［基本］OK.　［戦闘］OK.　［取引］OK.　［スキル］OK.　

「そういえば先輩は、何かきっかけあったんですか？　医者目指すっていう」












「………」


向き合って食べている山盛りの甘味を飛び越えて。
同じく、医者を目指すらしい高宮清春からそんな質問がくる。

山盛りのクリームを掘っていたスプーンが止まった。

メガ盛スイーツもこもこまうんてん！
「生クリームをふんだんに使いすぎためちゃ盛りスイーツショップ！
　糖分とカロリーに飢えたあなたの味方！」と銘打たれた、
右脳と左脳の入ってる場所に恐らく生クリームが詰め込まれている奴が構えた店で、
男子高校生の男二人が、終わりのないスイーツとの戦いの最中だ。

道を同じくする者同士、試験勉強の合間を縫っての意見交換会だった。
まあ、そう言えば格好はつくが、毎日毎日テキストに向き合っていることに飽き飽きしていたので、
話の切っ掛けが作りやすかった後輩を誘って日常の外に抜け出したかっただけでもある。
それにしてもあまりにも非現実的な光景に、これならテキストの山に向き合っていた方が、
若干楽だった説まで湧いてくるほど、口内に甘味が暴れまわっている。
でもまあ、店はともかくそういう真面目な集まりだから
その手の真面目な質問が飛び交うのは当たり前の話で、
しかも自分の方が先にそういう質問をしておいて、答えを用意していないことに今更ながら気づいた。

高宮は自分が医者になりたい理由を、先に質問した俺に答えてくれた。
曰く、姉が看護師をやってて、色々聞いているうちに志したのだという。
それは正直な話凄く羨ましいことでもあったし、
理由としては具体性や現実感もある割とリアリストな高宮清春らしい理由だと思った。
っていうか、姉居たんだな。初耳なんだが。
一個上とかかな。まさかソラコーの同学年にいねーだろうな。
高宮の姉についてはまた後日時間を取って口を利いてもらえることにもなったので、
この会合は俺個人としては、それだけでもかなりの収穫になったといえる。
……白衣の天使か。成程。


雑念に横道に逸れながらも、考える。
医者を目指す、理由。
俺、若宮線引が、医者になりたがる理由。

考える。
そういえば、高校に入る前から。
将来、可能ならば医者になりたいと漠然と思っていたように思った。
それはかなり漠然としたものではあったけれど、
形になるまでずっと思い続ける程度には、若宮線引の根底に存在する柱ではあったと思う。

だからそれが確固としてはっきりと自分の夢になった高校一年次に、
それこそ丸一年掛けて特進科に転化するためにそれなりに努力もしたし、
周りの話を聞けばそれはあながち間違った選択でなかったことにも安堵した。
同じように医者を目指す人間には会えてないけれど、
特進科という場所に身を置くことで、将来の選択肢が広く持てているというのは事実だ。
二年進学次に特転した生徒は自分の知る限りでは自分だけだったので、若干不安もあった。
まあ、勉強についていけるのかとか、一年で出来上がってしまった一つのコミュニティに、
眼帯のヤンキーが不良品として突撃して、特進のやつらが引かないかとかしょうもないことが中心だったけど。
予想に反して、すんなりと溶け込めたようにも思う反面、
辛うじて少なからず自分のアイデンティティと化していたクラス唯一の眼帯だった俺が、
同じクラスに眼帯の、しかも野郎が存在するということでまさかの属性モロ被りをしたこともあり
「眼帯のモテない方」という不名誉なあだ名もいただくことになったが。
全く納得がいかないし、特進で唯一俺が困ったことであるともいえる。転化前に読めるかよこんなん。


……話を戻す。
医者になりたいとは、以前から思っていた。
朧げになれればいいなあと憧れていた時期も含めれば相当長い間夢見ていたことのように思う

何かきっかけがあったかと言われれば、
何か医者を目指す理由が思い当たるかと言われれば。

……やっぱりそこには中学から高校に掛けて、
極道という裏の世界で見てきた、
様々な命のやり取りが大きく影を落としている。
流石に、それを高宮に正直に告げるわけにはいかないが。

余所行きの服を着せて、回答を口にする。

「……あー、きっかけか。
　なんか説明するのも恥ずかしいくらい、クッソ単純な話なんだが……。
　別に医者しかないって強いこだわりが　あったわけじゃなくてな。
　出来れば、人の命が救える仕事に就くのが……昔からの夢だったんだよ」


これは、嘘じゃない。全てが真実でもないが。

今まで、自分は多くの命を指の隙間から零してきた。
正しい知識があれば、正しい技術があれば、もしかしたら救えたかもしれない命をたくさん見てきた。
それらは時に自分に血を流す腹を見せ、夢破れた背中を見せ、路地裏の黴臭い空気の中、
物言わぬことで常にこちらを苛んできていた。
今でもその光景を、時々夢に見る。
流石に、その死体の顔が風凪マナカだったときは、余りにも容赦がなさすぎて苦い笑いが出たが。

それらの救われない命を異能を使って、救おうと試みたのも一度や二度じゃない。
すでに失われた命を使って、冒涜とも言っていい『処置』を練習もした。
その時の血の持つ熱を、肉から失われていく熱を、いまだに指先が覚えている。

それでもきっと、自分の技術はそういう暗がりから産まれたものであって、
それでは正しく人の命を救えない技術でもあったのだと思う。
だから俺はそれに、正しい認可を求めることで、それらを正当化できるとも思っているのだと思う。
浅ましいことは自覚しているけれど、もう二度と、
目の前で命が失われていくのをただ眺めているのだけはごめんだった。


幸いなことに俺には【指線引き】という無理の利く異能があり、
不幸なことに俺には右目の視力がない。
それが、己の志す夢にどういう影響を齎すのかの全容はまだ見えていないけれど、
向かう先さえはっきりしていれば、そうズレた場所に着地することはないんじゃないかと思っている。

異能を使用すれば『縫合線』で縫合を、『切取線』で切断を、『停止線』で固定を、
そうやって医療分野に応用の利く異能を持たせてくれたことは、俺が親に感謝していることの一つだ。
でも、もしかしたらその異能も正しく使えるときばかりではないかもしれない。
憔悴していれば、睡眠不足ならば、或いは他の理由で異能が使えなくなったとき、
異能に頼らずとも自分の手で他人の命を救えることこそが、今自分が目指しているモノだ。

今まで、たくさんの命を救えなかったこと、
もっと直接的に言うのであれば、他人が他人の命を奪うところを看過するしかなかったこと。
その失われてしまった命に対する償いになるなんて思ってはいないけれど。
それでも、取り返せないのであっても進む先で救わなくてもいいなんてことはないだろう。
今までをどう生きたかではなく、これからをどう生きるかを考えたとき、
それが多少遠かったとしても、しっかりと視線が定まっていることは、自分の地盤を固くしてくれていた。


高宮は、俺の返答を聞き、少しだけ黙る。
流石に少し引かれたかと思ったが、すぐに口元に手をやって小さく笑って言った。

「いや……かっこいいっすよ」

その、自然に出てきたような感嘆の声は本心から出ているような声で。
面映ゆいような照れくさいような気持ちになって、多少誤魔化しを加えて返事をした。
どうもそれには、気持ちとして通じるところがあったのか、
何となくそういう奇麗ごとに聞こえる本心を根っこに持ちながら進んで行く仲間ができたようで、
素直にうれしくもあった。
同時に、なんかいつも表情が変わらないくせに時折見せるその笑い顔も含めて、
なんでこいつの周りにいつも女子がいるのかを、理解してしまった自分もいた。悔しくはない。
真似できねーもんこんなの。

まあ、でも。
格好いいばっかりの理由ではないことも、自覚していた。
嘘は言っていない。
だが、本当のことを全て告げたわけでもない。
その本当のことを全て伝えたとき、高宮がどんな反応をするのかはわからないが、
今と同じ意見になるとも言い切れないのも確かだ。
ただ、今目指すところがはっきりしていることを、
自分のそういった濁りで迷うことも無意味だと知っているからこそ。
前だけを向いて進んで行こうとも思っていた。

それがもしかしたら、届かない夢であったとしても。
背中に人生の後輩である高宮や、風凪の視線を受けているのを感じながら。

………。

風凪。
風凪マナカ。

あいつにも、こういう夢とかあんのかな。
よく考えたら、あいつの夢とか将来とか進路とか、
そういうもん聞いたことねーな。
ソラコー受けるっていうのも、受かって通うようになってから知ったし。


いつの間にか他人のことを考えていて、
スイーツの山に隠れて、小さく笑った。

「………」


もし風凪マナカに夢があったとしても。

自分の医者になりたいという夢は。
自分のなりたいものになりたいというその夢は

きっとそれを口にしたら呆れるような顔をするであろう、
風凪マナカとは関係ない物だと、思いたかった。


きっとあいつにもあいつの夢があって。
それはあいつらしい賢さと計算の上にあって、
俺になんか絶対に教えてくれないだろうけれどきっちりと掴み取ってみせて、
ご苦労様と言わんばかりにそれを片手に進み始めるその道には。


その夢が叶う先には、
その夢が叶ってあいつが笑っているその場所に、俺は。


――俺だけは。

『居ない方がいい』と、
『関係ない方がいい』って。


それだけは。
そう思うから。





☆　　　★　　　☆　　　★　　　☆　　　

特に何もしませんでした。

制約LV を 5 UP！（LV30⇒35、-5CP）
防具LV を 5 UP！（LV65⇒70、-5CP）

傲慢たる敗者(437) とカードを交換しました！

《大破術師》 （ウィークサーチ）


イディオータ を研究しました！（深度0⇒1）
イディオータ を研究しました！（深度1⇒2）
イディオータ を研究しました！（深度2⇒3）

◇通常獲得：各CP･FPが5増加した！

線引(506) は ボロ毛布 を入手！
マナカ(507) は ボロ毛布 を入手！
線引(506) は 紅小石 を入手！
線引(506) は 紅小石 を入手！

マナカ(507) に移動を委ねました。

カミセイ区 T-13（道路）に移動！（体調10⇒9）
ウシ区 A-13（道路）に移動！（体調9⇒8）
ウシ区 B-13（道路）に移動！（体調8⇒7）
ウシ区 C-13（道路）に移動！（体調7⇒6）
ウシ区 D-13（道路）に移動！（体調6⇒5）

MISSION!!
カミセイ区 S-13：チェックポイント《鰻屋》 が発生！
　　 - 線引(506) が経由した カミセイ区 S-13：チェックポイント《鰻屋》
　　 - マナカ(507) が経由した カミセイ区 S-13：チェックポイント《鰻屋》

［842 / 1000］ ―― 《瓦礫の山》溢れる生命
［382 / 1000］ ―― 《廃ビル》研がれる牙
［420 / 500］ ―― 《森の学舎》より獰猛な戦型
［127 / 500］ ―― 《白い岬》より精確な戦型
［233 / 500］ ―― 《大通り》より堅固な戦型
［43 / 500］ ―― 《商店街》より安定な戦型
［27 / 500］ ―― 《鰻屋》より俊敏な戦型



―― Cross+Roseに映し出される。

　

　

　




　






　

　

　

落ち着きなくウロウロと歩き回っている白南海。





　




　

ゆらりと顔を上げ、微笑を浮かべる。

　













　

　

　






　




　

　




　




　

　

　

チャットが閉じられる――

チェックポイント。



再び現れる守護者。

　　




それは言葉を発すると共に襲いかかる！