
俺の異能は声に乗せて動物さんを操る。
それはちょっとでも迷いながらだったりすると、発動しない。
発動したとしても上手くできなかったりする。
致命的な弱点だった。俺…僕は気が弱い。
迷わないよう他の人の力を借りて、ようやく発動できるかどうか。
異能の説明が難しい時は、はぐらかすか無異能だと嘘をついた。
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相手は大人4人。姿が変わっているようではないし、悪い人でもなさそう。
イバラシティの人間だ。本来は味方、でも今は敵だ。
動物を連れている、俺の力が役に立つはず。
俺の前には力が強い、本当の竜になったお父さんと、
水の魔法みたいな回復を使う、でもその爪と牙と翼は紛れもない竜のアスさん。
隣には女っていうけど、やっぱお侍さんみたいな、しらきりさん。
みんな、こっちでもかっこいい。俺も役に立ちたい。
そうだ、あの鳩使いのおじさんの鳩を奪って戦おう。
少しつっつけば、すぐに逃げていってくれるんじゃないか。
それに、他のハザマの生物よりは優しくしてくれそうだ。
俺は異能を使う。
《鳩さん、あの人をついばんで》
ふと。
この動物使いや動物さんと仲良く出来る未来もあるんじゃないかって思ってしまう。
あの羊は言葉が分かるみたいだ、何でも無いお話をして、真っ白な毛に顔を埋めて寝たりしたい。
鳩さんとは、近所の人と公園のベンチに座って、餌を上手く分けて与えて、ゆっくり眺めていたい。
そんな事しながらなら、あの白いお兄さんや黒いおじさんとも話せるかも知れない。
声《異能》が出てから鳩さんが動くまで、少し時間が空いてしまう。
その間を埋めるかのように相手の女の人が鳩の行く手を遮り、手を叩く。
鳩は驚いたかのように空へ距離を置くように飛ぶ。
(……何で………。)
拳をギュッと握る。あの技は決め手だった。
今目の前で戦ってる人達は危なくなったら、
みんなで助け合うように、回復しあう事はハザマの友達から聞いていた。
助け合っている間は、俺達への攻撃が緩まる。
そして何より。あの鳩使いのおじさんは何かを隠しもっている感じだった。
気を取り直し、後ろに下がりながらハザマの生物に攻撃の命令する。
《駆けて》
相手の羊さんが遮るように飛び出し、目に入る。
「メエ!」
動物さんを傷つけるのを迷ってしまう。声は届かず、しばらく何も無い時間が流れる。
もう一度命令しようとした時には、羊さんはハザマの生物を追い払うように走る。
新しい命令をしなければいけない。
でも、なんで俺はこんなに迷ってしまう。
行動が単純になっている。次も防がれたらいよいよ役立たずだ。
口が震え、喉が渇く。怖い…怖いよ……。
「…ケイや、大丈夫かえ?」
隣で剣を振るい、衝撃波のような攻撃を飛ばしてるしらきりさんの言葉で、視界に景色が蘇る。
いつの間にか相手の数が増えている。
警戒していた鳩使いのお兄さんが呼んだらしい。それが切り札みたいだ。
後悔したけど、浸る時間はない。
「ん、大丈夫、だ。」
嫌なところを見られてしまった。
弱っちい態度を見せるわけにはいかない。深呼吸を1つする。
「それならいいがの。
そろそろ止めを刺しにいこうぞ、アスが倒れる前にな。」
「アス…さん?」
敵の攻撃を受け続けている灰色の竜に視線を向ける。
涼しい顔を崩さず、シャボン玉のような綺麗な回復技をふんわり、
そして弾けさせる。倒れそうには見えないけど、よく見るとその肌は傷だらけだった。
あの傷は、俺が怯えてた時に相手につけられたもの。
瞬間、自分と相手への怒りがこみ上げるけど、それはもう一回、1つ息を短く吐いて落ち着かせる。
俺は望んで、ここにいる仲間と一緒に戦ってる。
あの夢みたいに何も出来ずに、何もしないで、イバラシティに戻って、お母さんだけじゃなくて、
お父さんや優しくしてくれる近所の人がいない世界を過ごすなんてやだ。絶対嫌だ!
しらきりさんみたいなハザマの動物さんがいたのを思い出す。
来て欲しい、ありったけの想いを込めて異能を使う。
鎌鼬。
旋風に乗って、その鼬は現れ、言葉は話せないけど一緒に戦ってくれるようだ。
戦場に風が駆け巡る。それは味方を励まし、敵を切り裂く。
「ほう、これは良き風じゃ。良いぞ、久々に滾ってきたわ、終わりにしようぞ。
くく…くははッ!」
風をよんでいるかのように剣を振るい衝撃波が通り、
かと思えば上機嫌で敵陣に斬り込んでは素早く距離を置いたりしている。
「このまま終わりにしよう。
今回は誰も倒れさせない、よ。」
震えはどっかに消えていって、あるのは負けない、負けられないという思いだけ。
そっからは早かった。
相手にスキが生まれ、攻撃するチャンスも増えて、
敵は1人、また1人と逃げていってた。
アスさんも最後まで立っていてくれた。良かった…本当に良かった……。
犬だったときと同じように抱きつきに行きたい…けど、お父さんと何か話している。
ぐっと想いは胸の中にしまい、限られた時間の中、鳩さん達に新しい良い場所を案内する。
確か高い山を好むはずだ、あとは雨をしのげるようなとこがあるといい。
しばらく、お父さん、アスさん、しらきりさんの視線を感じながら引き連れ、適当な場所で異能を使う。
《鳩さん達、自由にして。》
鳩さん達は1つの大きな群れになり飛び去る。
この鳩さん達はこの戦いが終わったらどうなるんだろう。
この世界にずっといる?それともイバラシティか、アスさんのいたとこにいることになる?
…今戦った人達は俺と一緒のとこに行く。
でも、それでも、戦いが終わるまでは、いいとこにいて欲しい。
水を飲んでいる鳩さんを眺めながらそう思う。
夢で見たお父さん達のような想いになっている事に気付き、
ムジュンした気持ちに、胸が詰まりそうになりながら、平然と仲間の元に走った。