［基本］OK.　［戦闘］OK.　［取引］OK.　［スキル］OK.　

「……、トキ」






「――――」





喧騒の中、
曇天のもと、人通りの多さと対照にどこか薄暗い駅前の一角で。

不意に届いたその声は嫌にクリアに耳に届き、
弾かれるように男の視線はその声の主へと引っ張られた。




聞き馴染みのある声だった。



自分をそう呼ぶ人物を一人しか知らなかった。





「……ッ！」


咄嗟に近くまでやってきたその人物の手を掴もうと手を伸ばす。


――が、
指先が到達する直前に彼女は腕を引いてしまう。

触れられる事を好まないのは重々承知の筈なのに、
知っていて、無意識にやってしまっていた。


その事に気付いて、行き場を無くした手をそっと引く。



居心地の悪さを感じて視線を横に逸らすも、
道行き交差する通行人達はこんな片隅のやり取りなど気に求めない様子で過ぎ去っていく。

無関心。
ただの一背景。

構わない、自分にとっても彼らは同じ様に映っているのだから。



けれど、
男のそんな挙動を目にした彼女は、妙に思うところがあったのだろう。



暫し、何も言わずに窺う様な眼差しを向けていたのだが、

ややあって、そっと。彼女は小さく口を開いた。






「……、……目を覚ましたんだ」






（――――、え）





正面に視線を戻す。


見上げる。






だってそれは、まるで、


つい先程まで、この男が“どういう状況に陥っていたのか”を知っている口ぶりで。





「お前……」


今度こそ、その腕を捕まえる。
必死さがそのまま指先の力に加わってしまっても気にせずに。

今度こそ、彼女は手を遠ざけなかった
見開かれた浅葱色の、その意図に気付いている様子で。




「…………、

　……場所、移そうか」




楪葉はこちらの返事も待たずに、踵を返す。


きっとそれは、肯定。

その背中をじっと見つめていた男はやがて腰を浮かせては、
彼女の後ろ姿を追いかけた。














預かり屋、夏梅。

彼女の後をついて辿り着いたのは、よく知る事務所だった。



先程戸締まりをしたばかりの扉を解錠し、事務所へと招く。
話をするのに事務所を選んだのは彼女の方だ。
この場所が最も安全に話ができるという考えは同意だった為
こちらからも別意見を口にはせずに受け入れた次第である。


けれど、普段とは異なり飲み物を用意する気は無かった。

そんな余裕なんて無かった。



「楪葉」


「ねえ、トキ」



焦りの滲んだ声を遮る様に、彼女の声が真っ直ぐに響いた。


視線を落とせば、眉を寄せた窺う様な色。
瞬間、余裕の無かった頭が少しばかり冷静さを取り戻した気がして、
直ぐに返事を出来ずに居た男に代わり、楪葉は言葉を続ける。


「あそこで何があったの……？」


「……あそこ、って？」

どこの事だろうか。
尋ね返す代わりに彼女に向き直れば、彼女もまたじっとこっちを見つめ、
眉間に皺を寄せただろう。

「……覚えてないの？」

「覚えてるも何も、お前はいつのどこの話をしてるんだ？」

「んん……？」

この時点で既に食い違いが起こっている様だ。
互いに互いを訝しむ様な妙な空気が事務所を満たしており、
疑念だけがひたすらに膨らんでいく。


「トキは、ついさっきの事を言っているんじゃないの？」

「そうだけど……」








「何も無い路地裏で倒れてた事じゃなくて？」








……………………。







「…………は……？」








言葉を失う。
そう語った彼女の顔を凝視する。




路地裏で？


倒れていた？





……何の事だ？







「……ちょっと、待て……」


「なあ楪葉、路地裏ってどこの事だ？」



「俺はさっき駅前に行くまで、今日はずっとこの事務所に居たんだぞ？」





「え、……」



今度は彼女の方が言葉を失う番となった。


疑念の色を濃くし、“本当に”と問いかける様な視線が突き刺さる。
けれどこればかりはどうしようもない。
自分は事実しか口にしていないのだから。

そしてそれは、彼女にも伝達してくれたらしい。



「ねえ、待ってよ。それ本当？」

「ここで嘘ついてどうするんだよ。
　そもそも俺は――」



そうして口を開き、素直にこれまでの経緯を彼女に伝える事にした。



午前中、仕事の開始時刻の頃には叔父と一緒に居た事。


階段から上がってきた来訪者に気付き、
扉を開けた所でぷっつりと意識が途切れた事。


目を覚ましたら自分はこのソファの上に横たわっていて、
叔父の姿が見えなくなっていた事。
連絡が取れなくなっている事。



「…………」


そうして語る間に、次第に自分の中の焦燥も落ち着き始めてくる。

言葉にした事で自分にとっても状況整理が叶っているのだろう。
周囲に気を配れる程度には、男の中にも余裕は生じ始めていた。


「……そう、…………」


一通り状況を聞き終え、把握したらしい楪葉の口からぽつりと言葉が零れ出る。
口元に折り曲げた指先を宛てがって、視線が床へと落ちていく。
昔から、彼女が深く思案する際の癖だ。


「実は、あんたをここのソファまで運んだのは私なんだよ」

「えっ」


そこで彼女が関わってくるとは思ってもみなかった。


「今日、事務所に顔を出す予定だったから。
　周囲の見回りも踏まえて色んな裏道を通りながら夏梅を目指してたら、
　……丁度、この雑居ビルの裏手かな。あんたが壁に凭れ掛かる形で倒れてた」


「…………」



…………。


…………知らない。


その事実を口にこそしなかったけれど、
先の説明と今の表情とでおおよその事を彼女も察しているのだろう。

確認を挟む事無く、続ける。


「傷を負っている訳でも汚れている様子も無くて不思議だったんだけど、
　いくら声をかけても揺すっても起きないし、息をしてたし、
　流石に道端に倒れてる知人を放置するのも気が引けたから、事務所まで運ばせてもらったよ」

そういえば、事務所の扉も開けっ放しだったよと付け足される。
彼女が難なく男を運び入れられたのもそのおかげもあるのだろう。

「でもその運んでる最中の揺れでも起きないし、嫌な予感がしたから
　私の方でも叔父さんに相談しようと思って探して回ってた。
　……そしたら、次に戻ってきたらあんたもいなくなっちゃってて」


そうして、二人纏めて探していた所。

駅前で自分の姿は発見出来た、という流れらしい。



彼女の話におかしな点はみられない。

きっと、本当の事なのだろう。


「じゃあ、お前がさっき“あそこで”って言ってたのは
　路地裏の事を差してたんだな？」

楪葉は一つ頷く。

「でもあんた、事務所の裏手まで行った覚えは無いんでしょ？」

今度は男が首肯を返した。


「…………」


「…………」


そうして、二人して黙り込んでしまう。

状況確認をし終えても、疑問ばかりがそこに残ったからだ。


「……それで、身体は？」


「ああ、……別になにも。
　……何も無さ過ぎて、違和感しか無い位」


そう言いながら両手でぐーぱーと握り開きを繰り返す。
自分の身体である筈だ。それは当たり前である筈なのに、……妙な違和感が付きまとう。

そんな中でも、楪葉は短く「そう」とのみ返してくれた。



そう、“何も無さ過ぎる”。

仮に何かしらの要因で記憶が抜け落ちたのだとしても、
怪我をしたとか、頭を打ったとか、
把握出来る材料があればまだ幾分か安心出来るのに。


思い出せない。


それ“だけ”だからこそ――気持ち悪くてたまらない。






「……私の方でも、叔父さん。捜してみる」

「頼めるか？」


こちらがそう告げるよりも先に扉に歩み始めていた彼女は、
そこでぴたりと一つ、足を止めた。


「うん。
　私とあんたとで見回りこそしてたけど、もしかしたら何かあったのかもしれないし。
　……あんたに事情を話したからには、あの人、勝手にいなくなる様な事はしないと思うし」


「…………」


しないと思う。
そう信じたい気持ちが強かった。

だから男も、その前者の方に既に意識を向けていたのだ。


「ある程度捜し回って、……見つからなければ今日はそのまま帰るよ。

　それと……何があるとも限らないから、私も少し、此処に近づかない様にしようと思う。
　でも、何かあれば直ぐに伝える。……それでいい？」



端的に伝える彼女の言葉に、一つ目を伏せてやる。
頷きの代わり。それでいいと伝える。



もし、もしも。

叔父が自主的にいなくなってしまったのではなくて。

敵方にこの場所が把握されているのだとしたら、

叔父がその件で行方をくらませたのだとしたら。

この場所も安全とは限らない。


自分は此処にいる義務が在るけれど、彼女はそうではない。


二人して巻き込まれてしまっては、それでは意味が無い。



彼女は以前からそう言う性格だ。慎重だ。

……連絡の約束をしてくれただけ、十分だ。




彼女と再会出来たのは幸運だったのだろう。

おかげであの頃の――仕事をする時の冷静さが、蘇ってくる様だ。



「ああ、俺も。何かあれば直ぐに伝える。
　……深追いはしなくていいからな。きっと、“枢木家”の問題だ」


「相変わらず頭の固い。
　……あんたも、身体の調子が戻るまでは無茶はしない方が良いよ」



止めてくれた叔父が、いなくなってしまったのだから。

言葉にされなかった空白に、その様な意味が込められている事を悟り。
男がすぐに言葉を返せないでいると、その最中に彼女は歩き始めてしまった。




「それじゃ」




「……もし、
　なんて事無い様子で叔父さんが帰ってきても連絡ちょうだい。

　思いっきりぶん殴ってやるから」





そうして、物騒な発言を最後に。
まるで“またね”とばかりに普段の調子で。

扉の向こうへ姿を消してしまったのだ。





『…………』


そのタイミングを見計らって、そろりと壱緒が部屋の奥から姿を現す。

とんと軽い足取りで卓上に飛び乗り、そのまま止まる事無く男の肩へと飛び移った。


「……壱緒」


「お前は、何か見た？」


ぺたり。小さな猫の耳が伏せられる。
見ていないと言う意思表示と、役立てなかった落ち込みとが混ざったそれ。

そんな様子に、自ずと男の口元に苦笑が滲んだ。
……少しばかり、強張っていた身体の力が抜けてくれた。



「いいよ、気にしなくて」




「……叔父さんの事、信じよう」




杞憂で終われば良い。


なんて事無い顔で、『出かけてた』なんて笑いながら帰ってきてくれれば良い。







それでも、何もしない訳にも行かなくて。





男も再び、灰色の冬の街へと繰り出した。






























――楪葉とは、それっきり。


叔父も、その日を境に帰って来ないまま。







もう、今年で6年目。






店主代理という形で、預かり屋の店主を名乗り。


今日も一人で客を相手にして、


街に出る度に、その背中の影を捜しながら。





もう、6年。





今年こそ。

今年こそはと、思いつつも。





今日も、また一人。





今日も、また。



叔父は帰っては来なかった。

ENo.153 六花 とのやりとり


ENo.947 もも とのやりとり

ItemNo.40 白檀の塗香 を使用しました！
　魔香のため、体調は回復しなかった。
　今回の全戦闘において 回復40 が発揮されます。
　今回の結果でのスキル熟練度が伸びやすくなった！

自然LV を 19 DOWN。（LV40⇒21、+19CP、-19FP）
幻術LV を 5 DOWN。（LV45⇒40、+5CP、-5FP）
料理LV を 77 DOWN。（LV77⇒0、+77CP、-77FP）

領域LV を 29 UP！（LV11⇒40、-29CP）
装飾LV を 82 UP！（LV0⇒82、-82CP）

六花(153) の持つ ItemNo.33 桜の光焔 から聖衣『海中星の紐飾り』を作製しました！

ゆり(601) とカードを交換しました！

満漢全席 （ミリキアレギア）


ジハード を研究しました！（深度0⇒1）
ジハード を研究しました！（深度1⇒2）
マルバス を研究しました！（深度0⇒1）

魔晶作製 を習得！
護符作製 を習得！
薬箱作製 を習得！
領域残滓 を習得！
ジハード を習得！
ルフリア を習得！
息災延命 を習得！
光飾作製 を習得！

◇通常獲得：各CP･FPが5増加した！

六花(153) は フォーク を入手！
枢木(296) は スプーン を入手！
六花(153) は 蓮根 を入手！
枢木(296) は すごい海藻 を入手！

六花(153) に移動を委ねました。

マシカ区 D-1（沼地）に移動！（体調20⇒19）
マシカ区 D-2（沼地）に移動！（体調19⇒18）
マシカ区 D-3（道路）に移動！（体調18⇒17）
マシカ区 D-4（道路）に移動！（体調17⇒16）
マシカ区 D-5（森林）に移動！（体調16⇒15）

採集はできませんでした。
　　 - 六花(153) の選択は タニモリ区 C-11：チェックポイント《屋台》（ベースキャンプ外のため無効）

MISSION - 未発生：
　　 - 六花(153) の選択は マシカ区 Q-2：チェックポイント《白い渦》（ベースキャンプ外のため無効）

［805 / 1000］ ―― 《瓦礫の山》溢れる生命
［436 / 1000］ ―― 《廃ビル》研がれる牙
［482 / 500］ ―― 《森の学舎》より獰猛な戦型
［204 / 500］ ―― 《白い岬》より精確な戦型
［402 / 500］ ―― 《大通り》より堅固な戦型
［328 / 500］ ―― 《商店街》より安定な戦型
［265 / 500］ ―― 《鰻屋》より俊敏な戦型
［194 / 500］ ―― 《古寺》戦型不利の緩和
［118 / 500］ ―― 《堤防》顕著な変化
［143 / 400］ ―― 《駅舎》追尾撃破
［5 / 5］ ―― 《美術館》異能増幅
［149 / 1000］ ―― 《沼沢》いいものみっけ
［100 / 100］ ―― 《道の駅》新商品入荷
［311 / 400］ ―― 《果物屋》敢闘
［47 / 400］ ―― 《黒い水》影響力奪取
［224 / 400］ ―― 《源泉》鋭い眼光
［94 / 300］ ―― 《渡し舟》蝶のように舞い
［108 / 200］ ―― 《図書館》蜂のように刺し
［104 / 200］ ―― 《赤い灯火》蟻のように喰う
［46 / 200］ ―― 《本の壁》荒れ狂う領域
［84 / 100］ ―― 《珈琲店》反転攻勢
［100 / 100］ ―― 《屋台》更なる加護
［75 / 100］ ―― 《苺畑》不安定性
［13 / 100］ ―― 《荒波》強き壁
［100 / 100］ ―― 《小集落》猛襲
［37 / 100］ ―― 《落書き壁》リアクト
［76 / 100］ ―― 《変な像》揺らぎ
［71 / 100］ ―― 《白い渦》不幸
［100 / 100］ ―― 《黒い渦》不運
［15 / 100］ ―― 《線路》駆逐



―― Cross+Roseに映し出される。

　

　

　

時計台が映る。

　

　

　

秒針が静かに進む。