時と共に人は変わる。








それが生きている限り、変わることは必然だ。
何ひとつも変わらないことこそ、生命として不自然である。





彼らは何の理由もなく、その姿を留めることはできない。

人は、必ず、変わらなければならない。
それを成長と呼び、成熟と呼び、その変容を受け入れる。










昔から、人の顔を“覚える”ことがひどく苦手だった。

もう既に必要もなくなった過去の記憶ばかりを引きずりながら、
ただただ、行き場のない焦燥感と孤独感を抱きながら生きていた。

自身は元より、そういうふうに生きて死ぬいきものなのだと、その生き様に納得していた。


“己と呼べるものは、もうじき死に絶える”。


この事実ひとつが、すべての物事を無意味と無感動に変換する。
この事実ひとつが、この世の何もかもを許す理由として在り続けた。
煮えたぎる憎悪も怨恨も呑み込んで、心の奥底に沈めて消した。








この事実ひとつが、まったくの虚構であると気付くまでは。


一日たりとも欠けることなく信じ続け、そのために費やした5475日が否定される。
15年間の膨大な記憶が、己の過ちを嘲笑った。正しかったことなど、ただの一度もなかった。


そこにあった人格が狂うには、十分すぎる。







一年ぶりに、中学の同級生に出逢った。





時と共に人は変わる。
一年も会わないうちに、彼らは随分と姿を変えていた。
この目には、誰も彼もが他人にすげ替えられてしまったように見えた。

彼らが本当に同級生なのか、未だ確証が持てないままだ。








過去に覚えた景色は、いま現在のどこにも存在しない。
より精確に記憶すればするほどに、記憶はいずれ現実と乖離していく。

そのうち、人の顔を覚えようとすることはやめた。

かわりに人の声を覚えることにしたのは、まだ最近のことだ。










時と共に人は変わる。
少しずつ、覚えのない存在に変わっていく。

▲	田中田 哉太 「イヤ、でもねえ。さっきから後ろでメッチャ長いイモムシがゆいゆいの中に入ろうと狙ってんの。何かするようだったら殺さないと……」 　暮泥の背後を指差している。勿論何もいない。 田中田 哉太 「ア、それは分かる……こっちだとウチの方が高いのに向こうだとアイツの方が高くて混乱する。 　あとゆいゆいがどんどんふてぶてしくなってる気がする。 　12時間くらい前はコイツ大人しそうだなって……人の膝に土嚢積んだりしなさそうだと思ってたのに、今のゆいゆいは絶対土嚢積むと思う。絶対積む」 田中田 哉太 「向こうじゃもう夏休みかあ。ねえゆいゆい～～お祭り行こうよお祭り～～！！」 田中田 哉太 「イヤ、ここで言ってもしゃーないんだケド……」

▲	齎藤 颯 「なんかちゃんと覚えられてると恥ずかし……。 　あの、えっと、嫌いなのは確かにそうなんだけど……怖い、の方が正解かも」

	齎藤 颯 「本当は順番が逆の方がいいんだろうけど、ほら、 　同じ秘密を共有してるからこそ心置きなく話せるというか……そんな感じ？」

	齎藤 颯 「そうだね……うん、オレもそう思う。 　向こうのオレにも、なにか少しくらい伝えられたらいいのにな」

	齎藤 颯 「あっ、その、別に意識してドライにする必要はないっていうか。 　もうちょい友っ……あー、いや、なんでもない、なんでもないよ……」

▲	泥蘇光悪渡 「ッるせェ！！！テメェを黙らせて伊藤君にワビ入れて貰うのが目的よ。 点数なンざ関係ねェ！！！クソアンジの裏切りモンがよォ！！！！」

	泥蘇光悪渡 「伊藤君はなァ、 伊藤君は俺の小学校の頃からのダチなンだよォォ！！！　それをテメェ調子こき腐って嬲りやがってよォォォッッッ！！！めちゃ許せねェぜ！！！ 」

	泥蘇光悪渡 「濯木・ブライアン・龍臣にも齎藤 颯にも田中田哉太にも送ってッから安心しろォ？ 全員伊藤君にワビ入れるまで俺は見張ってッからよォ……」

▲	「……」

	「……ふ、フフ、いいじゃん。最高。そういうのが欲しかったんだよ。やっぱりお前に期待して正解だったみたいだな」

	「まさかとは思うけど、俺が誰なのか聞いてショック受ける反応をお前に期待したとでも思っちゃった？　なあ、美少年？」

	「マウント取るので精いっぱいで、お前の思いついた友人みたいにバカ正直なよいこちゃんであるとでも思いましたかね？　そんな事ねえか、俺とそのご友人とやはら赤の他人で、お前は俺を尊重してくれてるんだもんなあ？ じゃあ何、俺の事正直者だと思ってくれちゃったわけ？　やっさしいねえ」

	「……お前こそ、俺になんか期待してんの？　そんなにお話続けて欲しいなら質問ひとつしてやるよ。何も知らない赤の他人の俺に、自己紹介をお願いできるかな？　美少年君？」

▲	濯木 龍臣 「知ってる。」 “くさかべ”なんて名前の人間はこの世にごまんといる。 それでも断言したのは、つまり────そういうことだ。 濯木 龍臣 「……今は、オレたちしかいないはずだ。 少なくとも、あいつが入れるワケねえよ……」 濯木 龍臣 「・・・・・・・・・・・・ 　あいつはまだ外に出てない。」

▲	ウルガレス 「まぁ、存在しているだけの害悪というのは確かにどうしようもないな。 　故に世界は駆逐し否定する動きを取ったのだろう。 　そしてそれをそのまま享受するのならば。 　その先は滅びを選ぶしかあるまいな。 　そう考えるとそこまでの思考力を持ってしまったのは幸なのか不幸なのか。」

	ウルガレス 「そも、アンジニティの勝利の報酬がイバラシティへの定住だろうが。 　その形がどうなるのか、そもそも果たされるのか……それは分からぬが。 　まぁ我らをダシにしてるだけならばそれを目論んでいるものには 　それ相応の報いは受けてもらうがな。」 「……なんだ？ 　そのイバラシティの知人にはそういう考えの奴がいるのか。 　 　そいつがお前の友人であるのならば素直に言ってみたらどうだ？ 　案外に受け入れてくれるかもしれんぞ。 　ま、お前に説得力があるかどうかは保証しかねるが。」

▲	アヤシバ 「シュショーな事ってなんだよ。 　フツーに驚いたわ」 　つーか、オオカミ美少年ってなんだよ。 　どんだけ暮泥の顔に自信あるんだよ。 　まぁ、ちょっとかわいい顔してるってとこは認めるが」

	アヤシバ 「アホ。 　一瞬だけ理想が叶っても意味ねーんだよ。 　誰かわからんくなるのは困るよな。 　いつのまにか知り合いがなれはててもわかんねーからなー。 　せめて名前の表示くらいは……いや、それはそれで生々しくてこええか……」

	アヤシバ 「いや、情報として要るかって言われたらいらねーけど…… 　おめーの生態めっちゃ気になるんじゃん？ 　うちってホラ、学者肌だから？ 　知識欲がすげーっつーか。 　せっかく未知の生物とお話しできるんだから今のうちに聞けること聞いときたくね？ 　イバラの住人とアンジってどうあっても戦争終わったらお別れなんだろ？ 　ってかさ、なんか不定形っぽい感じあるけど、 　身長ほしいなら自分で伸ばせたりするんじゃねえの？ 　その、虫みたいなやつでカサマシするとか？」

▲	からん　からん。 この土塊は、自分が立てた音に対して相手が疑問を抱いている　なんて発想に至れない。 「やま　　　のぼる　してない、よ。」 なので問われた事項にそのまま回答する。 「……やま、のぼる　も　いい、かな。 えっ　と……、つくなみ…………とか……？」 近くの石を戯れに撫で転がしたりする音とともに呟く。 山と聞いて浮かんだのは、記憶のあの学校からもほど近いツクナミ丘陵。

	「しぬ　はこぶ　ほしいとき、いって　ね。」 「たべる　……は、　えっと、」 「…………」 暫しの沈黙。 「…………やだ。」 「いきてる　にく、うめる　　　ほか　たのむして」 生きている人間を埋める行為は、ずっと昔に見たような気がする。 それは嫌な声をあげる人間達がやっていたことだ。だから嫌だ。 それを思い出して声が沈む。

	「……。」 "頑張って生きる" のあたりで、「うん」とかなんとか、弾んだ声が聞こえただろう。 「いきてる　なら、はこぶ　かんがえ……ない、いいよ　ね。」 自分たちの足で侵略したイバラシティへ辿り着くことができれば何の問題もない。 そう思っている。

	「ひろがる　はな……　うん、それ。いい。おはな　いっぱい、なる　ね。」 「いろ　ね、きいろ。きいろの　はな、いい。」 列挙された花の名には、すべて「うん」と好意的な頷きを返した。 どの花であっても良いらしい。たいした拘りはなさそうだ。

▲	煉 「質問に答えてない。 イバラシティもアンジニティもどっちも人間の集団だし。 お前が侵略者か、裏切り者かなんていうのもどうでもいい。 俺が聞いたのは、アンジニティかどうかって事だけだ。 ……いや、それなら聞く意味、無いか。 分かってるから、連絡した訳だし」

	煉 「俺が言いたかったのは、お前は俺を騙したのか？って事だけだよ。 嬉しかったんだ。 悪人だと思った奴が、本当は善人で。 暮泥は善人だったから、俺も本当は普通に善人なのかもしれない。 無責任に、そう思えたから」

	煉 「でも、そうじゃなかった」

	煉 「……いや、本当は分かってる。 人間には色々いるから、善人とか悪人とか簡単に分けられないって。 イバラシティが全員善人って訳じゃないし、アンジニティが全員悪人って訳でもない。 人間の中には、人間しかいない。 そんなのは分かってたんだけど。 俺は善人でいたかったから、お前の存在を、救いだと思ったんだよ」

	煉 「善人なら、そんな事で喜ぶより、お前の苦労を労れって話だけど。 でも、ま、結果として労らなくてよかったのかもな。 本当にアンジニティなら、お前は何も偽らずに生活してることになる」

	ふと、気がついて顔を上げる。 「そういえばお前、なんで俺にあんな話したんだ？ もっと分かりやすくて、信じやすい嘘なんていくらでもあると思うけど」

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ゆ～ぱらだいす

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