
あちらの世間では連休だった。
学校の方が居候先よりまだ居心地がいいから、
早く終わってほしかった。
特別仲良く話すような相手なんていないから、
世話になっている人間が近くにいないことが
いくらか気楽、というぐらいの差ではあるけども。
かあさんの状況は改善しないという意味で悪化している。
……かあさんは、決して死んだというわけじゃない。
姿形がすっかり変わっただけだ。
話したことが聞こえているのかどうなのか、
俺には、わからなくなっただけだ。
どうしたら、かあさんが安心するのか、喜ぶのか、嬉しいのか。
その手掛かりがまるで掴めなくなっただけで、
生命反応自体は、いまも存続している。
昏睡状態に陥るすこし前、かあさんは精神的に不安定な状態になったときがあった。
無理もなかったと思う。この先の見通し、つまり、ヒトの形で生きる手立てに
コレとはっきり打てる手立てがないことを、きいた後だったから。
元々、完全に健康な精神の持ち主だったかと言われると、
些か視線に過敏すぎるきらいがある人だったけれど、
それでも他人に、少なくとも息子に、愛情──俺が、母から大事にしてもらえている、と
そう思えるだけの行動をしてくれる人ではあった。
親子と言えど、どこか一定距離を置いた扱いは、たぶん
俺がかあさんをうっとおしく思っていられる余裕があったときに、
下手な後悔を生まないって意味で、うまく作用をしていた。
そして、反対に。
かあさんが望むことを俺が汲めているのかどうか
その検算をするための材料を、減らす作用を果たしもした。
かあさんが、まだ、黒い目と、片目を隠すほど長い前髪と、
落ち着いた声を持っていたときのことを思い出す。
もう、いいかな。と、小さくつぶやいたその言葉を。
病室に頻繁に会いに行っていた俺に、かあさんは
深い眠りについてしまうまで、
たったのひと言も、たすけて。とは言わなかった。
──あのとき、かあさんは、諦めたんじゃないかと、そう思っている。
俺というモノを使って、俺"で"幸せになることを。
その道を、探そうとすることを。

[770 / 1000] ―― 《瓦礫の山》溢れる生命
[336 / 1000] ―― 《廃ビル》研がれる牙
[145 / 500] ―― 《森の学舎》より獰猛な戦型
[31 / 500] ―― 《白い岬》より精確な戦型
―― Cross+Roseに映し出される。
 |
白南海 「うんうん、順調じゃねーっすか。 あとやっぱうるせーのは居ねぇほうが断然いいっすね。」 |
 |
白南海 「いいから早くこれ終わって若に会いたいっすねぇまったく。 もう世界がどうなろうと一緒に歩んでいきやしょうワカァァ――」 |
カオリ
黒髪のサイドテールに赤い瞳、橙色の着物の少女。
カグハと瓜二つの顔をしている。
カグハ
黒髪のサイドテールに赤い瞳、桃色の着物の少女。
カオリと瓜二つの顔をしている。
 |
カグハ 「・・・わ、変なひとだ。」 |
 |
カオリ 「ちぃーっす!!」 |
チャット画面に映し出されるふたり。
 |
白南海 「――ん、んんッ・・・・・ ・・・なんすか。 お前らは・・・あぁ、梅楽園の団子むすめっこか。」 |
 |
カオリ 「チャットにいたからお邪魔してみようかなって!ごあいさつ!!」 |
 |
カグハ 「ちぃーっす。」 |
 |
白南海 「勝手に人の部屋に入るもんじゃねぇぞ、ガキンチョ。」 |
 |
カオリ 「勝手って、みんなに発信してるじゃんこのチャット。」 |
 |
カグハ 「・・・寂しがりや?」 |
 |
白南海 「・・・そ、操作ミスってたのか。クソ。・・・クソ。」 |
 |
白南海 「そういや、お前らは・・・・・ロストじゃねぇんよなぁ?」 |
 |
カグハ 「違うよー。」 |
 |
カオリ 「私はイバラシティ生まれのイバラシティ育ち!」 |
 |
白南海 「・・・・・は?なんだこっち側かよ。 だったらアンジニティ側に団子渡すなっての。イバラシティがどうなってもいいのか?」 |
 |
カオリ 「あ、・・・・・んー、・・・それがそれが。カグハちゃんは、アンジニティ側なの。」 |
 |
カグハ 「・・・・・」 |
 |
白南海 「なんだそりゃ。ガキのくせに、破滅願望でもあんのか?」 |
 |
カグハ 「・・・・・その・・・」 |
 |
カオリ 「うーあーやめやめ!帰ろうカグハちゃん!!」 |
 |
カオリ 「とにかく私たちは能力を使ってお団子を作ることにしたの! ロストのことは偶然そうなっただけだしっ!!」 |
 |
カグハ 「・・・カオリちゃん、やっぱり私――」 |
 |
カオリ 「そ、それじゃーね!バイビーン!!」 |
チャットから消えるふたり。
 |
白南海 「・・・・・ま、別にいいんすけどね。事情はそれぞれ、あるわな。」 |
 |
白南海 「でも何も、あんな子供を巻き込むことぁねぇだろ。なぁ主催者さんよ・・・」 |
チャットが閉じられる――