◆――Side――
それは片割である少女の記憶
――幼い頃、妹の凛音は食が細かった。
出される食事は、確かに管理は行き届いたものであった。
例え、わたし達と言う存在であっても、
その部分を雑に扱うと言う事はないらしい。
流石は名家、華族の身分は有していただけの事はあるのだろう。
だけど、それを食べて美味しいかといえば……、
『そうとは言える代物』ではない。
身体の作りを整える為の、それだけに造られた食事なだけであり、
少女らの嗜好に沿うものでは決してなかった。
所謂完全栄養食であり、
少女達の味覚に応えようとするものではなかった。
勿論、そのせいもあるが、
それ以上に凛音の方は人としての機能がまだ気薄だったという事も原因していた。
好み以前に食べるという行為に欲が湧かず。
空腹という生物的な欲求も欠けていた。
増してや、儀式を行い〝宿した日〟にはより顕著に現れる。
僅かな水物すら必要とせず、生理的なものも、眠る事も必要としなくなる。
姉であったわたしは、当然それを良しとできなかった。
食べなければ〝折檻〟が待っているし、
やはり〝生物的〟な……否、『人間』としての機能は衰える。
ただでさえ、人としての概念が気薄な妹だ。
そんな事を積み重ねてしまえば、今までの歩みは無意味になるし、
それ以上に、『人』からどんどん離れていってしまうだろう。
何とか少しでも人として、人よりの生活を送らせたかった。
その為にわたしは何とか励ましつつ、
手の止まった凛音に口へと物を運ぶ。
普通の子達と比べると気薄な心。
けれど、わたしとティーナに触れて、外に出ることで少しずつ変化はあった。
姉である私への気遣いと心配は察する事は出来たのだ。
それに応えようと何とか咀嚼を繰り返す。
美味しくも無いであろう味を、極力不要である食事を懸命に。
――それでも、やはり限界はある。
嚥下する事すら辛くなり、
口元を小さな両手で覆いつつも飲み干そうと努力するが、
嗚咽を込み上げで、噎せこんでしまう。
共同体とも言える姉への申し訳なさと不甲斐なさなのか、
ボンヤリと涙を流しつつ、凛音は首を横に振った。
『――良いんだよ。よく、頑張ったね、りんちゃん』
わたしは少し困ったように笑みながら、隣に寄り添う片割れの少女の背中を撫でる。
辛ければ其処までしないでいいのに、
という意味を含んだものなのは妹も理解していたようだ。
それでもこの子は、私に何とか答えようとしてくれたのだ。
――では残った凛音の食べる分量をどうしたのか、といえば。
残せば、折檻が待ち受けている。
此ればかりは、身代わりになるというのは難しい。
なので――実の所、自分が食べて、凛音が残した事を隠していた。
……正直にいえば、わたしも凛音と大差はない。
凛音よりは遥かに、人としての機能は整えられてはいるものの、
やはり食べる量は同世代の子供たちよりも二周りも、三周りも低い。
自分の量を食べるだけでも、本当は精一杯だった。
けれど、こんなくだらない事で妹が折檻を受ける事の方が堪え難い。
だから無理やり口に詰め込み、胃に流し込む。
この行為が不調に変わるようであれば、『逆流』させてしまえばよいのだ。
幾度かやってみたが、あの大人達も其れには気付いていないのだから。
『……ごめんなさい、姉さま。ごめんなさい……』
他人の感情のイロや動きには聡くなっていた凛音は、哀しげに瞼を伏せて呟く。
自分の心はどうにも曖昧だというのに、人の意志などには機敏だったのだ。
そんな言葉は不要だと答えるように、わたしは妹を抱き寄せた。
■
「せつな、何だか少しおにくふえた?」
「……どおして、わかるの」
寄り添うティーナからそんな一言が言い渡される。
薄めの衣服の上であって、
分かり易いとはいえど、中々に酷い言葉だ。
青い目を瞬かせつつ、「前より柔らかい」など言ってくるあたり
確りと観察されているらしい。
――ティーナの屋敷とわたし達の住まう場所を往復する様になってからは、
ティーナに屋敷にいる間はある程度の自由があった。
これは相手方……詰まり、ティーナのご両親から齎されたものだった。
要は、将来的に娘の従者であるのならば、
子供のうちから良い関係を作っておきたい。
つまり、そういうことである。
最も凛音は極力外に出す事を避けさせ、
他者との関わり合いを避ける事は伝えられていた。
それでも幾分もマシの環境になった事は確かだ。
外の空気は白妙の領地よりも暖かくて、心地よいし、
何よりも穏やかな場所であった。
大きな庭園は少女達が駆けまわるには十分だったし、
子ども心に怒られる覚悟で森へと遊びに行く事も、
大きな敷地を利用して、三人の秘密基地も作る事もできた。
ティーナのご両親は〝良い人〟であった。
いる間は好きな事をさせてくれていたし、
出される食べ物も綺麗で美味しかった。
〝わたし達には必要でない事〟も教えてくれたし、
子どもながらも自由を許してくれていた。
家柄が家柄で厳しい所はあったとしても、
わたしにも凛音にも優しくは接してくれたのだから。
今の経緯を考えないのであれば、彼らはきっと〝善人〟だ。
少なくとも、わたしや凛音の〝今〟の基盤は、ここにあるのだから。
――さて、ここでの影響は、特に食生活においての影響は強くある。
凛音が、数少ない好んでいた食べ物は、甘みのある物だった。
それ以外になると、果物などの芳香があるもの、野菜など、菜食に近い。
逆に言えば、先天的に肉類魚類はあまり好まなかった。
ティーナ自身も、最初は凛音の食の細さに大分驚いていた。
同年代である少女が、自分の四分の一以下も食べないのだ。
誰だって驚くだろう、きっと。
其れを見ていた事もあり、少しでも食の細さを改善させたい事を伝えて、
ティーナには共に考えてもらった。
家よりは屋敷の方が摂取する量が増えたのは確かだが、それでも少ない。
美味しいと感じて食べる様には成ったが、後少しだけ、後押しをしたいという気持ち。
これは、きっとチャンスの一つなのだから。
「そういえば、せつな。りんねってたまごやきとか食べる時、顔が緩んでるの知ってる?」
青い目をした緑の髪の少女が、ふとそんな事を口にした。
そういえば、と近い日に妹が口にしていた姿を思い出す。
そうして、ふと思いつき、いきついたのが卵焼きであった。
卵自体は凛音の好物とも言えるものだった。
オムレツや卵焼きなど食べさせると、
乏しい表情ながらも嬉しそうに口にする姿をみていた。
それなら、甘めにした卵焼きならば、と考えたのだ。
甘いものがすきであり、卵が好き、というのであれば良い可能性だ。
自由が許されていた時間、わたしとティーナは色々と試行錯誤をしてみた。
ティーナのお母さまや食を管理している調理人に教わったりしながら、
当然、両者共々、料理の経験なんていうのはそれまでないのだ。
殻が入ったり、黒焦げにしたり、半熟すぎて形が崩れたり、火傷をしたり。
いろいろ問題はあるものの、それはそれで楽しくやれていた。
慣れて、焦がさず、形もに綺麗になる頃には、
凛音の前で作ったりすると事もあった。
それの姿を見ていた凛音も、何処かぼう洋としていた様子が、
何か愉しいもの見るように表情は緩まり、綻んでいた。
楽しそうに騒ぐ二人の姿、和気藹々と手作業を進める様子、フライパンから立ち昇る香気。
そうしてその中に居る、在れると言う事。
……それらを感じ取ることは、
凛音の心を育む糧となっていっただと、わたしは考える。
だから、この時は、とても、とても楽しくて、嬉しかった。
「……ほら、出来たよ。りんちゃん、食べてみて」
焼き上げた卵を、小さめに箸で割り、リンネの口元へと運ぶ。
おずおずと、寄り目になりつつも小さく口を開け、その卵を食むように口にする。
一噛み、ふた噛み、ゆっくりと噛み、そうして飲み下せば、
凛音の表情は柔らかに綻んでいく。
「――うん、とても。とても美味しい、姉さま、ティーナ」
それこそ花が咲く様な笑みを二人に浮かべてみせる。
もっと、というように口を小さく開く凛音に、ティーナも笑う。
「じゃあ、わたしも!」
「えぇ……仕方ないな。ほら、あーん」
「……あ、私も、私もやりたい」
「落とさないように――あ!言ってる傍から、落としたな、りんちゃん!」
――そんな小さな三人のやりとりが何時の日かが来るまでは在った光景だ。
今は、遠く、遠く、遠くへいってしまった思い出だけど、きっとそれでも――
「……あ、なんかガリッてした」
「……殻だよ」
「カルシウムだよ」

[861 / 1000] ―― 《瓦礫の山》溢れる生命
[444 / 1000] ―― 《廃ビル》研がれる牙
[500 / 500] ―― 《森の学舎》より獰猛な戦型
[193 / 500] ―― 《白い岬》より精確な戦型
[397 / 500] ―― 《大通り》より堅固な戦型
[305 / 500] ―― 《商店街》より安定な戦型
[216 / 500] ―― 《鰻屋》より俊敏な戦型
[156 / 500] ―― 《古寺》戦型不利の緩和
[79 / 500] ―― 《堤防》顕著な変化
[134 / 400] ―― 《駅舎》追尾撃破
[5 / 5] ―― 《美術館》異能増幅
[128 / 1000] ―― 《沼沢》いいものみっけ
[100 / 100] ―― 《道の駅》新商品入荷
[182 / 400] ―― 《果物屋》敢闘
[28 / 400] ―― 《黒い水》影響力奪取
[48 / 400] ―― 《源泉》鋭い眼光
[22 / 300] ―― 《渡し舟》蝶のように舞い
[49 / 200] ―― 《図書館》蜂のように刺し
[0 / 200] ―― 《赤い灯火》蟻のように喰う
―― Cross+Roseに映し出される。
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カオリ 「ちぃーっす!」 |
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カグハ 「ちぃーっす。」 |
カオリ
黒髪のサイドテールに赤い瞳、橙色の着物の少女。
カグハと瓜二つの顔をしている。
カグハ
黒髪のサイドテールに赤い瞳、桃色の着物の少女。
カオリと瓜二つの顔をしている。
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カオリ 「・・・・・あれぇ?誰もいなーい。」 |
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カグハ 「おといれ?」 |
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カオリ 「そうかもね!少し待ってみよっか?」 |
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カグハ 「長いのかな・・・」 |
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カオリ 「・・・・・・・・・あーもう!全然こなーいっ!!もう帰ろう!!!!」 |
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カグハ 「らじゃー。ざんねんむねん。」 |
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カオリ 「むー、私たちみたいにどこかドロドロになってないかなぁーって思ったんだけどなぁ。」 |
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カグハ 「ドロドロなかま。」 |
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