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――一人、荒い息を立てる。
辺り一帯は血の海。
そこに沈むのは見知らぬ誰か、見知った誰か。
友達、友達、友達。
誰も息をしていない、誰もぴくりとも動いていない。
聞こえてくるのは自分の呼吸だけだ。

…誰がこんなことをした?
誰がみんなを殺した?
答えは簡単だ、その手の平をまじまじと眺める。
こびりついた返り血が、嫌に鮮やかに見える。

…なのに何故だろう、何にも考えられない。
ぼんやりと霞がかった頭の中では、残響だけがこだまする。
"自分は一人ぼっちだ"と、声が聞こえてくる。
何度も何度も何度も何度も。

…顔を上げると、いつの間にか目の前に怯える"自分"が居た。
どうして怖がっているの?　
そっと近寄って、優しく声を掛ける。

返事は何もない。
けれど、少しずつその身体に手が伸びていく。
そして、ぼんやりとしたまま。










その首に手をかけた。










…なのにまるで"自分"は自分を見ていない。
しっかりと目はこちらに向いているのに、その向こう側の血の海を見ているようだ。

…ああ、ようやく気が付いた。
そっか、こんな風に友達が居なくなるのが怖いんだ。
大丈夫、大丈夫だよ。
自分が弱いのがいけないんだから。










手に力を籠める。










大丈夫、もっと強くなるから。
悪魔に負けないぐらい。
この戦争を乗っ取れるぐらい。
友達を守れるようになるぐらい。
もう辛い思いをしなくて済むぐらい。










首を、絞める










大丈夫だよ、休んでいて。　　　　　　　　　　　　　　　　　　こわい
何も怖くない。　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　
自分がなんとかするからね。　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　いなくならないで
大丈夫、大丈夫、大丈夫。　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　
もう何も言わないで。　　　　　　　　　　　　　　　　なにもみえない
自分は大丈夫だから。　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　
そんな目で見ないで。　　　　　　　　　　　　　　ただともだちがほしかっただけなのに
どうか甘い夢を見続けて。　　　　　　　　　　　　　　　　　

みんないるよ。　　　　　　　　　　　　　　　　　
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　いない、ともだちなんてできない
そうだ、全部終わったらみんなでパーティしよう。　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 　　　　　 ぱーてぃなんてできやしない
ケーキも料理も揃えて、みんなで食べあって。　　　　　　　　　　　　　　
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　かなわない、まじょがすべてくらう
場所はお菓子の家なんてどうかな?　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　おかしのいえでみんなたべる
ずーっとお菓子の家でパーティするの!　　　　　　　　　　　　　　
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　やめろ、まじょがかなしむ
何も寂しい事はなくなるよ。　　　　　　　　　　　　　　　
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　のぞまない、まじょのためにすてろ
だからどうか、おとなしくして。　　　　　　　　　　　　
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　なにもしないで









さらに、力を籠める
"自分"の悲しく虚ろな目が自分を見る
やめて、そんな目で見ないで










…あれ、どうしてこんなことしてるんだっけ。　　　　　　　　　　　ひとりぼっちは、いや










まあいいや、もう大丈夫。
さよなら、弱虫の自分。




























…?
何かが、頭に触れた。
それはまるで撫でるような仕草だった。
なんだかはっとしたような気がして、思わず振り向く。
…誰もいない。

瞬間、キンと冷えたものがおでこに触れた。
手を伸ばしてみれば、何かがそこにあることが分かった。
それをつかんで、その目で確かめる。


…これは、冷えたスポーツドリンク?　　　　　　　ともだちがそれをくれた

それに、なんだか病院…というより看護師のような匂い。　　　　　　　　ともだちがそうみえた

気が付くと、目の前にケーキがある。　　　　　　　　　　　ともだちがもってきてくれた

それだけじゃない、あったかいお粥も一緒だ。　　　　　　　　　ともだちがつくってくれた

…それから、友達がそこに立っていた。　　　　　　　　　　　　　　ひとりぼっちじゃない

倒れているわけでも血濡れでもない、元気そうな皆。　　　　　　　　　　さびしくない



ぽっかりと穴の開いた心に温かいものがなだれ込んでくる。
安堵と嬉しさが、一緒に交じり合う。
同時に、なんだか頭の霧が晴れていくような気がした。
…思えば、血の匂いは全くしなかった。
こんなにも血にまみれているのに一切、そんな様子はなかった。
そう気が付いた時、また頭を撫でられるような感触。

…もうはっとするようなことはしなかった。
代わりに、安心感を覚え始め、なんだか泣きそうになってくる。
すっかり力は抜け、だらりと身体を楽にする。



自分は誰も殺していない。　　　　　　　　　　　あったかい

さっきまでのは悪い夢だ。　　　　　　　　　　　　あんしんする

まだ自分は戻ることができる。　　　　　　　　　　　　　　うれしい



頭がはっきりと晴れた瞬間、視界が白くぼやけ始める。
…いや、これは起きようとしている?
不快感はそこにはなかった。
ぽかぽかした気持ちで、これに身を委ねるべきだと。



同時にやっと思い出した。
自分が何をするべきか、あの子のために何ができるか。
もう頭ははっきりとしている。
まだ自分は立ち上がれる。


あの子を一人ぼっちにさせるもんか。　　　　　　　　　じぶん"たち"はひとりぼっちじゃない


…ふと振り返れば先ほどまで怯えていた"自分"が、にこりと笑顔を浮かべていた――










もう大丈夫。
まだ戦えるよ、弱虫の自分。



















…くすくす。

▲	system message 〔 メッセージの再受信 〕 　イメージファイルとして受信していたメッセージを再受信しました。　 　自動的に再生します。 　…… 　…… 　……

	「…………」

	サクマ 「最後に通信してから……結構過ぎたわよね。」

	サクマ 「もしもーし。誰か聞こえてるかしら？ 　テルちゃん？魔女子さん？ 　……それともアメミヤちゃん？ 　いいえ、もう一人、男の子がいるのよね。」

	サクマ 「聞こえてるものとして話すね。 　返事ができない状態なら、 　落ち着くまでただ聞いてね。」

	サクマ 「……わたしはここで、テルちゃんといっぱいお話したわ。 　短い時間だったけど、たくさん。 　とっても楽しかった。」 サクマ 「それでアナタが本当に優しい子なんだって、いっぱい知れた。 　テルちゃんも、わたしにちょっとくらい気を許してくれたのかしら。 　『行ってきます』だなんて、ちょっと嬉しかったな。」

	サクマ 「でも、『行ってきます』を聞いたからには、 　もうひとつ聞かなきゃいけない言葉があるわ。 　『ただいま』って、さ。 　……まだ生きてるのなら、 　ただいまを言ってくれるのを、待ってるね。」

	サクマ 「もしみんな死んじゃってるのなら…… 　あなたを迎えに行くわ。 　ちょっとでも残ってたら、食べてあげてさ、 　それでこの世界から連れ出してあげたいな。」

	サクマ 「いま、わたしはそんなことを考えてます。 　落ち着いたらでいいわ。返事頂戴ね。」

▲	緋墨 「……ああ、いってこい。 でも、無理はしないようにな……っつっても、もう一人の自分に会いに行くだけだったらそんなに危ないこともないか、多分」 完全に安全だと言い切るのは、少し難しいかもしれない。 なんせ、ここはハザマ――危険と隣合わせといえる環境だ、何が起きるかわからない。 けれど、もう一人の自分と対峙するくらいのことであれば、危険はない……と思いたい。 緋墨 「と……どうしたんだと思ったけど、そのことか」 緋墨 「何、気にするな。俺もやりたいと思ってやってたんだし。 お隣さんだし、友達なんだし、何かあったら手を貸すのは当然だろ」 そういって、くつりと笑う。 もう一人のあなたも感謝しているだろうか――感謝してくれていたら、なんだかくすぐったいけれど嬉しい。

	緋墨 「……サンキュー、飴宮。 もう一人の飴宮も飴宮なんだし、仲良くなれたら……まあその、俺も嬉しい」 ちょっとだけ照れたように笑いながら、言葉を紡ぐ。 この手の好意的な言葉は、素直に口に出すのはなんだか照れてしまうけれど。 もう一人のあなたとも仲良くなれたら――という思いは、本当だから。

▲	尊 「"自分じゃない自分"……ですか？」 通信を終えようとした矢先、投げかけられた問いに小さく首を傾げる。 彩季に似た声の別人、なんて会ったことが───と言おうとして。

	尊 「……そういえば、前に一度だけ通信機越しの雰囲気が変わったような。 　今みたいな途切れ途切れじゃなくて、もっと流暢な喋り方で…… 　『きっとすべてうまくいく』とか『あめみやさきとしてあう』とか」 ふとした違和感、意味深な台詞。 もしかしたら彼女が言っているのはその時の事かもしれない。 そう思って、正直に当時のことを話した。

▲	透 「けっこう前に言ったかもだけどさ」

	透 「私はみにくいアヒルの子。 自分だけが周りと違ってて、化物として生きていく」

	透 「そのはずだったんだけど、そうはならなかった」

	透 「こんなにヘンな私でも、好きって言ってくれる子がいたの」

	透 「だから私は……この命を、あの子のために使いたい。 鮎喰透は、白波白楽に出会うために生まれてきたんだ」

	透 「運命の出会いはあるよ。君と私もきっとそう」

	透 「ていうか、運命とか言ったもん勝ちだもんね！！ バンバン言っちゃえばいいよ。この出会いは運命だった！！！って！」

	透 「えへへへへ。見守るだけでいいの？ ………いっか！ こっちもまだまだ余裕なさげでさー」

	透 「私はまだそっちに行けないけど…… いつもここから、頑張る君を見守っている」

	透 「飴宮ちゃん～～～ふぁいと～～～～～～！！！」

	透 「っしゃおらーーーーーーーーーー！！！！」

	透 「ふぁいっおーーーーー！！！！！」

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