
痛苦の中でぼやけた意識が浮遊している。
輪郭の溶けた視界と重なって、自分の視力では到底
見えるはずのない遠くの景色が見える。
耳鳴りと同時に聞きたくもない悲鳴と懇願が聞こえる。
疲労で動かない身体が意志に反して動き、痺れた感覚を
無視して鋭敏になった感覚が命の消える感触を伝える。
まるで自分が2人いるかのようだ。
酷使され、疲労と苦痛に喘ぎ何もできない自分。
もう1人の自分を絶望させるためだけに無感情に動く
人形のような人殺しの自分。
もう動きたくない。もう殺したくない。
悲嘆が、後悔が、絶望が吸い上げられて花が咲く。
負の感情を養分として捧げるための苗床、それが私。
流れた血が、溢れた涙が甘い香りを漂わせる。
ひらり、ひらり。黒い蝶が視界の端で遊んでいる。
ずっと私の人生に寄り添ってきた厄介者。
疎ましいとは思えど、邪悪なモノだとは思わなかった。
走馬灯のように記憶が蘇っては消えていく──
*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*
蝶を寄せる異能は生まれつきのものだった。
幼い頃の私は黒い蝶を見つけるたびに捕まえようと
手を伸ばしていた。その度に蝶は暴れ、手や顔を
真っ黒に汚しては母に叱られたものだ。
その頃は蝶に毒があるなんて思いもしなかったし、
自分を取り巻く甘い香りも相まって私は人気者だった。
黒く美しい蝶は良き隣人であり、リボンの代わりに
髪や指先に止めて遊んでいたことを覚えている。
今にして思えば、ああして蝶と触れ合っていたから
私は身体を壊しがちだったのだろう、と思う。
夢見がちな子だと言われていたのも、蝶の毒による
幻覚の所為だったのだ、と気付いたのは大分後のこと。
蝶の害に気付いたのは幼稚園を卒業する直前だった。
何が原因かは覚えていないけれど、ひどく悲しいことが
あって両親に当たり散らした日。
私は鍵をかけて自室に閉じこもっていた。
ドアも窓も閉め切って泣いていたのに、どうしてか
部屋の中ではたくさんの蝶が飛び回っていた。
それが堪らなく煩わしくて、泣いている私を揶揄って
いるように思えて、ぬいぐるみを引っ掴んで片っ端から
叩き落とした。
黒い鱗粉が舞うたび呼吸が苦しくなって、視界が
ぐるぐると歪んで、咳が止まらなくなって、吐いて、
意識が遠退いて──
次に目が覚めたとき、私は病院のベッドに寝かされていた。
*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*
脳髄に激痛が走り、遠退いていた意識が覚醒する。
疲労に耐えきれず意識が途切れたとき。
現実を直視できず思考が逃避を始めたとき。
こうして無理やりに意識を引き戻される。
見えなくとも、実感として分かる。
この花は私の脳にまで根を張っているのだ。
根が神経の代わりとなって脳を掌握している。
どうにかこの苦しみから逃れられないか、と。
何度同じことを考えただろう。
私が自由になるにはこの花をどうにかする必要がある。
しかし、引き抜くにせよ何にせよ、取り除こうと
思えば私の脳が傷つくことは避けられない。
逃げ道を探すたび、辿り着くのは絶望的な結論だ。
私は逃げられない。
侵略者の傀儡として人を殺し続けるしかない。
身体が限界を迎えるのが先か。
この街を守る誰かに殺されるのが先か。
いずれにせよ、もう私に未来はない。

[770 / 1000] ―― 《瓦礫の山》溢れる生命
[336 / 1000] ―― 《廃ビル》研がれる牙
[145 / 500] ―― 《森の学舎》より獰猛な戦型
[31 / 500] ―― 《白い岬》より精確な戦型
―― Cross+Roseに映し出される。
 |
エディアン 「・・・おや。チェックポイントによる新たな影響があるようですねぇ。」 |
 |
エディアン 「今度のは・・・・・割と分かりやすい?そういうことよね、多分。」 |
映し出される言葉を見て、腕を組む。
カオリ
黒髪のサイドテールに赤い瞳、橙色の着物の少女。
カグハと瓜二つの顔をしている。
カグハ
黒髪のサイドテールに赤い瞳、桃色の着物の少女。
カオリと瓜二つの顔をしている。
 |
カオリ 「ちぃーっす!!」 |
 |
カグハ 「ちぃーっす。」 |
チャット画面に映し出されるふたり。
 |
エディアン 「あら!梅楽園の、カオリちゃんとカグハちゃん?いらっしゃい!」 |
 |
カグハ 「おじゃまさまー。」 |
 |
カオリ 「へぇー、アンジニティの案内人さんやっぱり美人さん!」 |
 |
エディアン 「あ、ありがとー。褒めても何も出ませんよー?」 |
少し照れ臭そうにするエディアン。
 |
エディアン 「間接的だけど、お団子見ましたよ。美味しそうねぇあれ!」 |
 |
カオリ 「あー、チャットじゃなくて持ってくれば良かったー!」 |
 |
カグハ 「でも、危ないから・・・」 |
 |
エディアン 「えぇ、危ないからいいですよ。私が今度お邪魔しますから!」 |
 |
エディアン 「お団子、どうやって作ってるんです?」 |
 |
カオリ 「異能だよー!!私があれをこうすると具を作れてー。」 |
 |
カグハ 「お団子は私。」 |
 |
カオリ 「サイキョーコンビなのですっ!!」 |
 |
カグハ 「なのです。」 |
 |
エディアン 「すごーい・・・・・料理系の異能って便利そうねぇ。」 |
 |
カオリ 「お姉さんはどんな能力なの?」 |
 |
エディアン 「私は・・・アンジニティにいるだけあって、結構危ない能力・・・・・かなー。」 |
 |
カグハ 「危ない・・・・・」 |
 |
カオリ 「そっか、お姉さんアンジニティだもんね。なんか、そんな感じしないけど。」 |
 |
エディアン 「こう見えて凶悪なんですよぉー??ゲヘヘヘヘ・・・」 |
 |
カオリ 「それじゃ!梅楽園で待ってるねー!!」 |
 |
カグハ 「お姉さん用のスペシャルお団子、用意しとく。」 |
 |
エディアン 「わぁうれしい!!絶対行きますねーっ!!!!」 |
 |
エディアン 「ここじゃ甘いものなんて滅多に食べれなさそうだものねっ」 |
チャットが閉じられる――