［基本］OK.　［戦闘］OK.　［取引］OK.　［スキル］OK.　

――昔話をしよう。


俺、若宮線引が風凪マナカにフラれた、一昨年の夏休み。

今さっきまさに風凪によって、
「センパイと私って、そういうのじゃなくないですか……？」
といった明確なラインを引かれた俺は、
風凪が去った後の喫茶店のオープンテラスで、椅子の背もたれに背中を預けていた。












……フラれたんだが。

空が、青く、高い。
今まで、色恋沙汰なんかに微塵も興味がなかったけれど、
空って女子にフラれた後にも変わらず青く澄んでるんだなということは分かった。

まあそりゃそうだ。
変わっていくものがあるとするならば、
今後の風凪と俺の距離感くらいのもので、
これはただ最初から最後までそういう区切り以上の意味はない。
俺が思っていた終わりとは少しだけズレたし、
心に何かあったか分からない男としてのプライドのようなものに痛みのない傷を受けたりしたかもしれないが、
それもまあ些細なことで、たどり着きたい結末の一つ横くらいには着地できた。

ヤクザの息子である若宮線引と、
何の問題もない普通の女子の風凪マナカは、
今日の俺の無様な勇み足たる玉砕を以って、これから少しずつ疎遠になっていき、
少しずつ離れていくお互いの人生の道の先に向かって進んで行くのだ。
風凪くらい当たり前にいい奴は、風凪を当たり前に幸せにしてくれる誰かと共に、
ありきたりの幸せ以上の、風凪だけの幸せを得てくれればそれでいい。
多分お互いにとってそれが一番いいと思っているし、
そう思っての打診……まあ"告白"であったから、結果オーライと思っておこう。
ちょっとばかり、自分の人生とか出自とかいうものは、
当たり前にいい奴に背負わせるには幾分重すぎるものだろうし。

あいつが……風凪が何を以って自分と距離を詰めてきていたのかは、結局わからないままだけど、
自分なりにオチをつけるとするならば、道端でちょっと鳴いていた珍獣に声かけてみたってところだろうと、
それくらいには思っていた。
別に自分が男として好かれているとはこれっぽっちも思っていなかったし、
それでもまあ珍獣を見てつついてくる風凪は楽しそうではあったから、
少しばかり珍獣がいい気になってしまっていただけなのだろう。
本当はそんな資格もないくせに、いつの間にか彼女の楽しそうな態度に救われていたのも事実だ。
どんなに拒絶しても離れていかないやつもいるんじゃないかという希望が、
一番キツかった時期を乗り越える一つの糧になったのも揺るぎない事実である。
そんな相手を殊更に傷つけて遠ざけようとした自分の心根の浅ましさには嫌気が差すが、
だからといっていつまでもなあなあで関係を続けていくことこそ真の浅ましさだとも思う。

早々に。
風凪がいい奴であればあるほど。
あいつと道を違える必要は、常に突き付けられていた。
風凪が俺なんかを面白がってくれるこの関係に、
居心地の良さなんて感じちゃいけないとずっと思ってもいたから。
ましてやそこに、恋愛感情なんてものを載せられるほど、
人間として完全に終わり切っているわけでもなかったから。
……まあそれすらも、風凪が俺に残してくれた人間性でもあったので、
あいつには感謝してもし切れるもんじゃねーが……。

中学で出会ってから今まで、あいつには数えきれないものを貰った。
結局のところあいつにとっては面白い暇つぶしくらいの話だったのだろうけれど、
あいつが俺に仕掛けてくる色々は俺が日常に自分を繋ぎとめておくか細い糸であったし、
まあそれであいつが楽しそうにしてくれてるんだからそれはそれでいいかとも思っていたから。

……すげえ色々されたよな。
どんどんエスカレートしていったし、
どんどん試されているような感じになっていったし、
言ってしまえば何か俺の堪忍袋の耐久実験みたいになっていっていたような気がする。
簡単に言えば多分あいつには人間の本質を見抜くような目があって、
俺の本質も風凪を前にすると丸裸も同然だったんだろうと思う。
実際ワルぶっている時期でもあいつが俺を怖がる素振りは一切なかったし、
俺を他の奴と同じように少しでも怖がる心があったら、
俺へのアプローチがどんどん過激になることはなかっただろうし、
もっと言えばそれをしても本気では怒れない俺の甘さを見抜かれてもいたんだろう。

大正解だと思う。
実際、何回も風凪には「怒ってもいいんですよ、センパイ」というような、
挑発めいたことも言葉にして言われたことすらある。
何と返せばいいのか分からなかったけれど、俺は内心、
「お前にされたことが本気で嫌だったことが一度もない場合どうすればいい……？」と、
ずっと悩んですらいた。あいつをどうやってムカつけばいいのか、全く分からなかった。
風凪マナカは他人と深く関わることが今までなかった俺の人生で、
間違いなく一番近くまで踏み込んできた人間であり、
そんな人間を嫌いになれという方が、俺にとっては難しい話だったから。
そういう普通の関係を求めてくる相手のことを、
どうすれば嫌いになれるのかは未だわからないでいる。

まあ。
そういうぬるま湯のような心地いい関係も。
この度自分の手で台無しにしたわけだけれど。
……あいつの、怯えるような目は、
今まで浴びせられたどんな言葉や仕打ちよりも……結構胸に来たな。
必要なことだったとはいえ、
自分に興味を持ってくれる相手を袖にするのは、本当に疲れる。


「……終わったなあ」


小さく呟いた。
傍から見れば、恋に破れた玉砕男のセリフに聞こえんだろうなと思うと少し笑える。

何もかもに、蹴りがついた。
ヤクザの抗争にも、
踏み込みすぎた他人との関係にも、
一区切りがついて、何とも深く関わらない自分という人間がぽっかりそこに浮かんでいる。
雲一つない空の下で、誰とも繋がっていない若宮線引という存在を、
今産まれて初めて強く意識したかもしれない。
自分が何者で、何になりたいかとか、何一つ真剣に考えたことはなかったし、
他人に対してもこれをしたいあれをしたいなんていう自分の意思が介在する余裕なんてなかったし、
ようやく自分に自我が芽生えたような気さえする。
すげえ思春期が遅れてきたなと、少しだけ笑えた。

当たり前の高校一年生のやり方なんて何一つわからないけれど、
まあその辺は夏休みを超えて少しはっちゃけだした面倒なクラスメイトとして受け入れてもらおう。
誰とも自分からは関わろうとしなかったコミュ障の眼帯男が、
急にテンション上がったらみんな引かないだろうか。ありきたりな不安が湧いたが無視した。

「………」

空が青い。
何か、なんもかんもが片付いて奇麗になった自分の心のようだった。
確かにフラれはしたけれど、予想以上に全く悲しくない自分の心だけはちょっと悲しくなった。
最初から、自分が普通の高校生活や人生を送れるとは思っていなくて、
どんなに取り繕ったところで血塗れの一年間は俺にとって拭えないものであることが、
否応なしに理解できてしまっていた。
最初からそこに期待していなかったから、何もかもを終わらせた今、
気持ちは晴れやかですらある。
そういう意味ではやっぱり俺はずっと風凪のことを気にかけていて、
あいつに……引いては他人に何かを隠したまま笑い合うことに罪悪感みたいなものも感じていたし、
それで他人と万が一にでも深い関係になることに対して恐れのような感情も抱いていたんだろう。
結局上手くワルぶることができずに、風凪だけは完全に遠ざけられなかったけれど、
上手にそれで距離を置いてくれた友人たちを傷つけることもずっと怖かった。
赤笠組の跡目争いが終わり、あの家業から距離を取れた今であっても、
俺の身体にはその血が今も流れているし、今後それを誰かに明かすこともないと思う。

適度に距離を保った友人関係と、
けして大切な人を作らない異性間の関係と、
深く踏み込まない表面だけの『楽しい』『普通の』高校生活が、
きっとあと２年半用意された、俺の高校生活だ。
それを寂しいと思う優しいやつはいるかもしれないけれど、
人間だれしも他人に相談できないような秘密や悩みなんてものは抱えているだろうし、
俺にとってそれが赤笠組で過ごしたヤクザとしての出自だってだけの話だ。
右目の弱視という形で、明確に刻み込まれたその残滓を抱えて、
今後それを眼帯という奇異の視線で取られるだろう装飾で隠して、
何食わぬ顔で普通に暮らしていきたいというのもまた、俺の本心だ。

いいじゃん。すごい、普通で。
きっと、楽しいと思う。

友人とバカやって、可愛い女子の噂をして。
行事に文句言いながら参加して、頭抱えながら学校の勉強に取り組んで。
明日その中の誰かが死ぬことに怯えず、普通に普通なそんな生活を。
ずっと送りたいと思っていたから。
夏には海にいって、冬には雪遊びして。
楽しかったねと言いながら、毎日の退屈に押しつぶされないように踏ん張るくらいが、
きっと人間一人が抱えきれる問題であるんだろうし、
これからそういう当たり前の学生になっていけるであろうことは、少しだけ嬉しくある。
そして自然に分かれていく道の先で、そういえば若宮っていう変なやついたなあって思い出すくらいが、
俺が他人に関わることができるギリギリのラインなんだろうと思う。
一回『傷つけたくない』なんてエゴで全てを拒絶しようとした俺に許される関係としては、
本当に贅沢すぎる関係だとも思う。可能かどうかはさておくとしてもだ。

ただ。

まあ、だからと言って。
何も保障されていないからといって、
挑まなくていいわけでもないし、
いつまでもこうやって余韻に浸っているわけにもいかない。

失恋のショックで打ちひしがれている男の真似している暇があったら、
ずっと欲しかった「当たり前の人生」を楽しまないとな。

やりたいことはいっぱいある。
友人とバカ話もしたいし、
将来の夢とかも真面目に考えたりしたい。
子供の頃、自分の出自とか気にしてなかった頃自分は何になりたかっただろうか。
そういう自分のなりたいモノにもなれることは、
少しだけ嬉しい。

果てしなく青い空の下、
何もかもに一つの区切りをつけた男は、
カップの中で冷めたコーヒーをそのままに立ち上がった。
当たり前の日常に向けて、一歩目を歩きだそうとしたその日のことを。

俺は小さく笑い、大きく伸びをした。


「――さあ。
　若宮線引の人生を始めますか」



――俺は今後何があっても。

一生忘れないと思う。






































































――蝉の声が聞こえる。


カフェテラスの植え込みを曲がったところで。

虚ろな目の男がこちらを見てきており。

手には血塗られたナイフが握られていて。

その足元で。








































































――風凪マナカが、脇腹を刺されて死んでいた。






























































『若宮くんが。
　風凪マナカちゃんに隠してることって。
　それだけじゃないもんね？

　――『あの日』からずっとだもんね』

特に何もしませんでした。

守護者の姿が消え去った――

　

　

六角形の柱から天に向け、赤色の光柱が立つ。

どうやら次元タクシーで行けるようになったようだ。

すごい木材（400 PS）を購入しました。

防具LV を 23 DOWN。（LV70⇒47、+23CP、-23FP）

武術LV を 5 UP！（LV25⇒30、-5CP）
制約LV を 5 UP！（LV25⇒30、-5CP）
響鳴LV を 2 UP！（LV25⇒27、-2CP）
付加LV を 40 UP！（LV0⇒40、-40CP）

まかちゃん(575) により ItemNo.33 すごい木材 から射程1の呪器『攻撃線』を作製してもらいました！
　⇒ 攻撃線／呪器：強さ505／［効果1］攻撃20 ［効果2］－ ［効果3］自滅17【射程1】

カノン(1163) とカードを交換しました！

釣瓶撃ち （エファヴェセント）


ソウルビート を研究しました！（深度0⇒1）
ソウルビート を研究しました！（深度1⇒2）
ソウルビート を研究しました！（深度2⇒3）

博打付加 を習得！

◇通常獲得：各CP･FPが5増加した！

マナカ(507) は どろどろ を入手！
マナカ(507) は どろどろ を入手！
線引(506) は 触手 を入手！
マナカ(507) は 触手 を入手！

特に移動せずその場に留まることにしました。
体調が全回復しました！

『カミセイ区 H-4：チェックポイント《森の学舎》』へ採集に向かうことにしました！
　　 - マナカ(507) の選択は カミセイ区 H-4：チェックポイント《森の学舎》

MISSION!!
ヒノデ区 M-2：ヒノデコーポレーション を選択！
　　 - マナカ(507) の選択は ヒノデ区 M-2：ヒノデコーポレーション

［844 / 1000］ ―― 《瓦礫の山》溢れる生命
［412 / 1000］ ―― 《廃ビル》研がれる牙
［464 / 500］ ―― 《森の学舎》より獰猛な戦型
［156 / 500］ ―― 《白い岬》より精確な戦型
［340 / 500］ ―― 《大通り》より堅固な戦型
［237 / 500］ ―― 《商店街》より安定な戦型
［160 / 500］ ―― 《鰻屋》より俊敏な戦型
［97 / 500］ ―― 《古寺》戦型不利の緩和
［41 / 500］ ―― 《堤防》顕著な変化
［17 / 400］ ―― 《駅舎》追尾撃破



　

　

　

　　　ぽつ･･･

　

　

　

　　　　　　　　　ぽつ･･･

　

　

　



　




　

　

　

　　　　　　サァ･･･――

　

　

　

雨が降る。

　

　

　

　

　

　




よく見ると雨は赤黒く、やや重い。

　




急いで雨宿り先を探す白南海。

　

　

しかし服は色付かず、雨は物に当たると同時に赤い煙となり消える。

地面にも雨は溜まらず、赤い薄煙がゆらゆらと舞っている。

　

　




　

　

　

チャットが閉じられる――

数々の巨大施設が立ち並ぶ、ヒノデコーポレーション構内。

その施設のほとんどは朽ち果てているようだ。

　

　　　がさっ･････

　

物陰から、何かが這い出てきた。

　







　

腐敗した者たちが、静かに迫ってくる･･･