
週末の日曜日にジェイド王国大使館の中庭を借りて、みんなでプールて遊ぼうという話に前回なった。
「水着で悩殺されんの楽しみにしてるよ」
ユカラが私とアズちゃんに放ったこの台詞が原因で、何かこう無難でかわいい感じの水着を選んではいけない様な空気を、ここ最近二人して醸し出していた。
当日ユカラに身体と水着をジロジロ見られるとなると、少しは意識もしなくちゃいけない訳で。
少しでも無駄なお肉を付けてはならぬと、食事の量をセーブしたりジョギングや腹筋をしたりと悪あがきをしてしまうのだった。
「アズーロ様も、深雪様もあまりお食べになられませんね。ひょっとして……料理が美味しく無かったでしょうか?」
アズちゃんもやはりプロポーションを気にしてか、食事の量をセーブしているので、夕飯の当番だったマグノリアちゃんが心配そうに尋ねてきた。
「いやいやそんな事無いよ!めっちゃ美味しいんだけど、夏バテかな?あんまり食べられなくて……」
「うん、マグノリアちゃんのご飯、いつも通り美味しいよ。私も夏バテかも……ごめんね」
そんな二人に首を傾げながら、ご飯をパクパク食べるユカラ。
「二人して夏バテなの?風邪引いたら無理しないで寝てなよ。日曜日の予定は無理して出なくても良いんだし」
何か違う方向で心配をしてくれるユカラ。
理由を知ったらどんな顔するんだろうなあ、呆れるのか笑うのか。
どちらにしても、細やかなダイエットを知られると恥ずかしいので誤魔化す事にする。
「あ、うん。大丈夫、食欲無いけど元気だから!」
私の話に合わせてアズちゃんもウンウンと頷く。
「私も風邪じゃないよ。ユカラくん、心配してくれてありがとう」
「それならいいけど。アズも深雪も無理はしないで、疲れた時はゆっくり休みなよ?」
はにかむアズちゃんの姿に、とりあえずユカラも納得した様子だった。
そんなこんなで日曜日の前日。
水着を持っていないマグノリアちゃんに似合う水着を求めて、私達はイバラシティ最大級のショッピングモールであるイバモールチナミへお買い物にやって来た。
大きな建物の中には映画館やお食事処などもあり、広い敷地をゆっくり回れば一日過ごせてしまうぐらいテナントが充実している田舎の楽園の様な場所。それがイバモール。
マグノリアちゃんの水着を、アズちゃんと二人で見立てるのが主な買物目的だけど、私達も水着選びを真剣にするため意気込んでいた。
少し露出が派手な水着を着ても恥ずかしくない様に、今日まで思い思いに地道なウェイトコントロールを行ってきたのである。
アズちゃんと私が仮にマッチョなボディビルダー同士だったなら、お互いの健闘を称えあって
「整ってるよ!筋肉が喜んでる!」
「胸にジープ乗せてんのかい」
と水着の試着時に、合いの手を入れてしまったであろう。
「あまり水着の事には詳しくありませんので、今日はアズーロ様、深雪様、よろしくお願いいたします」
お店に入る前に、深々と頭を下げるマグノリアちゃん。
「そんなに畏まらなくて大丈夫だよ。私と深雪ちゃんも水着を買いに来たんだし、似合う水着を探すのも楽しいから」
「うんうん。私からしたら、選んだ水着をマグノリアちゃんが着てくれるだけでご褒美だから、寧ろ感謝したいレベル」
私達は、和気藹々と水着売り場へと向かうのだった。
まずはマグノリアちゃんの水着を選ぼうと、かわいい感じの水着が並んでいる方へ。
あまりじっくり見た事は無いのだけど、マグノリアちゃんも幼少の頃に奴隷商人や飼い主に虐待を受けた傷痕がいくつか残っているらしい。
ユカラもここ最近は傷を見られても平気っぽいが、昔は肌を隠す服を意識して着てたぐらいなので、女の子のマグノリアちゃんなら尚さら肌の事は気にしてるに違いない。
なるべく肌が出ないタイプの水着を選ぼうと、アズちゃんとも事前に相談しておいたのだった。
「あっ、これなんかスレンダーなマグノリアちゃんが着たら似合いそうー!私が着たいぐらい」
「深雪ちゃんは黒のにしたんだね。私は白いのを選んでみたよ。これなんかいいと思う」
私が選んでみたのは黒のドレスっぽいやつで、アズちゃんは対照的な白い花柄のワンピースをチョイスした。
さすがアズちゃん、モデルやってただけあって選ぶセンスも素晴らしい。
「試着してみて、似合う方に決めよう。もちろん、マグノリアちゃんが気に入った方で良いよ」
「分かりました。着替えてきますね、少々お待ちください」
試着室の前で二人して待っていると、ひょこりとカーテンから困った表情のマグノリアちゃんが顔を出した。
「あの、深雪様に選んで頂いた方なのですが、胸がきつくて着れそうにないみたいです」
「えっ、マグノリアちゃんって細い感じじゃなかったっけ……実は隠れ巨乳に成長してたの!?」
私がマグノリアちゃんにハグしたのって、そういえば2年以上前の話だった。
いや、それにしても成長度がすごくない?
私よりも平たかった気がしたんだけど……着痩せするタイプだったなんて衝撃だ。
「なんだって……私がマグノリアちゃんのスリーサイズを見誤るなんて……佐藤深雪一生の不覚、腹を切らねば」
「深雪ちゃん、それは大げさだよ。私の方は大丈夫かな?サイズは合うのを選んだつもり」
アズちゃんの言葉にコクリと頷くと、マグノリアちゃんは再びカーテンを閉めて着替えに戻るのだった。
「お待たせしました。どう、でしょうか?」
試着室のカーテンを開けると、白い水着に身を包んだ姿が眩いくらいに可愛らしいマグノリアちゃんが、恥ずかしそうに頬を染めながら現れた。
「うん。嫁に貰いたい」
「深雪ちゃん?感想が少しおっさんみたいだよ。ユカラ君が心配してたのも、何となく理解できちゃった」
アズちゃんの言葉に我に返ると、改めてマグノリアちゃんの水着姿を眺めた。
身体の傷は所々見えちゃう部分はあれど、随分隠れていてマグノリアちゃんも安心して着られそうだ。
白の生地に花柄もいい感じに映えていて、とても似合っている。
胸元もフリルでカバーされていて、胸もあまり大きく見えな……いや、見えるわ、普通に大きいですよマグノリアさん。
触ってみてえとかいう、心の中のおっさんが騒ぐのを鎮めた後、マグノリアちゃんに微笑んだ。
「やっぱアズちゃんのチョイスは絶妙だね。マグノリアちゃんの雰囲気に合ってて良いと思う」
「深雪ちゃんもそう言ってくれるなら、安心だね。マグノリアちゃんもこの水着で良いかな?」
「はい。素敵な水着を選んで頂いて、ありがとうございます。ユカラにも自慢できます」
満足そうにニッコリとするマグノリアちゃん。
無事に買い物の一番の目的を果たす事ができて、私もアズちゃんも一安心するのだった。
「よーし。今度は自分たちの水着を選ばないとだ」
「うん、さっき探すついでに目星は付けてはおいたけど……深雪ちゃんはどんなの着るの?」
マグノリアちゃんの買い物を済ませてから、今度はセパレート系の水着の置いてある売り場へ向う。
「どんなのって、本当はマグノリアちゃん着てる様なタイプの水着を選ぶつもりだったけど……」
「うん。ユカラくんがリクエストして来たから、悩んじゃうよね」
生地の少ない水着を二人で眺めながら、お互いに探りを入れるような感じになってしまう。
「因みに、アズちゃんはユカラがあーゆーの着てって言ったら着る?」
私はマネキンが着た、ハイレグのかなり際どい水着を指さして聞いてみる。
「ん〜、これはちょっと際どすぎるから断るかなぁ〜、こっちぐらいなら着てもいいけど」
近くのビキニタイプの水着を指さして呟くアズちゃん。
アズちゃんなら何でも似合うと思うんだけど、恥ずかしい基準が私と同じレベルでホッとする。
どうやら、お互いに着る水着が恥ずかしいの我慢大会にならなくて済みそうだ。
「そうだよねー。ぶっちゃけユカラが本当にセクシー水着を望んでるかは怪しいと思うんだ。きっと生地の少ない水着を選んで恥ずかしがる姿がみたいんだよ、性格悪い」
私の言葉にハッとしたアズちゃんは、それでもフルフルと首を横にふる。
「ユカラくんは、そこまで性格悪くないよ。私と深雪ちゃんの普段見せない様な姿が見たいだけなんじゃないかな?」
「えっ、そう?私が斜めに構えすぎなのかな……マグノリアちゃんはどう思う?」
「はい。ユカラなりに、アズーロ様と深雪様の水着姿を楽しみにしているという意味では無いでしょうか」
「そっかー、そうだね。前向きに考えよう」
アズちゃんとマグノリアちゃんが好意的に受け取ってるので、私も素直に受け取ることにしようと心改めるのだった。
「私はアズちゃんほど選ぶセンスが無いから、店員さんに聞きながら選んでみるよ。色だけは被らないようにしたいねー。マグノリアちゃんが着れなかったから、私が黒にしようかな」
「深雪ちゃんは黒にするんだね。私はそれなら薄色か白かな。マグノリアちゃんと被らないように無地にするけど」
二人で色を決めたところで、お互いの好みの水着を別れて選び始めるのだった。
「私はここでお待ちしてますので、アズーロ様も深雪様もゆるりと選んできて下さいね」
水着の入った紙袋を大事に抱えながら、マグノリアちゃんは微笑んで私達を見送った。
さて、私はアズちゃんの様にバランス良くお肉が付いている訳ではないので、多少体型が誤魔化せる様な水着を選ばないといけない。
色々詳しそうな店員さんに、ちょっと相談に乗ってもらおうという作戦だ。
「あの、すみません。こういう感じのタイプの水着で、胸元が大きく見えるようなタイプのやつありますか?」
セパレートタイプの水着を指さして、勇気を出して聞いてみた。
「はい、寄せてあげるタイプのものですね。こちらの水着などいかがでしょう?」
意外とあっさり対応して貰って、結構そういう需要ってあるのだなあと感心してみたり。
「ある程度寄せて上げるタイプのものはありますが、もっと盛りたいというかたにはパットなどもオススメしております」
「うーん、パット……胸揉まれたら気づかれますよね」
「えっ?ええと、寄せてあげるタイプも激しく動くとお肉が逃げてしまうのですけど……」
ん?
なんで胸を揉まれる前提で話してるんだっけ。
店員さんが少し困ったように笑うので、自分の質問が恥ずかしいことに気づいた。
ダメだ、何を考えてるんだ私のアホ!
「あっ、そうですよね!軽い水遊び程度で着るやつなので、そんなに激しく動かないと思います……」
耳が熱くなっているのを感じつつもそう告げると、店員さんは慣れた対応である程度スルーしてくれた。
「では、クロスホルスターネックのタイプなどいかがでしょう?ワイヤー入りですので、かなりのボリュームアップが期待できますよ」
何だか専門的な話が出てきたのを、知ってる風に振る舞ってウンウンと頷き。
「じゃあそれでお願いします。でも胸元はヒラヒラ付いてる方が好きなんですけど」
「では、ドレープタイプにいたしましょう。今あるタイプは下とセットだと少し派手目になりますが……」
店員さんが持ってきた水着は色も黒で、私の希望通りだったが、なんというかその……紐ぱんだった。
「うぉ……下はかなり攻めてますね」
「はい。バランス的にはマッチしてるんですよ。試着なさいますか?」
少し躊躇する私の心に、ユカラのあの言葉が反芻する。
逃げてはダメだ、逃げてはダメだ。
「と、とりあえず着てみます!」
試着室に駆け込み、水着に着替える。
確かに周りのお肉を「オラに力を分けてくれ!」って元気玉みたいに胸元に集めてくれて、ちゃんと谷間ができてる事に喜んだ。
「これにします!」
私の勝負水着は決まった。
対するアズちゃんの水着がどんな感じなのだろうか。
私はドキドキしながら買い物終えるのだった。