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“作楽誘乃”は異能を上手く扱えなかった。






かれがその異能を得たのは数年前。
そのことには誰も気づかなかったし、かれ自身誰にも伝えなかった。











綺麗なだけのその異能は、“作楽誘乃”の心だった。



それは見るものを綻ばせ、愛らしいものだと錯覚させた。
そのように働くべく生まれた個性だった。














“作楽誘乃”はその異能を好ましいと思った。



失われかけた大切なものを、唯一繫ぎ止めることができるから。
失われたことを、誰にも悟らせることもないから。

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“作楽誘乃”は異能を上手く扱えなかった。



もしその扱いに長けた者が適切に手を差し伸べたなら、その限りではなかった。
けれど、そのことには誰も気づかなかったし、かれ自身誰にも伝えなかった。













その異能は“作楽誘乃”の心に応えた。



かれはこどもだった。

一人のこどもで在ろうとしながら、声をひとつもあげることができなかった。

誰かのこどもで在ろうとしたから、声をひとつもあげなかった。

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……“作楽誘乃”は異能を上手く扱えなかった。



異能はかれの心に正しく呼応した。
それは相応に未成熟で、歪な在り方をしていた。









“作楽誘乃”は異能を上手く扱えなかった。



その嘘はかれを救いながら、かれを傷つけた。


























“作楽誘乃”は異能を上手く扱えなかった。



故に、かれは救われ続けた。







“作楽誘乃”は異能を上手く扱えなかった。



故に、かれは傷つき続けた。














“作楽誘乃”は異能を上手く扱えなかった。



その事実は、こどもに行方を失わせた。

▲	タヌキ 「…お前の言葉は、少し違っているぞ。 働きを期待しない、という意味じゃあない。 俺がムッとしたのは、その次の言葉のことだ。」

	タヌキ 「確かに俺は優れているが、セーブツとかそういう話じゃない。 毎日修行を続けて、鍛練を重ねて来たから、誰よりも強くなったんだ。 俺は襲われる側になったことは無いし、勝負を挑む側にいるんだぞ。」

	タヌキ 「泥遊びだって、俺にとっては遊びだが、お前にとっては違うかも知れない。 何しろ、お前こそ"襲われる立場"なんだからな。 必死にやらないと、背後からキツネにバクッと喰われてしまうぞ。」

	【タヌキは少々むすっとした様子で、貴方と視線を合わせた。】

	タヌキ 「泥遊び自体は、そう難しいものじゃあない。 雨が降った後のぬかるんだ泥の中で、全身真っ黒になるまで転がるんだ。 落ち葉の一枚ほどの隙間も無く、ほんとの本当に真っ黒になるまでだぞ。」

	タヌキ 「…この辺りは、泥遊びに向いてないみたいだけどな。 最近あんまり雨も無かったのか、地面も乾いてるし。 だが、それなら泥の匂いがする場所を探し当てれば良いだけだ。」

	タヌキ 「どうする、白いの？ もしもお前にその気があるなら、だけどな。 カンモンを終えた後に、泥遊びに向いた場所を探してやっても良いぞ。」

	タヌキ 「この辺りからは、川の匂いもするからな。 泥がいっぱい溜まった場所を探すのも、俺なら簡単に出来るはずだ。 まあ俺はどっちでも良いけどな。だって俺は、襲われる側では無いからな。」

	【つーんと澄ました顔をしながら、タヌキはそう言ってのけた。】

▲	リヨ 「…………、ヨシ、ねぇ、……ヨシ、なの、ほんとうに……っ……その、みためは、……そういうこと、なの」

	リヨ 「……怖いよ、これ以上あっちの記憶を知りたくない、……これ以上いつもの日常が、壊れてほしくないんだよ……だから、ねえ、ヨシ、」

	リヨ 「いつもの声でさ、いつもの格好で、いつもどおりにさ、助けてほしいんだよ。 　だいじょうぶって……言ってほしいの……、……おねがいだよ……」

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