［基本］OK.　［戦闘］OK.　［スキル］OK.　

ここにイバラシティで暮らす少年が、自由を求めてハザマを進み続けてきた少年……もうひとりの自分から受信したハザマ最後の記録を紐解こう……

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街で暮らすオリジナルの俺は、生まれつき双子という“ルーツを同じくする別の可能性を辿った自分”と共に暮らしてきた。
そして７年前、神隠しに遭って双子の兄と共にサバイバルを繰り広げた末、兄は自らを犠牲にして弟を脱出させた。

図らずも家を継ぐことを求められた弟は、出来のいい兄の代わりになろうと必死で励んできた。
それがサバイバルの報酬として与えられた“箱”以外に、生まれ持った異能の資質を開花させる下地となっていたのだろう。

ところが街における昨年の秋、行方不明となっていた双子の兄が別の試練を乗り越えて戻ってきた。
それが契機となり、秘めた異能は双子の兄ではないけれども、“ルーツを同じくする別の可能性を辿った自分から、力や道具を我が物として振るう”といった異能として発現したようだ。

そしてこの戦争ゲームが続く間、幾度となくハザマにいる俺が街にいる俺から記憶を受信する際に結ばれていた世界を超えた絆を通じて、街で暮らす彼は、ハザマにいる俺の異能や装備を、ゲームのインターフェイスのように閲覧して、選択してセットすることで使用できるようになっていった。

ここで俺は異能のスキルリストから、異能の呼称を変更できることに気づいて、リストを見ている彼にメッセージを送ろうと試みた。

……結果は成功。俺達の絆はより強固なものとなり、ハザマでの１時間おきの通信など用いず、Cross+Roseへと街にいる俺がアクセスして記録の閲覧、メッセージの送受信ができるようになった。
そして、神隠しから脱出した際に受け取った“箱”のガチャを回すためのリソース数や、実績解除といったデータが街にいる自分とハザマにいる自分との間で、時間の流れに差があるはずなのに、街にいる彼と同じ……共有しているのではないかという結論へと行き着いた。

ならば、特異点である“箱”との繋がりを利用することで、街にいる自分が戦争開始後に開花した異能も、我がものとして発動させるチャンスがあるのではないか……と考えたのだ。
仕掛けるチャンスは３６時間の刻限が終わり、俺達が次の戦争ゲームの駒へと変化させられるであろう時が来るまでの、僅かな間しかないだろう。


そして今、千日手となった状態で戦闘終了となった少女が動きを止めた。
始まった勝敗を告げるアナウンスが流れる中、街からの記憶流入のタイミングで“箱”に触れて意識を集中する。
街にいる俺が、ハザマにいる俺のスキルを閲覧してセットする時と同じ感覚を思い返しながら。

……ハザマにおいては、イバラシティの住人が元々身に着けていた異能が強化されるという。
ならば、“ルーツを同じくする別の可能性を辿った自分から、力や道具を我が物として振るう”といった異能の対象を、もっとルーツを遡って適用できるのではないか、と考えたのだ。

まずは街で暮らしている自分が、現地で今年の２月に異世界からやってきた者達からの謎かけがきっかけで訪れるようになった異世界・ラメルディアで身に着けた力をセットできるようになったことを確認して、彼が所持しているロストアーティファクトを手中にする。

"神獣の玉璽"という名前と形を与えられたそれは、ラメルディアという世界に命と文明をもたらした、“めがみさま”の姉妹に当たる存在だ。
変転を司り、過去に自らを停止させたキーコードだけでなく、時空への干渉にもカウンターを仕掛けてくるような、自己学習・自己進化を繰り返してきた“めがみさま”と同じような対抗能力を秘めているはずだ。


"箱"と“神獣の玉璽”が自らに馴染んでいることを確かめた俺は次に、目の前で所在無げに待機している少女の似姿へと手を伸ばす。

"箱"は毎日勝手に支給されたり、人助けをしたりすると貰える石などのリソースを投入することで、ランダムにものを取り出せるという代物だ。その仕組みは、スマートフォンのゲームでよく見かける“ガチャ”そのものと言って差し支えない。
取り出せるもののカテゴリを指定することまではできるが、大きさを含めて、どんなものが出て来るのかはランダム。
過去に船を取り出そうとしてみた所、ＳＳＲの大当たりでフェリーを出してしまい、イバラシティの入り江をふさいで大変ご迷惑を掛けたことがあった。

こんな“箱”からランダムで出てきたものを扱えるようにするため、説明書代わりに与えられた異能が街にいる自分には備わっていた。
……それは触れたものを理解する異能。描かれた図形や文字を理解し、道具の概要と使用法を把握することが出来る。
更には触れた動植物と意思疎通が可能になり、人に類する知的生命体に触れた場合は、相手の使用する言語を理解して扱えるようになる。

この、触れたものを理解する力をナビゲートに利用しながら少女の分身に触れることで、ハザマの住人全てにとってのルーツであり、“ワードスワップの意思”などと呼ばれていた、オリジンへの接続を試みる。

……街にいる自分が昔遊んだゲームの中では、電脳空間におけるモブＮＰＣが自我を持ち、参加している人間ＰＬ達と共に最後の一人になるまで戦う戦争に参加することになる、という物語があった。
彼は実在の人物データをコピーして生み出された存在であり、そのお陰でバグとして削除されずに戦い抜けたという。
そして戦争の勝者となった彼は、月の聖杯に到るが、全知全能に等しい聖杯の前では、自分がイレギュラーである事を隠し切れない。僅かな猶予の中で彼は、聖杯の力で為すべきことを成し遂げてから消えていった。

今、自分が試みようとしていることも、まさにそうやって聖杯へと手を伸ばすことに等しい。
成功しても、そう長い間はアクセスできないだろう。
だからワールドスワップを無かったことにすることはできない。せいぜい、ロストアーティファクトに情報を与える事で、街で暮らしている自分と隣人が、街から追い出されないようにする事が関の山であろう。

街にいる自分へも俺がアクセスした記録は伝わる。だから向こうのワールドスワップ対策のデータは向こうの自分に解析を任せる。
そして俺が求めているのは、自分がハザマから出ていくための力を我が物とすることだ。

……例え異能と神から授かった道具が手元に有ろうとも、人の肉体と魂で、神に等しい存在の持つ莫大な情報にアクセスし続けていれば、とてつもない負荷が掛かる。
自分が致命的な崩壊を迎える前に、この記録を追っている“街にいる自分”ともに、それぞれが必要な情報を回収せねばならない。

二手に分かれた俺達は無限に広がる書庫から、目指すべきもののキーワードを強く念じる事で、検索範囲を絞っていき、目当ての情報へと手を伸ばそうと試み続けた。

その間に銀色の髪が少しずつ抜けていき、肌が色を徐々に失っていく……頭の中も気を抜いてしまえば体共々真っ白になってしまいそうだ。


……けれども、俺は真っ白に燃え尽きる前にどうにか、目当てのものに辿り着くことが出来た。
問題は、“世界を移動する力”と、“現在発動しているワールドスワップの対象指定”が不可分になってしまったことだ。
結果的に能力を我が物とした自分は、アダムスとの繋がりを自分から断ち切ることが出来なくなってしまったからである。

このままだと現在進行準備中のワールドスワップが終わった後、イバラシティの人々が故郷へ戻ってきたとしても、また同じ参加者でのワールドスワップを引き起こしかねない。

限られた時間の中で俺が思いついた対策は、“制約の異能で自分の記憶から、イバラシティとアンジニティに関する地名、参加者とその縁者の名前を封印する”ことだった。
侵略側と防衛側の世界と参加者が指定されていない状態ならば、発動したとしても不発に終わるはずだろうから。

参加者の名前には勿論俺も含まれているし、現時点では鮎喰さんと約束した、ここでの記録を残す役は、街にいる自分に託す形になる。
けれども、次回以降のワールドスワップで誰かがこの連鎖を断ち切ってくれたことが確認されたなら、制約が解除されるようにセットしておけば、いずれは全てを思い出せる日が来るだろう。
例え辛かったことがあっても、ここで感じた喜びもある。己を形作ってくれた思い出はかけがえのない宝だから、いつか必ず取り戻したい。


だが今は振り返ることは許されない。まずはこの赫い空から青空の世界へ渡るため、他の世界へ繋がるチャンネルをラジオのチューニングのように切り替えていく。

すると、ハザマで以前拾った白紙の書類に、文字が浮かび上がっていく、

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　　　　　素敵な庭園をオープンしました。
　　
　　　　　ここは、周囲すべてが空という空間の中に浮かんでいる、一つの島。
　　
　　　　　広々とした世界と豊かな自然。冒険の疲れを癒やすのにぴったりです。
　　
　　　　　良かったら、ぜひお越しください。

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その内容はまさに、青い空と緑豊かな自然、戦争に疲れた俺が求める新天地であった。

あとは旅先に持っていく荷物の準備だ。
街にいる俺から先程写し取ったロストアーティファクトは、持ち主に合わせて形と性質が変転するものだという。
ならば、これは今の俺に合わせて変化してくれるはずだ。

旅に必要なものといえば、まず雨風を凌ぐコート、山野を歩き回ってもしっかりと足を守ってくれるブーツ。空気で膨らむゴムボートもあった方がありがたいな。
そして替えの衣類や釣具、狩猟道具。テントや調理器具、松明やランタンなど、必要な道具を収めたバックパック。

あとは満足に動く体と働く頭、そして道への冒険心さえあれば、どこででも生きていけるはずだ。


鹿金信長という名前を封印するからには、新しい名前が必要になるだろうけれども、もしも名前を失った自分が付けるのなら何て付けるのか、新天地への転送と記憶の封印が始まる中、残された僅かな時間で考えてみる。

きっと俺のルックスでいちばん目を引くのは、この日本人離れした銀色の髪だろう。
そのまま銀さんだと、どこぞの万事屋になってしまうから、そのままな読みは避けるんじゃないかな？
そうなると古文のような読み方に変……え……

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……これが、もう一人の“鹿金信長だった少年”が残してくれた最後の記録だ。
お陰様で、俺のロストアーティファクトはワールドスワップによる住人の入れ替えから、自分と隣人を守ってくれるだろう。

そして彼が残してくれた知恵と力を活用して、俺はアンジニティに飛ばされた友を救いに旅立つ準備を進めている。

既に世界の断片へと足を踏み入れて旅することのできる、不思議な手帳も手に入れた。
これまでは夢を通じて赴いていたラメルディアにも、体ごときちんと世界移動できるようになった。
チャンネルさえきちんとセットできれば、更に他の世界へ赴くことも不可能ではないはずだ。

そしてワールドスワップを観測するためにやって来ていたが、事が確定して動き出した別世界の住人ともコンタクトをとることに成功した。

……正確には、親類に最初からいたことには驚いたし、うちで祀っている神様がそのメンバーに含まれていたことには尚更驚いた。

その神様達はワールドスワップが起こる遥か昔に転移してきてしまったので、俺達のご先祖が滅びないように夢のお告げで民を救ってきたそうだ。

最初は津波が来るから避難するように伝えて、津波の塩害で苦労する民に、温泉や湧き水の出る場所を伝えたり、井戸を掘るべき場所を教えてくれた……数十年に一度目覚めてはワールドスワップの予兆が無い事を確認して眠りにつくことを繰り返して８００年以上経って時が来たと感じた彼女らは、人の体から生まれて来てイバラシティで様子を見定めていたそうだ。

彼女たちはワールドスワップというシステムが、あくまで分身による代理戦争であり、現地住人の選択によって辿り着いた結末でないので、復旧作業に手を貸すことが許可されたと言っていた。


ラメルディアの造物主である“めがみさま”が機械仕掛けだったので、受肉した神様に触れられるというのは初めてのことで戸惑ったが、我が国で祀られる神様らしく、食事もするし感情豊か。力や責務はあっても、さして人と変わりない心の持ち主なのではないか……などと畏れ多くも思ってしまったり。
当人たちは今まで通り親戚として接して欲しいと言ってはくれているけれども。


まずはワールドスワップでアンジニティへと飛ばされる被害者を少しでも減らすための避難所づくり。
それでもアンジニティへと飛ばされてしまった人達をイバラシティへと連れ帰るための“方舟”も必要だ。

為すべきことが沢山あるけれども、俺は一人じゃない。この世界だけでなく、他の世界からの助けも借りる事が出来るのだから……諦めなければいつか願いは叶うはずだ。


今回のワールドスワップが一区切りつこうとも、俺達の人生という旅は続く。
いつか、ハザマから抜け出したもう一人の俺と巡り合えますように。
そしてどうか、少しでも多くの隣人たちと、再び道が交差しますように。

……勿論、この日記に目を通してくれたあなたとも。

ENo.73 シェリル とのやりとり