
『イバラレポート -003』
被験者A、被験者Bをイバラシティに投入し、想定しうる活動の最低期間である720時間が経過。
被験者A・B、ともに目立った損傷なし。
被験者Aについては、24時間周期でのバックアップ機能も想定通り動作中であることを確認済み。
引き続きイバラシティでの活動を継続する。
一方、目標を補足したとの連絡はなし。
時空の歪み現象においても、調査の進捗はない。
サンプルAの活性化現象について
サンプルAの特殊な脳波は、不定期ではあるが継続的に観測されている。
被験者Aの活動に関連したものとして、被験者AのバックアップデータとサンプルAの脳波の関連性について検証を開始。
被験者A、被験者Bの接触と、サンプルAの活性化の関連性は、現状なしと考えられる。
被験者Aより報告。
・イバラシティ・O区にて、『人狩り』を称する組織と接触。
現地にてともに事件に巻き込まれた『善意の第三者』のバックアップもあり、逃走に成功。
その後、イバラシティ・K区の医療施設にて保護され、治療を受ける。
バックアップ機能に問題はなし。
素体交換の必要性は低いとして、引き続き現行個体による調査を継続。
また、再度『人狩り』組織と遭遇した場合は、現行個体の提供を交渉材料に加えることも検討するよう伝える。
被験者Bより報告。
・イバラシティ・M区に、生活拠点兼ラボを設置。定期的に被験者Aのメンテナンスを実施中。
・イバラシティ内における目標の補足はなし。だが、イバラシティ内で目標が生存していることはほぼ確実と見られる。
・目標の『学生』としての行動履歴は現状見られず。何らかの生活基盤を持つものとして、調査を継続する。
・被験者Aのメンテナンス費として、現金で150万円を使用。当該資金はイバラシティ活動費より計上されることとする。
・イバラシティ内にて、時間がごく僅かにずれる事象を確認。以前より補足していた時空の歪みと見られる現象との関わりについて、調査を継続。
ヴィクトル・M・Aの所感
イバラシティを楽しんでいるようで何より。
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…………
『神』について
時間と空間、次元のあわいに発生した、不視認(みえず)、不接触(さわれず)、不知覚(しれず)の存在。
何らかの意思を持つとされ、何らかの目的をもって、『世界』へ介入しようとしていると考えられる。
現在は、『目標』と呼称される少年の意識の中に棲んでいる、と仮定されている。
『神』は、その発生当初においては、単なる”現象”に過ぎなかった。
『目標』自身は、『神』の存在をかなり早い段階から認識していたとされている。
認識はしていたものの、『神』の持つ(とされる)現実への干渉阻害の影響を受け、長い間、その”現象”について明確に語ることができなかった。
しかし、ある時を境に、『目標』は『神』という”現象”について、第三者に向けて語り始める。
(理由については、『神』による現実への干渉阻害が何らかの理由により弱体化した、あるいは『目標』自体が干渉阻害への一定の耐性を獲得した、と考えられている。)
当初は、『目標』の血族ですら、『神』という”現象”を信じることはなかった。
それは、『目標』以外の人間が、『神』という”現象”を認識できなかったためだ。
『目標』自身も、自らの意識に発生した『神』を、自らの思い込みだと認識していた時期があるとの記録が残されている。
だが、『目標』が『神』を語り続けることにより、その”現象”を明確に認識した人間がいた。
『神』、『目標』、そして目標の『■■』である『■■・■■』……
三者、三点からの観測によって肯定されることで、『神』という概念はその深度を高め、”現象”から”存在”へと成長・進化した。
単なる意識の中の”現象”であった『神』は、”存在”を得たことにより、意思や知性を獲得し、『世界』に侵攻する力を得たとみられている。
現在も、『神』は日々成長し続けていると考えられる。
イバラシティという異能使いの多い特殊な環境において、『神』はいかなる方向に成長するのか、想像すらできないのが現状である。
……
『神』の進化の過程において、『目標』の持つ記憶の一部が改竄されたと考えられる。
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……
どうして
思い出したいと、願うのだ。