
家から近く、海に面した高台。時刻は夕方頃。
灯台を背にして、広場の適当な段差に腰を下ろす。
背負ってきたケースの中には、アコースティックギターが収められている。
つい先日買ったばかりのそれを、丁寧に取り出して膝の上に置く。
ゆっくりと構え、左手を指板の上へ。
簡単なコードを繰り返し押さえつつ、ストロークの練習から。
繰り返し、繰り返し。一定のリズムを刻む。
高校の頃、仲の良かった友人に半ば引きずられるようにして軽音部に入った。パートはベース。「余っていたから」という、特に何の面白みもない理由。特別にやりたいものもなかったから、何でも良かったけど。楽器や機材は持っていなくて、何代か前の先輩が部室に置いていったとかいう物を借りて使っていた。最後まで買うことはしなかった。どうせ部活の間、三年間だけ。長くやるつもりもなかったし。弾けるようになってくれば、そりゃ自分の楽器が欲しくなりはする。けどその度に残り期間と天秤にかけては、買わない理由を作っていた。今思えば、何でなんだろうな。
持ってきた楽譜を地面に広げて、コードをなぞっていく。
この間から練習している。数年前、ちょうど高校の頃に流行っていた、とあるバンドの曲。
あの頃も、練習していたような気がする。どうだったか。ギターを弾いていた友人は流行りの曲に手を出したがるタイプで、次々に色々な楽譜を持ってきた。大半は難しくて撃沈していたけど、気まぐれに振り回される日々はそれなりに楽しかった。ギターの練習にもよく付き合わされていた。その度に、同じ様に部室に残されていたギターを持ち出しては、遅くまで一緒に練習してたっけ。だから、コードの押さえ方とか弾き方とかは、今でも何となく覚えている。
まあ、覚えているだけだ。弾けるかどうかは、また別の話。
ただ音を重ねるだけの単純なストローク。
辿々しい伴奏に、鼻歌交じりの歌声が重なり、灯台の天辺へと抜けていく。
日は暮れゆく。広場にできた長い影を眺めつつ、思考に浸る。
──何となく、わからないでもない。昔から、音楽自体は好きだった。一人の時間は大抵ラジオを聞いていた。ラジオでかかる流行歌は俺と周囲を繋ぐものの1つで、大事なものだった。最初はそうだ。いつしか憧れを持つようになっていた。バンドをやろうと言われたときだって、内心は嬉しかった。けどそこまでだった。短い期間の部活。どうせまともに出来るわけがない。終わりが見えているものに本気になったって、格好悪いだけだ。頭の片隅ではそう思っていた。
そんな気がする。
もう忘れた。過去のことだ。
ここに来る時に、ほぼ全てのものを投げ出してきた。
持ち物も、知人も、思い出も。自分を形作る色々なものを置いてきた。そのつもりだ。
実際、全てを更にしてしまうことなんて、できやしないけど。
それでもそうしたのは、過去の自分を一度清算して、やりなおしたかったからだ。
どうしようもなく臆病で、スタートラインに立とうという気すら起こさなかった、過去の自分を。
最後の一音を鳴らし終えると、立ち上がって、海に向かって大きく叫んだ。
余韻とともに、とりとめない思考を吹き飛ばす。
(4月末 タニモリ灯台前広場)

[770 / 1000] ―― 《瓦礫の山》溢れる生命
[336 / 1000] ―― 《廃ビル》研がれる牙
[145 / 500] ―― 《森の学舎》より獰猛な戦型
[31 / 500] ―― 《白い岬》より精確な戦型
―― Cross+Roseに映し出される。
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白南海 「うんうん、順調じゃねーっすか。 あとやっぱうるせーのは居ねぇほうが断然いいっすね。」 |
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白南海 「いいから早くこれ終わって若に会いたいっすねぇまったく。 もう世界がどうなろうと一緒に歩んでいきやしょうワカァァ――」 |
カオリ
黒髪のサイドテールに赤い瞳、橙色の着物の少女。
カグハと瓜二つの顔をしている。
カグハ
黒髪のサイドテールに赤い瞳、桃色の着物の少女。
カオリと瓜二つの顔をしている。
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カグハ 「・・・わ、変なひとだ。」 |
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カオリ 「ちぃーっす!!」 |
チャット画面に映し出されるふたり。
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白南海 「――ん、んんッ・・・・・ ・・・なんすか。 お前らは・・・あぁ、梅楽園の団子むすめっこか。」 |
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カオリ 「チャットにいたからお邪魔してみようかなって!ごあいさつ!!」 |
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カグハ 「ちぃーっす。」 |
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白南海 「勝手に人の部屋に入るもんじゃねぇぞ、ガキンチョ。」 |
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カオリ 「勝手って、みんなに発信してるじゃんこのチャット。」 |
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カグハ 「・・・寂しがりや?」 |
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白南海 「・・・そ、操作ミスってたのか。クソ。・・・クソ。」 |
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白南海 「そういや、お前らは・・・・・ロストじゃねぇんよなぁ?」 |
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カグハ 「違うよー。」 |
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カオリ 「私はイバラシティ生まれのイバラシティ育ち!」 |
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白南海 「・・・・・は?なんだこっち側かよ。 だったらアンジニティ側に団子渡すなっての。イバラシティがどうなってもいいのか?」 |
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カオリ 「あ、・・・・・んー、・・・それがそれが。カグハちゃんは、アンジニティ側なの。」 |
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カグハ 「・・・・・」 |
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白南海 「なんだそりゃ。ガキのくせに、破滅願望でもあんのか?」 |
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カグハ 「・・・・・その・・・」 |
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カオリ 「うーあーやめやめ!帰ろうカグハちゃん!!」 |
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カオリ 「とにかく私たちは能力を使ってお団子を作ることにしたの! ロストのことは偶然そうなっただけだしっ!!」 |
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カグハ 「・・・カオリちゃん、やっぱり私――」 |
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カオリ 「そ、それじゃーね!バイビーン!!」 |
チャットから消えるふたり。
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白南海 「・・・・・ま、別にいいんすけどね。事情はそれぞれ、あるわな。」 |
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白南海 「でも何も、あんな子供を巻き込むことぁねぇだろ。なぁ主催者さんよ・・・」 |
チャットが閉じられる――