［基本］OK.　［戦闘］OK.　［スキル］OK.　

何でもない一日だった。
夏の照り付けは変わらず強烈で、する必要のない出勤をためらわせる。無期限の待機により与えられた時間を、どのようにかみ砕いていくかはいまだに結論が出ていない。それでも、夏の朝日の中を足取り重く出社をする。暦の上では秋だというのに、外は少し歩いただけで汗が噴き出てくる。這う這うの体で湖東ビルに着くが出勤の前に化粧室にて汗を拭き化粧を整えていると、始業時間ギリギリになってしまった。執務室のドアを開くと空調の風が自信を迎え入れ、部下である彼が出勤していることを知る。
挨拶を済ませ、新しい予定がないことの確認である朝礼を済ませると席に着く。彼はコーヒーを入れてからにするようだが、……今日はコーヒーを淹れる日だったか。
その様子を確認すると、短くない付き合いで、何となく察する。恐らくこの後……。

「ええと、仕事が一段落したら……この後ちょっといいですか？」
「段落も何も、今でも構わないわよ。急な仕事も急じゃない仕事も、今は何もないもの」
朝礼で昼までは各々細々とした残務を処理することを決めていたが、その全てが急ぎではない。何か重要な案件であればすぐにでも取り掛かるべきだ。
……最も、そのような案件が今の支所にある筈もないが、どことなく深刻な顔で話しかけてくる彼を、少しからかってみたくなったのだ。

「いや、今日は昼まで頑張って仕事って予定確認したじゃないですか。僕は公私混同しない男ですよ」
「あら、プライベートなことだったの？」
「そう、プライベートなことなんです」
「じゃあそうしましょう。昼休みでいいかしら」
「なるほど。まあいいでしょう……」
「急に何目線なのよ、それ」

昼休みを指定したのは早計だったか。
早々に手持無沙汰となり、何となく思い付きであれやこれを進めるがいちいち手が止まる。その度にチラリと助手に目をやるが、彼も彼で手持無沙汰ではあるが。ボードゲームのルールブックを読みふけったり、探偵と雑談に興じたりと、やることがないわけではない様子（それが業務時間中にやるべき事かはこの際置いておくとして）であり、先の件を早めるのは難しそうである。
それならばと、半ば諦めに近い気持ちで虚無と戦う。度々目に入る時計に表示されている日付が、今日があの日であると自らに告げる。そしてその針が真上で重なるや否や、彼は一礼して口を開いた

「さっきの件ですが……その。誕生日、おめでとうございます」
「あら、ありがとう。……そんな気配は感じてたのよね」

そう、今日が己の誕生日であることは他ならぬ自分が一番知っている。
そして、先ほどの助手の反応、直感が鋭くない私でも十分に察することができるというものだ。

「お！　直感が鋭いですね！　まさか僕が今日笹子さんの誕生日を祝うことに気づいていたとは」
「当たり前でしょう？　誕生日を忘れるわけが……いえ、忘れたくなることもあるけれども」
「歳を重ねることは悪いことだけではないですよ」
「別にそうは言ってないわよ」
「というわけでですね、こちらがその……プレゼントになります。バースデーの」

昨年の事を思い出す。今年も本、……カタログ、だろうか。
そう踏んでいたところに紙袋を差し出され、虚を突かれた。顔を上げ、助手を見やると、小さく頷く。どうやら開けることが望ましいようだが……。

「これは……」
「小箱です。開けてみてください……いや、僕のいないところで開けたいのであれば別ですが」
「逃がさないわよ。去年の逃げは忘れたのかしら？」

昨年の事を思い出し、少しからかってみる。
尤も、彼からの贈り物で手に入れた道具は、決して悪いものではなかったため、マイナスな感情は持っていない。だが、彼自身が事あるごとに逃げであったと悔いるので思わず言ってみただけだ。

「そう、僕は去年逃げました。だから今回は逃げない。そういうことも踏まえながら開けてみてください」
「いい度胸ね。じゃあお言葉に甘えて……と」

『逃げない。』そう言い切られ大きく出られたと思う。
覚悟を決めた相手の、覚悟の篭った贈り物だ。こちらも相応の心構えで開けなくてはならない。彼の目線に気を配り、出来る限り丁寧に開く。……そうも真面目に見られていると開けにくいのだが。
緑色の宝石が埋め込まれたプレートに、それを下げるための細いチェーン。そっとプレートを手に取るとチェーンが小さな音を立てる。

「これはネックレスかしら？いや、ペンダントかしらね。あまり詳しくないのだけど」
「そう、ペンダントです。ネックレスではないですよ。ペンダントトップがあるものはネックレスではなくペンダントですからね」
「ちなみに念のため確認しておくのだけれど、このプレートに埋め込まれている緑色のものは何かしら。いやプレートも聞きたいけれども」
「ペリドットですよ。八月の誕生石です。八月の誕生花と言えばヒマワリ。石と言えばペリドット。聞いたことないですか？」
「あるわよ。あるから聞いてるのよ。え、これ本当に？」

……これは、不味いだろうと。
あの覚悟が本物であったことがここに証拠として示されてしまった。『逃げない』というのは、比喩表現でもなんでもなく、本気の言葉だったのだ。
箱が空いた時から虚を突かれ続けている。箱の中の実が虚を私に手渡したのだ。ここが戦場なら私はとっくに倒れているだろう。平和なこの街に感謝するかと思わず思いたくなるほどだ。

「本物って書いてある奴を選んだつもりなので、恐らくは。プレートの方はイニシャルです」
「……私のイニシャルにしては多くない？」

私のイニシャルは二文字だ。ミドルネームを持った覚えはない。
いや、文字で何を意味するかは大いに予測ができるのだが。

「笹子さんのイニシャルで、SとSとKですね」
「三文字て」
「文字、いっぱいあった方が嬉しいかなと思いまして。一文字二文字じゃ宝石とのバランスも悪かったんですよ」
「一理あるわね。それは確かにその通りだけれど、なんで名前の方を三文字取ったの？」
「だってほら、変わるかもしれないじゃないですか。名前と違って苗字の方は」
「ええと……ええと、リアクションに困るわよ。とりあえずプレゼントはとても嬉しいとだけ言っておくけども」
「ちなみにペリドットの石言葉は平和、幸福、運命の絆、夫婦の愛だそうです。大袈裟ですよね、石言葉って」

言葉に詰まり、思わず黙ってしまう。この場で一番大袈裟なのは恐らく、この贈り物だ。間違いなく。
そしてこれが贈り物で嬉しいことも間違いない。だが、これは貰ってしまっていいものなのだろうか。
無言で行われる此方の思案をよそに、助手は話を続ける。

「他には花束ってのも考えたんですよ。誕生花って一日刻みであるっぽかったんで。でも三十一日の竜胆は『悲しんでいるあなたを愛する』だったのでどうかなと思いまして。ヒマワリは『あなただけを見つめる』でしたし……ちょっとな……って」
「捻って日和った結果、とんでもないことになったって自覚、もしかしてないの？」
「僕は満足しています。去年は笹子さんの好みが分からなくて逃げた自分が許せなかった。でも、今年は……」

そう、今年は
今年のこの贈り物は、積み重ねなのだ。
彼と過ごした短くない時間が、このペンダントとして存在している。
彼が思案の果てに選び抜いたこの宝石は、培われた時間の結晶であり、
彼自身が自覚していなかったにしても（いなかったらそれはそれで困るのだが）、気持ちを伝えるには十分すぎる効力がある。
つまりは、効いた。久々に目を合わせられない。だが、どうやらお互い様の様だ。
気恥ずかしい空気に、先に音を上げたのは助手の方からであった。

「すみません。実は今年も逃げました。誕生石なら間違いないだろうと」
「その判断、間違いないわよ。だって嬉しいもの。そんなに色々考えてくれたっていうことも」
「リーサルが見えてるのに攻め切れなかった自分が情けない。おれ悔しいよ……」
「悔しがらなくていいのよ。一人称も変わってるし」
「来年、来年こそ絶対に勝ちます。職場こんなことになっちゃってて、明日がどうなるか分からない身ではありますけど……」

来年。
来年は、そうね。今年これだけ驚かされて脅かされた（気恥ずかしい思いもさせられた）のだから、此方から何かしかけてみてもいいかもしれない。
そんなことを画策していると、助手の口から。

「歳を取ってからも、今のような話が続けられればいいなと。職場が離れても、僕は離れたくないです。僕は……」
「……職場は守るわ。可愛い部下だもの。でも、それを抜きにして……貴方、本気で言っ──」
「おっと、大分経っちゃいましたね。昼飯の時間が無くなってしまう……続きはまた後で、と──」

わざとらしく、強引に会話を畳まれてしまう。
耳まで赤い彼の横顔が眼に入るが……恐らくこちらも同じような状況だろう。
とんでもない贈り物の後に、とんでもないことを言われてしまった。鼓動が早く、何かを口に出してこの空気を打破するべきだと攻め立て、それが正しいことは重々承知しているのだが、脳がついてこない。とっくに処理能力の限界が来ているのだ。
助け舟は自分をこの状況に追いやった相手から出された。それもそのはず、この状況、己で己を救えないのなら助けは相手からしか訪れない。

「そういえば、今夜って空いてますか？　ディナーってほどじゃないですが、今年は僕が誘うぞと思っていたんです」
「今日のあなたの提案、一つ一つが聞くの怖いのだけれども……一応聞いておくわ、どこかしら」
「いいラーメン屋見つけたんですよ。屋台なんですが、チーマーみたいな若い子とかも結構来てて、流行ってる……職人気質の大将のラーメン屋です。カスラーメンとは違う。味は僕が保証しますよ」
「……あぁ、そうよね。そうであってくれてよかったわ。やっと一息付けた。えぇ、もちろん行きましょう。」

八月三十一日が持つ意味について問われれば、多くの人は夏休みの終わりと答えるだろう。あるいは八月の終わりか。どちらにせよ、世の大多数が終わりを感じる日──それが八月三十一日だ。
　彼女にとってその日は別の意味をもつが、あまり大きな意味を感じていなかった。己が産まれた日、始まりの日であるにもかかわらず、その一日の持つ圧倒的な終わり圧力の強さに屈してきたのだ。
従って彼女は己の誕生日が好きではなかった。ある時に己の誕生日が夏の終わりを告げる時報として用いられていることを知った時がそのピークだっただろう。
尤も、そんな遠い日の出来事は大人となった今、ほろ苦い思い出となって色あせているが、やはり己の誕生日が終わりの一日であるという気持ちは長年払拭できないでいた。
しかし、今年は違う。
夏は終わった。確かに気圧線の勢力図も変わりつつある。
それでも、彼女の心のうちに、手の内にある結晶と共に、始まったものがある。
それを何と呼ぶか、そもそも始まったのが今なのか。答えの存在しない疑問は尽きないが、確かに彼女の胸の内に存在している。
終わる昼休みに背を向け、化粧室から出てきた彼女の首からは、新緑色の絆が揺れていた。

ENo.77 偽黒初 とのやりとり

ItemNo.1 ものすごい清蒸魚 を食べました！
　体調が 0 回復！（30⇒30）
　今回の全戦闘において 活力54 敏捷54 が発揮されます。
　今回の結果でのスキル熟練度が伸びやすくなった！

少女の身体が地に沈み、消える･･･

具現LV を 3 DOWN。（LV3⇒0、+3CP、-3FP）

解析LV を 8 UP！（LV35⇒43、-8CP）
付加LV を 5 UP！（LV0⇒5、-5CP）

兎乃(223) とカードを交換しました！

お別れ （ユグドラシル）


グシオン を習得！

◇通常獲得：各CP･FPが5増加した！

麺屋の龍人(1595) は 金の光焔 を入手！
Dr.笹子(831) は 桜の光焔 を入手！
Dr.笹子(831) は 桜の光焔+1 を入手！
偽黒初(77) は 草色の欠片 を入手！

特に移動せずその場に留まることにしました。
体調が全回復しました！

声が響く。