［基本］OK.　［戦闘］OK.　［取引］OK.　［スキル］OK.　

　それは両親を早くに亡くした大曲が祖父母の家で暮らした、十年弱の期間の出来事だ。
　当時既に祖父は他界していたが、健在だった頃に母に連れられて訪れた時、かわいがってもらった記憶はあった。
　大曲は確かに祖父母のことが好きだった。
　だから祖父のいなくなった母の実家で暮らすことになって、嬉しかったのだ。祖父はいなくとも、あたたかな思い出の残る家で暮らせることが。

　祖父母の家に移った最初の夜。
　夜中に人の声で目を覚ました大曲が目を開けると、枕元に祖父が立っていた。
　はじめは祖父だとはわからなかった。
　恐ろしい顔だった。怒りや恨みや妬み、負の感情を全部混ぜて固めたようなグロテスクな表情を貼りつけた、人型をした何かが見下ろしていた。


『……は　るひ　ト』


　自分の名を呼ぶ声で初めて、それが祖父であると思い至った。
　節くれだった冷たい指が首にかかった時、大曲は恐怖すると同時に困惑した。

　だって同じ死人でも、両親は幽霊になんてなっていない。
　少なくとも自分の前には現れなかった。どうして祖父だけが、こうして現れるのだろう。

　大曲の両親はよくも悪くも淡白だった。共働きで出張も多く、しばしば大曲は祖父母の家に預けられた。別に育児放棄されていたわけでもないが、どことなく他の家庭とは違う空気だと思っていた。寧ろ祖父母の方が、同級生の家庭と雰囲気が近いようだった。
　ただ一人の孫だったからか、祖父母は大曲をよく可愛がった。特に祖父は、男の子が欲しかったのだろう。結局自分達には娘しか生まれなかったから、というのもあったのかもしれない。

　だから多分、両親と祖父の違いは、執着の深さだと思った。


「おじいちゃんに殺される」

　何度かそういう夜があって、耐えかねた大曲は祖母にそう打ち明けた。
　恐ろしい顔で枕元に立つ祖父のこと。震えるほど冷たい手のこと。全て話した。
　祖母は黙ってそれを聞き、それから皺だらけの顔でぱちぱちと瞬きをして、そっと大曲の頭を撫でた。

「いいかい晴人、おとうさんはきっと両親のいないおまえがかわいそうで、一緒に天国に連れて行こうと思ったんだよ。
　晴人がちゃんと、"僕は大丈夫だよ"って言ってあげればきっと、わかってくれるとも。
　そうだ、今日はおばあちゃんの部屋で寝ようか。もしおとうさんが来たら、おばあちゃんも話してあげるから。そうしよう、それがいい」

　両親を亡くした孫を哀れんで、愛しているからこそ自分と同じところに連れて行こうとしたのだろうと、そう祖母は言った。
　今にして思えば、大曲の言葉を全て信じていたわけではないだろう。子供の見た悪い夢だと思っていたのだろう。だからこそ、安心させるような答えを返した。

　あの顔を見ていないから、あの手に触れていないから、そんなことが言えるのだ。
　あれが天国とかいうところに行く人間の顔だと言うなら。


　――あんな恐ろしいものが愛情の果てだと言うのなら、あたしは。


「……うん。じゃあ、今日はおばあちゃんの部屋で寝る」

　大曲はものわかりのいい顔をして、懐っこい笑顔を浮かべてみせた。
　それから祖母にその話をすることはなくなった。
　相変わらず祖父の影は現れ、大曲の精神を削り続けていたが。
　もう大曲は祖母に理解を求めなかった。

　助けてもらえないなら、感じた恐怖の共有すらできないなら、独りで乗り越えるしかない。
　恐ろしいものと向かい合って、目をそらさずに。
　それがどういうものなのか、どうしてそうなっているのか、……どうすれば回避できるのか。

　信じるためではなく避けて通るための、時には否定するための知識の収集。
　わけのわからないものは恐ろしい。
　けれど、対抗する手段や回避する術が見つかれば。或いは、タネが割れてしまえば。
　少なくとも、何もわからない恐怖からは解放される。
　わけのわからないものでは、なくなる。


*******


　祖母のことは今でも好きだ。
　けれど、結局最後までわかり合うことはなかった。


　だから"あたし"は、おばあちゃんの前ではいつも"僕"だった。


*******


「…………最悪」

　瓦礫の上に座り込み、大曲晴人は大きく息を吐いた。
　濡れた触手の感覚が纏わりついて剥がれない。それから、自分の骨が砕ける音も。まだ耳の奥に残っている。

「ホントに蛸苦手になったかも」

　研究室で斑目水緒にそう告げた時点では、それは真っ赤な嘘だったのだが。
　それでも収穫がなかったわけではない。あの蛸は飼い主から離れることはないだろう。斑目水緒の姿がないところに現れることはないはずだし、こちらから近づかなければ追ってくることもなさそうだ。正体不明のまま置いておくのはどうにも気持ちが悪いが、近寄らないのが最善だろう。
　鮮やかな豹紋柄を思い出すと少し吐き気がして、口元を抑えて息を整える。

　――落ち着け。動揺するな。でないと、

『痛かった？』

　声がした。
　妙に抑揚の薄い、高くもなく低くもない声。
　顔を上げると、真っ黒な穴と目が合った。いつの間に影から這い出したのか、目の前に黒猫が座っている。

「……わかりきったこと聞かないでちょうだい」

　努めて平静な声で返す。

『やめたい？』

　返答はすぐに返る。

『……やめたい？』

　畳み掛けるように。追い詰めるように。問いが重ねられる。
　態度や言葉でいかにも手札がいくつもあるように振る舞ってはいるが、実のところ大曲自身はただの人間だ。
　身体能力は一般的な成人男性の域を出ないし、戦闘において有利に働く勘や経験があるわけでもない。アンジニティに来て、敵意や気配を察知する勘は多少得たような気もするが。
　唯一の切り札と言えるのが、この黒猫という存在。
　名前も何もわからないので黒猫ということにしているが、絶対に猫などではない。普通の猫は影の中に潜まないし、大きさが変わったりもしないし、喋らない。
　人の智の及ばない何か、怪異の類には違いない。
　或いは、自律する飛び道具のようなもの、とは言える。命令すれば目にも留まらぬ速さで動き、敵を攻撃してくれる。大きさは最大でも大型の猫科動物程度のようなので、それくらいで相手になるものならば、これを使って撃退することはできる。

　勿論、アンジニティにいるのはこれが通じる相手ばかりではない。
　黒猫の真の価値は、戦闘能力ではなく契約そのものにある。


　"大曲晴人が望みを叶えるまで、死なせない"。


　これが一人と一匹の間に交わされた契約だ。
　その言葉通り、大曲晴人は死ぬことがない。
　例え死ぬような目に遭ったとしても。その死も、負った傷も、失った血もなかったことになる。
　この契約があればこそ、ただの人間はまだここに立っている。
　期限は望みを叶えるまで。
　或いは、大曲が自分から契約を終わらせたいと言い出すまでだ。
　そうして、いつか契約が終わった時。
　この魂は黒猫のものとなる。

「そんなことより、随分遅かったじゃない。
　あたしとあなたの仲なのに、助けに来てくれないなんて。つれないのね」

　じろ、と黒猫を見る。

『遅かった？』

　黒猫はこてりと首を傾げた。
　そういうことはこれまでにもあった。
　間に合わなかったのだろうと思うようにして片付けた、いくつかの瞬間。
　恐らく、間に合うことはできたのだ。
　あの蛸に捕まった瞬間にも。
　これは意図をもって、大曲を見殺しにした。

『苦しかった？』

　これは基本的に命令には従う。とはいえ、何でも言うことを聞く便利な使い魔では決してない。意思をもって、従うかどうかを都度判断している。
　これ自身の目的のために。

『そうなら、もう、やめたい？』

　問いは結局、同じところに戻ってくる。たまに話しかけてくると思ったらこの調子だ。
　これは待っているのだ。
　契約者の精神が、死の記憶と時間に磨り潰されるのを。
　疲弊した魂が終わらせてくれと懇願するのを。
　或いは、同じやり取りに辟易してうっかりと頷いてしまうのを。ただ、待っている。

「……見くびらないで」

　薄く笑みを浮かべてみせる。
　取り立てるにはまだ早いと、態度で示す。
　輪廻などというものを本気で信じているわけではないし、生まれ変わりたいなどと思ったこともない。大曲晴人にとってこの生だけが生であり、それが終わったらそこまでだ。
　けれど、それでも、まだ早い。

　まだ。あたしの望みは叶っていない。

『…………』

　首を傾げたポーズのまま、黒猫の姿が影に溶けて、消えた。


　大曲晴人の望み。
　アンジニティに落ちたことは、好奇心を満たすものとして楽しんですらいる。
　急に始まったイバラシティへの侵略も、ほとんど陣営に貢献せず気楽に眺めている。
　その姿勢通り、気ままに人生を楽しむことを望みとしていたら、もしかしたら黒猫をうまいこと言いくるめて永遠に生きられたのかもしれない。

　が、勿論そんなことは望んでいない。
　望むことはただひとつ。


　元の世界に、戻ることだ。

ENo.1600 みづち とのやりとり

ItemNo.41 斧に絡んだ肉片 を食べました！
　体調が 0 回復！（30⇒30）
　今回の全戦闘において 攻撃10 防御10 増幅10 が発揮されます。
　今回の結果でのスキル熟練度が伸びやすくなった！

守護者の姿が消え去った――

　

　

六角形の柱から天に向け、赤色の光柱が立つ。

どうやら次元タクシーで行けるようになったようだ。

サクマ(17) から 200 PS 受け取りました。

防具LV を 13 DOWN。（LV99⇒86、+13CP、-13FP）

領域LV を 5 UP！（LV10⇒15、-5CP）
付加LV を 18 UP！（LV72⇒90、-18CP）

タウラシアス(173) により ItemNo.8 ものすごい木材 から射程3の呪器『波濤の嘶き』を作製してもらいました！
　⇒ 波濤の嘶き／呪器：強さ909／［効果1］攻撃40 ［効果2］－ ［効果3］自滅19【射程3】

タウラシアス(173) の持つ ItemNo.7 金牛宮の黒き斧 に ItemNo.15 黒水晶 を付加しました！
タウラシアス(173) の持つ ItemNo.23 盗み出された星の加護 に ItemNo.13 書類 を付加しました！
ペーター(557) の持つ ItemNo.40 夢世界を攫う大匙 に ItemNo.13 活力漲る魔力溢れる造花 を付加しました！
　⇒ 特質強化！効果3のLVが19増加！

花守院(36) とカードを交換しました！

『泥被る造花』 （エレクトリックパレード）


ウェルフェア を研究しました！（深度0⇒1）
ウェルフェア を研究しました！（深度1⇒2）
ウェルフェア を研究しました！（深度2⇒3）

ツインブラスト を習得！
エスコート を習得！
治癒領域 を習得！
悪夢 を習得！
ファンタジア を習得！
ワイドアナリシス を習得！

◇通常獲得：各CP･FPが5増加した！

タウラシアス(173) は 書類+2 を入手！
タウラシアス(173) は 書類 を入手！
タウラシアス(173) は 雪兎 を入手！
タウラシアス(173) は 雪兎 を入手！

次元タクシーに乗り マシカ区 J-8：チェックポイント《黒い渦》 に転送されました！


タウラシアス(173) に移動を委ねました。

マシカ区 I-8（森林）に移動！（体調30⇒29）
マシカ区 H-8（道路）に移動！（体調29⇒28）
マシカ区 G-8（道路）に移動！（体調28⇒27）
マシカ区 F-8（道路）に移動！（体調27⇒26）
マシカ区 F-9（山岳）に移動！（体調26⇒25）

採集はできませんでした。
　　 - タウラシアス(173) の選択は チナミ区 E-5：チェックポイント《出発地》（ベースキャンプ外のため無効）

MISSION - 未発生：
　　 - タウラシアス(173) の選択は マシカ区 J-8：チェックポイント《黒い渦》（ベースキャンプ外のため無効）

［805 / 1000］ ―― 《瓦礫の山》溢れる生命
［434 / 1000］ ―― 《廃ビル》研がれる牙
［475 / 500］ ―― 《森の学舎》より獰猛な戦型
［199 / 500］ ―― 《白い岬》より精確な戦型
［404 / 500］ ―― 《大通り》より堅固な戦型
［325 / 500］ ―― 《商店街》より安定な戦型
［266 / 500］ ―― 《鰻屋》より俊敏な戦型
［193 / 500］ ―― 《古寺》戦型不利の緩和
［116 / 500］ ―― 《堤防》顕著な変化
［143 / 400］ ―― 《駅舎》追尾撃破
［5 / 5］ ―― 《美術館》異能増幅
［148 / 1000］ ―― 《沼沢》いいものみっけ
［100 / 100］ ―― 《道の駅》新商品入荷
［309 / 400］ ―― 《果物屋》敢闘
［47 / 400］ ―― 《黒い水》影響力奪取
［219 / 400］ ―― 《源泉》鋭い眼光
［98 / 300］ ―― 《渡し舟》蝶のように舞い
［105 / 200］ ―― 《図書館》蜂のように刺し
［99 / 200］ ―― 《赤い灯火》蟻のように喰う
［49 / 200］ ―― 《本の壁》荒れ狂う領域
［83 / 100］ ―― 《珈琲店》反転攻勢
［100 / 100］ ―― 《屋台》更なる加護
［71 / 100］ ―― 《苺畑》不安定性
［15 / 100］ ―― 《荒波》強き壁
［100 / 100］ ―― 《小集落》猛襲
［32 / 100］ ―― 《落書き壁》リアクト
［64 / 100］ ―― 《変な像》揺らぎ
［40 / 100］ ―― 《白い渦》不幸
［100 / 100］ ―― 《黒い渦》不運
［12 / 100］ ―― 《線路》駆逐



女性の声が聞こえる。