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泰元６年１１月２０日　http://lisge.com/ib/k/12/r158.html



清の反応はあっさりしていた。
引っ越し続きの生活にもすっかり慣れて、清はここ数年、引っ越しにほとんど不満を言わない。
話が早くて助かる反面、ここまでになると少し張り合いがない。


許しは確かにもらったが、清の想像するような悪事ではない。
不義理を詫びただけであって、──無断で弟子を取ったことは、悪いと言えなくもないが。


気のない返事もいつもの事だ。
清には名前を貰うことの意味も、そのありがたみも、わかっていないのだろう。
これまでとは違うのだと、深谷が言葉を尽くしても、理解できないに違いない。
それでもいい。瀬古に移ってから、徐々に理解させればいい。


清にも不便をかけたが、これからは正式な退魔師として、少しは楽をさせてやれるだろう。
深谷の道連れのようにして、働かせることを気に病んだことはないが、
ましな暮らしをさせてやれればとは、淡くも思っていた。
そして清ももう、安穏とした暮らしを拒みはしないだろう。
ここ数年はずいぶんと笑顔が増えたし、服だの食事だのと、興味を持つことも増えてきた。
危険を厭うようなら、退魔師をやめさせたっていい。
巫女は無理にしても、神社の下働きも悪くはないし、近所に仕事を求めたっていいだろう。
ゆくゆくは、実家に戻ることだってできるかもしれない。
家族と和解する事だって、今の清には、夢ではないように思われた。

もうすぐ全てが、良い方向へ向かっていく。
そう信じていたし、疑いもしなかった。

深谷の幸せはいつだって、失ったあとに振り返るものだったのに。

---

呼ぶ声がした。
自分を呼んでいるとだけわかって、沙耶だろうかと思う。


だが彼女は、自分を深谷とは呼ばない。
だからそうではないと解って、理解したと同時、全身の重さを思い出した。
体が鉛にでもなったように重く、指先が痺れてひどく痛む。
様子を見ようと腕を上げようとして、見れば、二の腕から先が存在しなかった。


そうして思い出す。牛鬼に襲われたこと。
神酒ごと右手を食わせたから、だから、右腕がなくなっているのだ。

牛鬼。
力の象徴たる大妖怪。狡猾で残忍なだけでなく、姿を変え、吐く息は毒となり、あらゆる生命を蝕むという。
姿を変えることも、環境を変えられることも、尋常でない力の証だった。
現れる事すら稀な大妖で、出会ってしまった時点で、深谷の死は決まっていた。
清を守り通すことができたのは、鵠の冥護を受けた神酒があったからに外ならず、それは僥倖と言って良かった。


気休めだ。治るわけがないと、自分でわかっていた。
体に力が入らない。腕だけではなく、血も、随分と失ってしまった。
もう立ち上がれそうにないし、意識を留めているのも難しい。
気を抜けば寝てしまいそうで、そして、眠ってしまえば、二度と起きられないという確信がある。


自分は、ここで死ぬのだ。


失敗は無数にあった。
気は緩んでいた。油断だってしていた。
目の前に吊るされた安息に目が眩んで、退魔師というものを忘れていた。


瀬古大社には、確かに戻りたかった。それだけではない。
冷蔵庫に冷やした酒に、見るつもりだった雑誌やドラマ。
やり残した事といえば、無数に思い浮かんだ。

だが、深谷は沙耶亡き後の長い間、死んだつもりで生きてきた。
それがこの年になって、神にも幼馴染にも会うことができたし、
清という弟子だって、世に残すことができた。
だから恐ろしくもなく、未練というほどの未練もない。
やっと自分の番が回ってきたと、やっと終えられると、思うくらいだった。

これでいい。
これで良かったのだ。


か細い声で、清が言う。
惜しまれて去る内が華だと、聞いたのはいつだったろう。
まさにその通り、これ以上の終わりはなかった。

だから後は、気の利いた遺言なんて言って、気持ちよく人生を終えれば、
そうすれば、やっと、沙耶のもとへ行けると。


──それは全て、深谷の思い込みだったのだけれど。



深谷は徹底的に間違えていた。
清は何も乗り越えておらず、救われてなどいなかった。
己の何もかもを深谷に委ねて、それでやっと、生きられていただけ。

清は一人で生きていけない。
それをこの時まで、深谷は気づけなかった。


深谷は、清を拾った責任を取らねばならなかった。
使い潰すと言った通りに清を使い、彼女の理解者ではなく、持ち主を目指すべきだった。
清より先に死んではいけなかった。
自分がいなくても大丈夫だなどと、温い満足に浸ることなど、決して、してはいけなかったのに。


深谷は知っていた。退魔師は長生きしないこと。
自身が清より長生きすることはないだろうと気付いていて、
それで大丈夫だと決め込んでいた。
大きな間違いだ。
間違いだったと、こんな時にやっと気付く。


指先が冷えていく。最期の力でようやっと腕を持ち上げても、
痺れた指先は力なく震えるだけだった。


だから深谷には、何も止めることができなかった。
清が形代を引き寄せることも、深谷を使役しようとしていることも。


式神使役。神が眷属を作るがごとく、死霊を下し、使役する術。
他の霊魂を支配下に置くという、人の分を越えた術だから、この術には様々な制約があった。
強い恨みを持って死んだものを使役することはできないし、
自我の強いもの、術者に勝るものを使役することもできない。
だが、深谷は清を恨むことができなかったし、死に瀕すれば気力だって萎えていく。
人間の想いは、時に不可能を可能にするのだと、それこそが神力であるのだと、深谷自身がよく知っていた。









深谷の積み重ねた無数の失敗。
その最後にして決定的な一つは、清を恐れたことだった。
神力は魂の持つ力。恐怖を感じたその時に、深谷は清に敗北した。

これまで助け、守り導いてきたはずの弟子の絶望の深さを測り損ね、
こうして、死ぬ瞬間をただ待たれている。
それこそが深谷の隙になり、無かったはずの未練にもなった。


死者が現世に関われない事と同じく、もはや何一つ、深谷には止めることができない。
清と同じように、自分の運命を呪うことができれば良かった。
怒鳴り、拳を叩きつけ、叫べば気持ちも紛れ、死期も早められたろうが、
その力も一秒ごとに流れ出し、失われていく。
目を閉じればそこには死が待っていて、その向こうには、清に使役されるという避けがたい運命があった。


絶望とともに、視界が塞がっていく。
暗くなっていくその端に、


穴が、見えた気がした。

ENo.620 トバルカイン とのやりとり


ENo.719 ケムルス とのやりとり

変化LV を 5 UP！（LV25⇒30、-5CP）
付加LV を 5 UP！（LV31⇒36、-5CP）

ぺちか(34) とカードを交換しました！

くまー。 （バーニングカード）


千変万化 を習得！
バーニングカード を習得！
タイダルウェイブ を習得！
ウィザードフォーム を習得！

◇通常獲得：各CP･FPが5増加した！

不浄の滝(158) は ドラム缶 を入手！
不浄の滝(158) は おさかな を入手！

アライ区 D-8（沼地）に移動！（体調12⇒11）
アライ区 D-9（道路）に移動！（体調11⇒10）
アライ区 D-10（道路）に移動！（体調10⇒9）
アライ区 D-11（道路）に移動！（体調9⇒8）
アライ区 D-12（道路）に移動！（体調8⇒7）

［837 / 1000］ ―― 《瓦礫の山》溢れる生命
［454 / 1000］ ―― 《廃ビル》研がれる牙
［498 / 500］ ―― 《森の学舎》より獰猛な戦型
［203 / 500］ ―― 《白い岬》より精確な戦型
［406 / 500］ ―― 《大通り》より堅固な戦型
［325 / 500］ ―― 《商店街》より安定な戦型
［245 / 500］ ―― 《鰻屋》より俊敏な戦型
［182 / 500］ ―― 《古寺》戦型不利の緩和
［98 / 500］ ―― 《堤防》顕著な変化
［148 / 400］ ―― 《駅舎》追尾撃破
［5 / 5］ ―― 《美術館》異能増幅
［135 / 1000］ ―― 《沼沢》いいものみっけ
［100 / 100］ ―― 《道の駅》新商品入荷
［266 / 400］ ―― 《果物屋》敢闘
［32 / 400］ ―― 《黒い水》影響力奪取
［123 / 400］ ―― 《源泉》鋭い眼光
［67 / 300］ ―― 《渡し舟》蝶のように舞い
［81 / 200］ ―― 《図書館》蜂のように刺し
［62 / 200］ ―― 《赤い灯火》蟻のように喰う
［34 / 200］ ―― 《本の壁》荒れ狂う領域
［49 / 100］ ―― 《珈琲店》反転攻勢
［68 / 100］ ―― 《屋台》更なる加護
［51 / 100］ ―― 《苺畑》不安定性
［0 / 100］ ―― 《荒波》強き壁



―― Cross+Roseに映し出される。

　

　

　





　




　





突然チャットに現れるマッドスマイルちゃん。

　






疑いの目で見るふたり。

　








不満そうな顔で腕を組むエディアン。

　

　

　











チャットから抜けるマッドスマイルちゃん。

　

　

　

　

　

　




　




　

　

　

チャットが閉じられる――