［基本］OK.　［戦闘］OK.　［取引］OK.　［スキル］OK.　

穏やかな光景が広がっていた。
曰くここにあるのは時の流れが異なる空間で、あの少年から吸い上げた力と、自分がもともと持っていた力……時空と領域を足して2で割らない。そうすると、こうなるらしい。こうなるとふんわりした説明で言われても納得できるわけがなく、もっと理屈立てて説明しろと“明けの幻海”を問い詰めたが、それ以上のことは分からなかった。何故そんなふわふわした状態でいられる……と問い詰めたい気持ちと、用意された場に対して相応しくない気持ちが同居している。



テーブルと、その上に並ぶ数多の菓子と軽食。
こちらのことを意識して作ったのだろう意匠の細工が施されたもの。今までの生活では、ここでの生活では、とても無縁だったもの。

「この度は坊ちゃんをお守りいただき、果ては私の呪いを解いていただき、誠にありがとうございます」

目つきの悪い従者が礼をする。
己が新しく呪った男。生の呪いをその身に受けた男。

「この恩は一昼夜で返せるものではなく、ましてや残りの一時間では到底足りないものですが、出来うる限り場を整えましたので、以前言っていたお茶会を楽しんでいただければと思います」
『そういうわけで俺もちょっと手伝ったんや！キッチンとか用意したったんよ！！』
「うるさい」
『ひどい……俺なのに……』

すべての力を吐き出して、横にいる写し身に譲渡した自分の姿は、遥か昔の本の世界のものに近くなっていた。それだけが、あの本だけが、あそこであったことだけが、咲良乃スズヒコという男をそうと規定しているのだ。
だから決して失うわけにはいかず、結果として“明けの幻海”は自分よりも遥かに穏やかで優しい。あまり人の話を聞かないあたりとか、根っこに苛烈な部分があるのはよく似ているが。

「……そういや」
『うん？』
「この……狭間で、俺たちは本性を顕す。だから本質的に呪いは解除されている。それはいい」
『うんうん』

疑問に残っていることがあった。
今ここにいる彼……グノウ・スワロルドは、肉体に何の問題も抱えていない。けれども向こうの世界ではどうなっているのか、それは全てが終わったときに開示されるのか、それとも抱えたままになるのか、ということだ。
正直なことを言ってしまえばどうでもいい。ここに存在しているのは単なる興味だ。戻れば戻ったで面白く、戻らなければ戻らないで面白い。この時間が終わったら、すぐにでも出立するつもりでいたから、あの世界に“吉野暁海”は残らない。
正体の権利を委譲しはしたが、吉野暁海という普通の青年は消えるだろう。いや、委譲したからこそ消えるのだ。
吉野暁海は“記録する怪物”である本の怪物という姿、全てを超えて人を蘇らせるほどの強大な力、【鈴のなる夢】というバケモノが収集し続けてきたありとあらゆる知識、それら全てを引き継いで人ではなくなる。はじめから人ではなく、存在が架空だった。そこに存在するだけの価値を与えられたが、引き受けたものはあまりに強大すぎる。強大過ぎるが故に、確実にその身体には異変が現れるだろうと見ている。丸型フラスコにも似た揺りかごのような身体を見ていられるのも今だけだろう。これ以上会うことはないが。

『うーんと……ほら、俺、向こうのモノやったやん？』
「それはそうだけど」
『向こうのモノやから、向こうの身体も多分こう……キュッと』
「曖昧な回答は控えてくれないか？」

大丈夫やって！と高らかに宣言する声が全く信用できず、スズヒコは肩を竦めた。とはいえ、自分たちも“これ”に乗ってこの世界を突き破り、強引に外に出ていくつもりだ。それほどまでの力と知識を持っていて、気が狂いやしないのか。自分は切り分けるためにかなりの時間を要して、そしてそれでも狂い果てたというに。

『でも大丈夫言うたら大丈夫になると思うよ？』
「その根拠はどこから来るのか聞いてるんだけど」
『それはほら、俺がやったから……になるんだけど。それじゃあかんかな』
「……」

これ以上の問答は無駄だと判断し、スズヒコはグノウが指し示した席につく。
ずらりと並ぶカップと菓子の類を改めて見ると、“主人と従者”という関係がすうと腑に落ちるようだった。

「紅茶も数種類ご用意いたしました」
「僕はミルクティー！」
「かしこまりました」

この先、続いていくのは健全な肉体による関係だ。健全な肉体にこそ健全な精神が宿り、そして彼らはこれからも生きていく。
死してなお足掻いているような我々とは、何もかも違う道を歩んでいくのだ。

「グノウの作ったお菓子もお茶も美味しいんだよ！僕も手伝ったし」
「ナレハテクッキー？」
「よく出来てるな」
「……クマだよ？」

いびつな形のクッキーを見、笑みが溢れる。似たようなことを、ずっと昔生きていた頃、下の娘がやって大泣きしたのだ。上の娘は神経が図太いというか肝が据わっているというかで、全く意にも介さなかったというのに。

「それで、お二人はどの葉になさいますか？」
「お茶は全ッ然詳しくないからな……グノウさんオススメ」
「茶葉より豆はねえのかよ」
「フェデルタ」

デリカシーがなければ態度も悪くて煙草臭く、取り柄があるなら恐らく銃が扱えることくらい。自己評価も低ければ学もなく、けれどもこの人でなければならなかった。
自分の子供が信頼をおいた。初めはそれだけのはずで、それ以上のことが起こるわけがないと思っていた。ろくな父親ではなかった。時代に揉まれたといえばそれが全てだが、父親らしいことが彼女に何かできたかと言われたら、何も。何もできてはいなかった。
だから初めに思ったことは、娘の男を見る目の無さだった。それを言ってしまえば、母親からの遺伝かもしれないのだが。
けれどもその心の内には確かに燃える炎があり、その時は勢いを失って燻っていたのだとしても、それを認めて良いと思えたのだ。



人間なんて嫌いだった。
誰も自分のことを助けてくれなどしなかった。
だから全てを独りでできるように学び、動き、抗い、死んだ。



自殺だった。
それに何も後悔はなかった。



いわゆるスタンダードな、変わり種のフレーバーではない紅茶を口にしながら、考えることがある。
つくづく炎に縁があり、失わないために炎を放ち、そして炎を燃やすだけの燃料が自分にはある。さながら誇りのように炎は常に燃えていて、それが何を意味していようとも、常に自分は炎と共にあった。
怒り。復讐。怨恨。熱源。宝物。全て、全てが己を構成するアイデンティティで、それを喪ったとき、真に“咲良乃スズヒコ”は死に絶える。そしてただの怪物が遺される……という、予測ができていた。
だから最期、燃料を使い切って、灰になって散るように。それだけを望んでいたはずなのに、否定され、怒り狂った。今思えばなんてバカらしいと思えるが、狂った精神は何をするか皆目見当がつかないものた。
“明けの幻海”は大いなる海を冠しているだけあって、全てに対して寛容だった。所詮“夢”とは違うのだ。一人が思い描き、夢想し、望むものとは何もかもが違う。反転の方法を変えたら、クロシェットではなく彼が生まれる……というのが、あまりにも正しい言葉だった。

『あ、ねえ俺？ちょっといい？』
「無粋なことをするね？」
『それは俺やなくて、あっちの俺に言うてほしいんだけど……』

隔絶されているはずの空間に、それは当然のように立っていた。



クロシェットは当然のように茶会の一角から菓子を取り、それからスズヒコを空間の端に呼び寄せた。崩れたクッキーを頬張りながら、言伝があるのだと。

「それで。話すなら早く片付けてくれないか」
「俺だってそんな邪魔する気はございません？安心してどうぞ」
「安心できたことがないから言ってるんだよ」
「そうカリカリすんなよ。別にここでうだうだしたからって、60分が無駄になるわけじゃない……むしろどうなってんだ？俺が聞きたいくらいだ」

緩やかな時間の流れを作り出したのも、自分の分け身だ。
もはや過疎地になった始まりの地を勝手に区切り、そこに自分たちだけの場を作っている。“明けの幻海”もお人好しだが、それに付き合ってやっている自分たちもお人好しだと思っている。
礼など不要だと個人的には思っている。謝礼はすでに結果として支払われていて、それ以上にも以下にもならない。ただ、好意は受け取っておこうと、それだけを思っていた。

「俺はあんたと話したくないって言ってるんだ、これも何回か言ったつもりだが？」
「何百回は聞いたかな……だが大事なことを聞くために来てるんだこっちも。率直に聞くぜ、あんたは“どこに行きたい”んだ？」
「……」

最期の旅路になる。
文字通り最期、もうこれっきり。できるだけ障害はない方がいいよな、と思いながら、何も考えてはいなかった。
いや、正確に言えば、ずっとこれでよいのかと思っていた。

「……」
「人をなんでそんなこと聞くんだみたいな目で見るんじゃありません」
「だがそうだろう。お前と俺たちはもう関係ない」
「実は案外そうでもない。あんたが消えたら俺はやっと自由なんだろうけどね」

ここさえ出れば、あとは自分の力でどうにかできる。今までだってそうしてきた。望むところを見つけ出し、そこで燃え尽きることができると。
そのつもりでいたはずなのに、今確かに心が揺れている。

「あのお人好しのアケミちゃんが、好きなところに連れて行くっていうからよ。考えといて」
「……おい、あの世界の構造を知ってて言ってるのか」
「俺は知ってるけどアケミちゃんはどうだろ。ただ……」

落ちるのは容易いが、登るのは難しい。
自分のいた世界をよく表している言葉で、世界学や境界学に触れていれば最初に聞く言葉だ。
要するにあの世界は積層構造になっていて、たまに人や物が“落ちる”ことがある。黎明の世界樹エーオシャフトでは、世界は巨大な木の一葉として見做され、そこから滑り落ちたものは決して戻ることはないとされている。

「上層に戻るチャンスだぜ？」
「……お前」
「カリカリすんなよ、今いい感じの空気だろ」

積層構造になった世界は神の御使いにより管理され、高度な文明を持つ葉ほど高い位置にあるように調整される――らしい。仔細はまさに神のみぞ知るだが、神の存在は信じていない。
要するに、自分に与えられたものは“自分の世界に戻れるかもしれない”というチャンスだった。戻ってどうなるという気持ちと、少しばかりの望郷の念。

「ま、急ぎの用事ではあるけど、急ぎじゃないし。俺はこの辺で菓子食ってるから」
「……」
「俺だって功労者だぜ？あの呪いのデータ持ってあっちこっち飛び回ったんだからさ、ちょっとくらいいいでしょ」

それは全く彼の言う通りで、クロシェットが頻々にその身に宿した能力で行き来していなければなし得なかったこともある。十二分な解析データをこちらに齎したのは彼だ。

「……ちゃんと挨拶くらいしていって。あと一切合切の迷惑は掛けないで」
「ガキじゃねえんだぞ。迷惑ならあんたのおっさんの方が得意だろ」
「俺の格が下がるようなことはするなって言ってるんだよ」

話を終えて戻ると、自分の椅子の前に、鮮やかに飾られたレアチーズケーキが置かれていた。
クロシェットが挨拶に向かうのを認めながら、それを静かに見下ろしている。――最後にひとつだけ、決めなければならない。

フェデルタ(165) から 強固な甲殻+1 を手渡しされました。

ItemNo.5 レッドベリージュレ を食べました！
　体調が 0 回復！（30⇒30）
　今回の全戦闘において 器用41 幸運47 連撃54 活力38 が発揮されます。
　今回の結果でのスキル熟練度が伸びやすくなった！

少女の身体が地に沈み、消える･･･

命術LV を 5 UP！（LV70⇒75、-5CP）
武器LV を 5 UP！（LV91⇒96、-5CP）

ItemNo.30 強固な甲殻 に ItemNo.34 強固な甲殻+1 を合成し、活力漲るクーポン券 に変化させました！
　⇒ 活力漲るクーポン券／素材：強さ55／［武器］追風50(LV95)［防具］滑々50(LV95)［装飾］幸運50(LV90)


グノウ(909) により ItemNo.30 活力漲るクーポン券 から射程1の暗器『銀殻のペーパーナイフ』を作製してもらいました！
　⇒ 銀殻のペーパーナイフ／暗器：強さ707／［効果1］追風50 ［効果2］－ ［効果3］－【射程1】

えるざ(881) とカードを交換しました！

風邪薬 （ポーションラッシュ）


クランブル を研究しました！（深度0⇒1）
クランブル を研究しました！（深度1⇒2）
クランブル を研究しました！（深度2⇒3）

◇通常獲得：各CP･FPが5増加した！

グノウ(909) は 金の光焔 を入手！
スズヒコ(244) は 桜の光焔+1 を入手！
迦楼羅(931) は 金の光焔 を入手！
フェデルタ(165) は 桜の光焔 を入手！
グノウ(909) は 草色の欠片 を入手！

グノウ(909) がパーティから離脱しました！

迦楼羅(931) がパーティから離脱しました！

特に移動せずその場に留まることにしました。
体調が全回復しました！

声が響く。