん、に、いち。
さきの異能で、四人は展望台から浮かび上がります。

晴れた青い空を飛ぶための予行演習として。
奇跡を起こすための願掛けとして。


すぐに絶望は消えません。
けれど、希望も消えません。


世界が大きく動くまでのひと時。
昏く赤い空に、たった四人分の希望が確かに輝いていました。

▲	「いえ、クサくないですし。わかりやすいというか、しっくりきました。 　 　そうですね。でも……そうするとゆえ先輩も、 　本当に神頼みと言う訳ではなくて、ある意味自分の力を信じているんですね。 　自分の中に力が眠ってる可能性を信じていると言いますか」

	「手足が生えている有象無象はもう見慣れたものですが、 　汚れるのは少々、いえ、かなり嫌ですね。 　だってここ、道によっては洗い流せるような場所が簡単に見つからないですもん 　先輩着物姿ですし、その辺り苦労したんでしょうね」

	「周りによってそうせざるを得なくなる環境は、ちょっと共感出来ます。 　ふふ、それはちゃんと知っていますよ。 　お店も家の事のお手伝いも、とても力になってると思います。 　了解です。お酒は、そうですね。過半数が未成年ですもんね。 　唯さんがお酒に溺れる姿は想像つきませんが、ここは健全に乾杯と行きましょう」

	「スリリングな物は好きですよ。 　普段得られない外部刺激って、謎の充足感があると言いますか。 　あ、ゆえ先輩もさっちゃんから聞きました？　さっちゃんらしいですよね。 　あの時は中々に差し迫った状況でしたし、 　次はあの時より落ち着いた空の旅が出来るかもしれませんね。 　みんな一緒ですもん。きっと大丈夫ですよ。

	「……わかりました。待っています」 「落ち着く前でも。何かあったら、言って下さいね。 　わたしはいつどんな時のゆえ先輩に対しても、力になりたいんですから」

	「タニモリの……それ、次のわたし達の目的と同じですよ。 　もしかしたらベースキャンプでなくても、落ち合えるかもしれませんね」 驚きと喜色が混じった表情で、ぱちりと瞬きをし。 　「健闘を祈ります。きっとこれが、最後の戦いの時間になるでしょうから」

	「──そうですね、最後まで」 全員帰還。彼女の願いが込められた文字に、柔らかく言葉を紡ぐ。 先輩が映っていたその場所から視線を下ろさぬまま、 やがて一度目を閉じて、開く。 そこには、真っ直ぐと決意を湛えた瞳があって。

	戦いひとつ分の時間。そして、刻限に響く結果のアナウンス。 少女から先輩へととある通信が届くのは、それからの事。

▲	バツ 「――うん。うん、うん…………。 　互いを想い合える『兄妹』が、離れ離れになるなんて―― 　そんなの絶対、起きちゃあいけない。 　ホント、良かった。良かったなあ……！」

	バツ 「…………（イデオローグの姿に一瞬戻り、耳をぴこぴこ)」

	バツ 「呪われた生を受けて、呪われた生涯を生きて、 　誰の隣にも居られずに、誰をも呪いながら死んでいく。 　それが、『怪人イデオローグ』という存在だと思ってた」

	バツ 「……でも、そいつは間違いだったんだって、知るコトが出来た。 　おれの本性を知って、おれの本当の姿を見て、それでも。 　それでもおれを、一人のヒトだと認めてくれた。 　大切なヒトなんだって、愛してくれた」

	バツ 「大嫌いだった自分自身―― 　誰かに望まれたものでもなんでもない、 　他でもないおれ自身が、自分で自分に掛けた最後の『呪い』。 　そいつも、結枝ちゃんがぶっ飛ばしてくれたんだ」

	バツ 「おれも、これからもっと知っていきたいな。 　結枝ちゃんの――これから先に一緒に歩む、大切な人のコトを、もっと、さ」

	バツ 「侵略戦争にはいいように踊らされっぱなしになっちまったが、 　それでも希望は幾つか見つかった。 　まず、一度アンジニティを裏切ったおれは、たとえシティが負けても 　否定の世界を出るコトは出来ないって話。 　結枝ちゃんたちと無理やり離れ離れにされずには済みそうなんだ。 　でもって、おれが出会ったロストの一人が 　『自由にアンジニティと他の世界を出入り出来る』って異能を持ってた。 　　 　……最初のうちはちっとばかしサバイバルしなくちゃいけないかもだが、 　本来のアンジニティのヤバい連中が軒並みいなくなった後なら 　シティの皆で助け合いながら脱出方法を探すコトは充分可能だと思う」

	バツ 「――だから！ 　この先何があっても、きっと大丈夫さ。 　その幸せな未来を、必ず現実にしてみせる。 　おれも、そいつを信じてるから」

	バツ 「ああ、おれも聞いてるよ。 　四人で飛ぶ空はきっと気持ちいいんだろうなあ。 　ひっひ、隅に置けないだなんてとんでもない。 　おれなんかにゃあ過ぎた巡り合わせでございますよ、結枝さんや」

	バツ 「――こいつはまた、今この時にぴったりの、最高の一枚だな。 　絶対出来る！　そんなやる気が燃え上がってくるみたいだぜ。 　必ず帰ろう。おれたちみんなで、一緒に」

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