
「――そんな感じで、まぁ……
とてもひどい夢だったのさ。」
「ひどい夢ですませちゃうんだ……
でも、大丈夫?
それって何事もないならいいんだけど、
その――
アンジニティの影響が出てるせい……
というのは考えられない?
だとしたら……」
「その心配はない……といいたいが……」
「――
そうともいってられない状況というか、
現在のアンジニティの影響はただならないものであるのは、
わかってるわよね?」
じっと、映美莉の瞳をのぞき込む兎乃。
アンジニティの脅威を誰よりも知り、
だからこそ、
彼女は思うところが多々あるのだろう。
さらに言えば……
それはおそらく杞憂とは思えない。
ハザマにいる今だからこそわかる事。
「……アンジニティに敗北することがあれば、
そうなってしまってもおかしくない。
そういう危惧の夢……
確かに、そんな可能性もあるな。」
「ええ。
映美莉は吸血鬼だし、
そうなる危惧っていうのは常にある。
不安が形になったと普段ならいえるけど、
状況が状況で、タイミングがね……
それで……」
「――いや、そういう事なら続きの話をしよう。」
「続きの、話?」
話はあれでおわりではないのだろうかと首をかしげる兎乃に、
映美莉は、自分もよくわからないがと前置きをして、
起きた後の続きについて話し始めるのだった。
「あれは――」
嫌な夢をみて起き上がると、
全身が嫌な汗でびっしょりと濡れていた。
よほどあの夢がこらえたらしい。
ここまで嫌な汗をかいた記憶は全く……とまではいわないが、
殆どない。
ともあれ、そのままにしていても気持ち悪いだけなので、
服を脱いでシャワーを浴びることにした。
心地よい暖かいお湯がこびりつくような汗を流れ落してくれる。
この心地よさに身をゆだね、
気持ちよくもうひと眠りといきたい所ではあるが……
あまりにもリアルな夢、
嫌な感覚。
ありえないとは思う。
ありえない。だが、本当にありえないのだろうか?
そんな風に沸き立つ疑問は、
映美莉の焦燥感を駆り立てる。
もしこの焦燥をどうにかする方法があるとすれば――
「……実際に確かめてみるしかない、か。」
幸い夢で見た場所はかろうじて覚えているし、
見覚えがある。
見覚えがある以上、迷うことも忘れることはないだろう。
足し絵夢で見たことを忘れてしまったとしても、
そこにいくという意思を忘れることはないのだから。
そうと決めると速やかに体を洗い流すのを終えると、
体をぬぐい、外へ出るための服に着替える。
身だしなみを整え、
なにもおかしくないことを確認、
家に鍵をかけると、
その身を街の闇の中へと身を躍らせ溶け込むように映美莉は消えた。
――財布を忘れたことに気が付かないままに。
ほどなくして、目的の場所へとたどり着く。
夜明けまでは……
まだ時間がある。
月の光も星の光も出ておらず、
街の明かりすら届かぬ深淵。
人では見通せぬ闇なれど、
映美莉の赤い眼には全て鮮明に映っていた。
そこには何もない。
あの夢であった女性はもちろんのこと、
襲った痕跡も何もかも全て。
あとで処理をしたからという可能性は否定できないが、
それにしては……
「血の香りもない……
夢は夢、か。
……?」
血の残香すらない。
ということは、
ここでは何もなかったという事だ。
さすがにそれを誤魔化すすべはない……わけではないが、
そこまで冷静だったのであれば、
さすがに覚えていてしかるべき出来事なのだ。
故に、あれはただの悪夢。
そう安心した矢先――
映美莉の耳が何かの咀嚼音をとらえた。
距離はここから少し離れた場所。
何なのだろうと思ってそちらに足を向けて近づくと、
少しばかり血の香りがした。
ふと脳裏によぎる悪夢。
そんなはずはないと思いながら映美莉が更に近づくと、
そこには――
一人の少女がいた。
年のころは10に満ちるか満ちないか、
淡い水色の髪は闇の中でも浮かび上がるかのように輝いて見えて、
赤い瞳はまるでルビーのよう。
容姿はかわいらしく、
傍を通り過ぎればまず目を引くだろう。
服装は黒のゴスロリ服。
ここまでのかわいらしい少女、
近くにいたならば覚えてないほうがおかしいのだが、
今まで見た記憶はない。
この辺りの人間ではないのだろうか?
いや、それ以前に――
こんな日の出る前にこんなにも危険な場所に少女がいること自体おかしいのだが。
そして、血の香りはその少女の方から漂ってくる。
その少女が発しているのか?
否、
血の香りの元は明らかだ。
少女は何かを食べていた。
それは……
「……獣の、腕?
か?」
毛むくじゃらで何かの手。
しかし、人の手でも、
まともな動物の手でもないことは確かだ。
なんの腕なのかは分からないが――
「……」
じーっとこちらを見ながらかじり続け、
首をかしげる少女に対し、
映美莉は――
「……お嬢さん、
そんなよくわからないものを食べたらお腹を壊すぞ?」
明らかに異常な状況に対する恐怖を、
相手がかわいらしい女の子である事という、
たったそれだけの理由で抑え込み、
シンプルな疑問を返す。
その疑問に対し、
もぐもぐごくんと少女はよくわからない獣の腕を飲み込むと……
「だいじょうぶなのー、
ユズハなんでもたべれるなの!
なんかね、
変なのが襲ってきたから、
ついついうっかり食べちゃったなの!」
おいしそうだとか、
ついついうっかりで食べるものでも、
ましてや、
食べようと思うものでもないと思うのだが……
まぁ、目の前で見ているのだ嘘はないのだろう。
敵意も感じない。
寧ろ友好的であるとさえいえる。
「それならばいいのだが……
襲ってきたといっていたが、
大丈夫なのか?
……それと、保護者の方は?」
ならば、当たり障りのない会話をすれば大丈夫だろう。
相手の強さは全く分からないというか、
あんな幼い子と戦うというのはそもそも性分にあわない。
ならば徹底的に戦いは回避したいところである。
「保護者なの?
んー、友達と一緒に来てるだけなの。
襲ってきたのはそのままの意味なの。
何かけしかけられたから、対処しただけなのー。
それで、お姉ちゃんは何者なのー?
ユズハはユズハなの。」
保護者かどうかはわからないが、
少なくとも誰かと一緒にここにいるらしい。
細かいことはわからないが、
それでいて積極的に害をなしたわけではなさそうなのが分かっただけよし、
映美莉はそう考え――
「ああ、我は……映美莉。
社 映美莉だ。
映美莉でもえみりんでも好きに呼んでくれて構わない。
夜半は危険だから、
早めにその友達と家に帰るといいと思うぞ。
――襲われないよう我が一緒にその友達と会うまでなり、
家までなりエスコートしても――」
いいのだが、と映美莉がいおうとした所で、
ぬっと背後から現れた白磁のような手に映美莉は抱きしめられ――
「――その必要はないわ。
ここにいるもの。
心配しないで、
すぐにあの子を連れて帰るから。
心配してくりてありがとう、
優しいのね。
えみりんちゃん、私は魅月。
まぁ、好きに呼ぶといいわ。
……また会えるかどうかは分からないけれど。」
耳元で囁かれる。
耳に響く蠱惑的な女性の声。
――気配が全くなく何の抵抗もできずに背後を取られたことに、
愕然とする映美莉。
力はあまり感じないのでふりほどこうと思えば振りほどけるが、
まるで師匠のような感じを受けるあたり、
力ではねつけようとした結果投げられる可能性もある。
正直にいって、
これが敵だったらすでに終わったと思うとぞっとする。
「あ、魅月お姉ちゃん!」
とてとてとユズハがこちらへと歩み寄ってくる。
そんな状況に映美莉は――
「友達も近くにいたのか、
エスコートは……必要ないという事でいいのかな?
こうしてレディのぬくもりを堪能してるのを終えるのは……
名残惜しいがね。」
するっと軽口をたたく。
どうあがいても、
もし敵なら詰んでいる。
幸いというか、相手は女性二人、
ならば今を楽しんでしまおうと決めた映美莉の反応に対し、
後ろにいた魅月はすっと映美莉から離れ、
歩いてくるユズハを抱き上げると――
「そうね。
私もユズハもこちらの人間ではないから、
エスコートされても貴女がついてこれない場所にいくから、
残念だけど遠慮しておくわ。
また、もし機会があればというところかしらね。
――そうそう。
貴女はいい人みたいだし、
こちらの事心配してくれたみたいだから、
貴女に憑いていたものは貰っていくわ。
――世の中、妙なものはいっぱいいるから――
悪夢をみたりしたら心を強く持った方がいいわ。」
そういって蠱惑的な微笑みの残し、
こちらに向かって手をふるユズハと共に闇へと姿を消していった。
それにしても……魅月は高校生か何かなのだろうか。
黒い艶やかな髪と赤い眼。
まるで幻のように蠱惑的で、
掴みどころのないセーラー服姿は、
とても映美莉には美しく見えた。
しかし、最後の言葉はなんだったのだろうか。
まるでこちらを見通すような言葉。
そして、憑いていたものとはなんだったのか。
問いかけようにも二人の姿はもうすでにそこにはなく――
「ま、それで帰って寝た訳だ。
ちなみに悪夢は見ずに済んだな。
不思議な相手だった。」
「それは……えっと、
本当に何者なのか……
イバラシティ側でもアンジニティ側でもないみたいだけど……
……
映美莉の悩み事を解決してくれたようだし、
ありがとうってことで深く突っ込まないほうがいいかな?」
難しい顔をしてうなる兎乃に、
映美莉は苦笑して――
「ま、そうだな。
もしまた縁があれば深く突っ込むべきだろうが、
今のところは気にしないのが一番だ。」
そう、言葉を締めくくる。
時には不思議なこともある。
それが一時の縁だったのか、
それとも未来における縁の始まりだったのか……
それを知るのは、
その時が来るまで分からないだろう。
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えみりん 「前回の続きどうしようか、悩んだ!悩んだ結果――」 |
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えみりん 「そうだ、自キャラを出そう。というわけで、出した。」 |
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えみりん 「後悔しか!後悔しかねぇ!そんな感じだが……」 |
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えみりん 「ま、思いついてしまった以上しょうがないな。」 |
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えみりん 「ネタに困りすぎてるってのはあるが。」 |
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えみりん 「ちなみに今回で一番悩んだのは……」 |
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えみりん 「どう表現して、どこまで絡ませて、どう終わらせるか、だな。」 |
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えみりん 「こればっかりは思いついたときは明暗と思っても、うまく動かなかったり」 |
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えみりん 「あれ、この展開おかしくない?修正とかもよくあるからな。」 |
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えみりん 「あと単純に昔のキャラとかうまく動かせな……」 |
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えみりん 「映美莉よりうまく動かせてびっくりした。」 |
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えみりん 「え、何、我動かしにくいキャラだったの?」 |
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えみりん 「……まぁ、自分のキャラは動かしやすいということだな。」 |
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えみりん 「ま、とりあえず、次回どうするかというのが今の悩みだ。」 |
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えみりん 「しかし、どうするかなぁ……」 |
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えみりん 「綺麗に次あたりでまとめてしまうか、」 |
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えみりん 「もう、このままぐだぐだ路線貫くか。」 |
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えみりん 「そのあたりも悩ましいところだ。」 |
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えみりん 「ネタがあればいいんだがなぁ。そういえば……」 |
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えみりん 「昔の方が長文かけた……いや、余計な文章が減ったのか。」 |
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えみりん 「なまってるのか成長してるのかわからんというか、混在して変なことになってる……」 |
 |
えみりん 「ま、精進するしかない、ないな。」 |
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えみりん 「しかし時間があってもなくても時間におわれる。」 |
 |
えみりん 「やりたいこと多いからなぁ。うん。時間ほしい。」 |
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えみりん 「……それでも日記をかくのをやめない!」 |
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えみりん 「……どうだっ!」 |
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えみりん 「別にえらくはないんだよなぁ……好きでやってることではある。」 |
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えみりん 「ま、これからも続けるが、うん。更新短くなったらできなくなることもあるかもしれない。」 |
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えみりん 「その時はごめんね。」 |
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えみりん 「さて、それではまた次回、読んでくれてありがとう」 |
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えみりん 「しかし、どう成長するか本当に悩むな……」 |

[866 / 1000] ―― 《瓦礫の山》溢れる生命
[445 / 1000] ―― 《廃ビル》研がれる牙
[500 / 500] ―― 《森の学舎》より獰猛な戦型
[194 / 500] ―― 《白い岬》より精確な戦型
[397 / 500] ―― 《大通り》より堅固な戦型
[310 / 500] ―― 《商店街》より安定な戦型
[221 / 500] ―― 《鰻屋》より俊敏な戦型
[160 / 500] ―― 《古寺》戦型不利の緩和
[90 / 500] ―― 《堤防》顕著な変化
[137 / 400] ―― 《駅舎》追尾撃破
[5 / 5] ―― 《美術館》異能増幅
[128 / 1000] ―― 《沼沢》いいものみっけ
[100 / 100] ―― 《道の駅》新商品入荷
[196 / 400] ―― 《果物屋》敢闘
[28 / 400] ―― 《黒い水》影響力奪取
[58 / 400] ―― 《源泉》鋭い眼光
[32 / 300] ―― 《渡し舟》蝶のように舞い
[58 / 200] ―― 《図書館》蜂のように刺し
[39 / 200] ―― 《赤い灯火》蟻のように喰う
[8 / 200] ―― 《本の壁》荒れ狂う領域
―― Cross+Roseに映し出される。
「うぎゃああぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!!!」
「ひぎゃああぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!!!」
突然の絶叫と共に、チャットが閉じられる――