
=====
荊街備忘録15
「なんでバレてんだよ・・・」ケンジの絶望的な呻きを俺は全力で『聞かなかった』ことにして流した。
時に行動力において、オンナノコってのは凄まじい突破力を示すことがある。
俺がハザマ世界で知り合った仲間?ケンジと出会いカミセイ大公園の下見に付き合わされていた頃、フミちゃんは自分なりに調べた結果、その場〜新沼ケンジ探偵事務所にたどり着いていたのだ。
そんなわけで俺たちはイバラシティから快速で数駅の隣県にあるマツドシティで運命の合流を果たすことになった。
「最近なんか捕まんないなーって思ってたら、そんなことしてたのか」
フミちゃんに向けて感心したように俺が声をかけると、フミちゃんはしれっと返す。
「別に特別なことなんてしてないわよ?普通にメモにあった名前でネット検索したら出てきたもの」
「あっ・・・そうスね」
イバラシティから一歩離れただけといっても、ここはイバラシティと比べても更に旧態然というかこと旧世代の時間軸に置いてかれている雰囲気が否めない。戦後比較的初期からベッドタウンとして都心需要を賄ってきた土地柄、その後の急速な発展と世代交代との軋轢の中で再開発の手が今一歩及んでこなかったという時代背景があるせいで、一回りどころか年号をふたつ跨いだような古い街並みがそのまま残ってたりする。
まあわかりやすく言えば単純にボロいというか、ここ数年相当頑張っているとはいえ新しくなったコンコースの傍に戦前から現役みたいな古式ゆかしい怪しいテナントの入ったおんぼろ雑居ビルが普通に営業中というわい雑さを醸し出している。
そして他ならないその耐震強度ギリギリというかどう見てもアウトくさいビルの一角に、ケンジのオフィス〜新沼探偵事務所はあるのだった。
「なんだかんだで楽ちゃんだって本人と会えてたんだし、そっちもスゴいよ」
「そりゃどっちかと言えばケンジのほうが探し当ててきたってのが正しいからなあ」
正直、ハザマ周りの背景を追うのに気を取られて、イバラシティ側にいる自分たちの状況のほうをおろそかにしてた自覚はある。
フミちゃんはそっちに気づいて、俺とは違った観点から調査を進めてきてくれていたのだった。
「それに楽ちゃんのメモの分析がなかったら、私だってケンジさんの名前もロクに思い出せなかったもん。おあいこだよ」
「そう言ってくれりゃ少しは気が楽だ」
言いながらお茶をすする。
「俺にとっちゃ全然楽じゃねえんだけどよ」
勝手に上がり込んで勝手に事務所の備品で一息ついている二人の学生の様子を不機嫌そうに眺めながらケンジが声をあげた。
「いいじゃない。これでハザマ世界の出来事とかが夢じゃないって証拠がまた一つ増えたんだし」
「夢・・・なんて生易しいもんじゃねえって裏付けにしかならねえけどな」
「そう、それそれ」俺はケンジに向かってソファ越しに視線を向ける。「あんたさっき公園で妙なこと言ってただろ」
これより数時間前。現実のカミセイ大公園の下見に行った際、俺たちはその場にこごった違和感めいたものを察してすぐにその場を離れた。明らかに『なにかヤバイ』類のものだったという共通の認識の元、俺たちは相談の結果一旦街自体から距離を置くべきだという結論に達した。要するに俺の予感と本職のカンというものが完全に一致した状況だったと言っていい。有り体に言って『尾行されていた』のだ。
それが何かは分からない。おそらくその結果次第ではじきに俺たちの認識の中でも何があったのか思い出せる日が来るのかもしれない。もしくはなにがしかの結果が出たからこそ、今こうして俺たちはここで出会っているという可能性もある。
「しかし普通に電車乗って逃げるとは思わなかったぜ。もっと高度なテクニックとかで追っ手を欺くのかと思ってた」
「撒くには公共交通機関が結局便利なんだよ。この国の人口なめちゃいけねーぜ」
「えーそうなの?普通の方法ってのが一番危ないんじゃないかと思うけど」
フミちゃんの言葉に、ケンジが口を曲げる。
「普段通りが一番目立たねえの。大抵、普通と違う動きしてるとか違和感のある行動してる奴がまず目につくだろ?」
そのへんは本職の知恵なんだか、事務所の乱雑具合から見ても単に面倒臭がりなだけなのかは判断に迷うところだ。
「ま、都会に限っての話だろーな。閑散とした地方だとまた話は変わって来るんだろうが、腐ってもいちおー首都圏だ」
「ボロいけどな」
俺のセリフに対しケンジは口の橋を歪める。「これも一種の知恵って奴だよ」
「なんだよ、税金対策か?」
「単に賃料が安いからじゃない?」
学生二人の身もふたもない会話に、しがない私立探偵は踵を返してデスクの座席に腰を落とした。
「で、本題なんだが」
「なんだよ」
「オメーら、あの街に戻るしかねえんだから、いい加減腹くくっとけよ」
俺たちが顔を見合わせるのを、ケンジはやれやれと言った表情で横柄に見下ろした。
「ハザマ周りの例のアレな、ありゃどー考えてもロクなもんじゃねえぞ」
なんでも、ケンジはハザマ世界の出来事に対し相当な危機感を持っているらしい。確かに、俺も実際街でその背景を調べていけばいくほど、そこはかとない不気味さみたいなものは肌で感じていた。
そこに住まう人々が一定数巻き込まれている異変。しかし表向きには何一つそれを匂わせないまま一見平常に営まれている街の日常。
その両方が、途方もなく危うい状態で均衡を保っているのがあのイバラシティ全体を包む独特の気配なのだろう。
「異変、って感じで扱われてはいなくても、なんやかやピリピリした雰囲気は役所周り調べてみても思ったな」
フミちゃんは思索げに表情を曇らせてから、私も。と頷く。
「学校がらみと、あと仕事先とかでもね、チラホラそういう話、入ってくるから」
「そーいや、医療系の学生だったな、おめー」
詳しくは話せないんだろう、ケンジの声に少し言葉を濁しつつ、そんなところだと頷いた。
仕事といえば、当の探偵業であるケンジはそのまま当てはまる。むしろこの事件そのものを『仕事として』調べている可能性があるのだ。詮索してもそのへんは詳しく教えてもらえなかったが、変に否定もしていないあたり明らかに無関係じゃないと思っていいだろう。
「ぶっちゃけオレも他人事じゃねえ。この事件に携わっちまって以来悪夢の世界を行ったり来たりは流石に身がもたねー」
なんでもケンジ自身、この方向性での怪異事件というか、怪しい仕事に携わった経験は初めてでもないらしいのだ。
だが大抵は些細な幽霊騒動や勘違い、あるいは別の理由で起こっていたといった内容のものが殆どで、今回の件もその程度だとナメてかかっていた所はあったという。
「かなり大規模・・・一市街地全域を巻き込んでる割に変な騒ぎにもなってねえあたり、本格的にデカい背後が裏にいんのかもな」
「うわ、なんかイヤだなそれ」
「だろー?」
考えてみれば、イバラシティという街自体が全国でも稀な場所だ。
世界的な産業資本のいくつかを抱える首都近郊の立地を生かし、かつては学術都市として、その後は複合的な都市構想の試験地として、最終的には先進技術やらなにやらを投下した上で実験的に様々な研究開発なんかもやる。と、時代の背景や需要に合わせて様々な形で進化してきた自治体が、近年になって立ち上げた一つの独立型都市。その中では比較的様々な自治政策が試験的に導入されていて、件の『異能』関連の適合者なども積極的に受け入れているというのもその特徴のひとつでしかないのだ。
「深く想像すると止まんないなー、そういう話」
「まーな、なんだかんだ言って、実はそんな大した話でもねえのかもしれねえ。陰謀論に逃げ込むのはバカのすることだ」
自分で振っておいてなんだが、とケンジは前置きする。
「実際起こっているオカシな出来事が、『気にしなければ』問題ないレベルなら正直大した騒ぎにもならねえんだよ。一番怖いのは、余計な勘ぐりで別の厄介ごとを引き当てることだ」
「さっきの公園のアレか?」俺の言葉にケンジは頷く。
「不用意にハザマがらみの出来事を元にこの街を探る、その行為自体が『あっち側』にも直接の接点を与えることになってる可能性があるんだよ」
カミセイ大公園、ハザマのその場所で俺たちは確かに何かに出会ったし、そのおかげで一度ハザマ世界と現実の時間が交差した可能性がある。つまり、この世界の現実の自分たちに明確に影響を及ぼし得る『なにか』と接触したということだ。それがつまり・・・
「つまりそれが、例のアンジニティっていう連中だったってこと?」
「今気づいたのかよ!?」
俺とフミちゃんの声に、ケンジは再び頭を抱えてがっくりと肩を落としていた。
=====

[852 / 1000] ―― 《瓦礫の山》溢れる生命
[422 / 1000] ―― 《廃ビル》研がれる牙
[483 / 500] ―― 《森の学舎》より獰猛な戦型
[161 / 500] ―― 《白い岬》より精確な戦型
[354 / 500] ―― 《大通り》より堅固な戦型
[251 / 500] ―― 《商店街》より安定な戦型
[182 / 500] ―― 《鰻屋》より俊敏な戦型
[118 / 500] ―― 《古寺》戦型不利の緩和
[44 / 500] ―― 《堤防》顕著な変化
[111 / 400] ―― 《駅舎》追尾撃破
[5 / 5] ―― 《美術館》異能増幅
―― Cross+Roseに映し出される。
エディアン
プラチナブロンドヘアに紫の瞳。
緑のタートルネックにジーンズ。眼鏡をかけている。
長い髪は適当なところで雑に結んである。
 |
エディアン 「・・・・・・・・・うわぁ。」 |
Cross+Rose越しにどこかの様子を見ているエディアン。
白南海
黒い短髪に切れ長の目、青い瞳。
白スーツに黒Yシャツを襟を立てて着ている。
青色レンズの色付き眼鏡をしている。
ノウレット
ショートの金髪に橙色の瞳の少女。
ボクシンググローブを付け、カンガルー風の仮装をしている。やたらと動き、やたらと騒ぐ。
 |
ノウレット 「こんちゃーっすエディアンさん!お元気っすかー??」 |
 |
白南海 「・・・・・・チッ」 |
元気よくチャットに入り込むノウレットと、少し機嫌の悪そうな白南海。
 |
エディアン 「あ、えっと、どうしました?・・・突然。」 |
 |
白南海 「ん、取り込み中だったか。」 |
 |
エディアン 「いえいえいえいえいえー!!なーんでもないでーす!!!!」 |
見ていた何かをサッと消す。
 |
エディアン 「・・・・・それで、何の用です?」 |
 |
白南海 「ん・・・・・ぁー・・・・・クソ妖精がな・・・」 |
 |
ノウレット 「コイツがワカワカドコドコうるせぇんでワカなんていませんって教えたんすわ!」 |
 |
エディアン 「・・・・・・・・・」 |
 |
エディアン 「・・・何かノウレットちゃん、様子おかしくないです?」 |
 |
白南海 「ちょいちょい話してたら・・・・・・何かこうなった。」 |
 |
エディアン 「え・・・・・口調を覚えたりしちゃうんですかこの子。てゆか、ちょいちょい話してたんですか。」 |
 |
ノウレット 「問い合わせ含め58回ってところっすね!!!!」 |
ノウレットにゲンコツする白南海。
 |
ノウレット 「ひいぅ!!」 |
 |
白南海 「いやそこはいいとしてだ・・・・・若がいねぇーっつーんだよこのクソ妖精がよぉ。」 |
 |
エディアン 「そんなこと、名前で検索すればわかるんじゃ?」 |
 |
白南海 「検索・・・・・そういうのあんのかやっぱ。教えてくれ。」 |
検索方法をエディアンに教わり、若を検索してみる。
 |
白南海 「――やっぱいねぇのかよ!」 |
 |
ノウレット 「ほらー!!言ったとおりじゃねーっすかー!!!!」 |
 |
白南海 「だぁーまぁー・・・れ。」 |
ノウレットにゲンコツ。
 |
ノウレット 「ひいぅぅ!!・・・・・また、なぐられた・・・・・うぅ・・・」 |
 |
エディアン 「システムだからっていじめないでくださいよぉ、かわいそうでしょ!!」 |
ノウレットの頭を優しく撫でるエディアン。
 |
エディアン 「ノウレットちゃんに聞いたんなら、結果はそりゃ一緒でしょうねぇ。 そもそも我々からの連絡を受けた者しかハザマには呼ばれないわけですし。」 |
 |
白南海 「・・・・・ぇ、そうなん・・・?」 |
 |
エディアン 「忘れたんです?貴方よくそれで案内役なんて・・・・・」 |
 |
エディアン 「あー、あと名前で引っ掛からないんなら、若さんアンジニティって可能性も?」 |
 |
エディアン 「そしたらこちらのお仲間ですねぇ!ザンネーン!!」 |
 |
白南海 「・・・・・ふざけたこと言ってんじゃねーぞ。」 |
 |
白南海 「まぁいねぇのは寂しいっすけどイバラシティで楽しくやってるってことっすねー!! それはそれで若が幸せってなもんで私も幸せってなもんで!」 |
こっそりと、Cross+Rose越しに再びどこかの様子を見るエディアン。
 |
エディアン 「さてあいつめ・・・・・どうしたものか。」 |
チャットが閉じられる――