
異能に目覚めたのは、みんないつなんだろう。
そういう話を人としたことは、あまりなかった気がする。
私の場合は、わかりやすく「物心ついた時」にはもう、異能に目覚めてた。
『ものを浮かせることができる』
みんなずいぶん格好いい名前だったり、いろんな異能だなと思ったけれど、
たぶん私の異能は何の変哲もない方だと思う。
とてもシンプルで、単純で。
けれど分かりやすいものがいいわけでもなくて。
厳密には私が物心つくよりも前に、もう異能を持っていたらしい。
らしいというのは当然覚えていないから。
両親は異能を持っていない、ごくごく普通の人だった。
特にお母さんにとっては、『異能』は『異様』だった。
子供の頃はコントロールの一つさえできなくて。
子供特有の癇癪を起こした時、
むしろ小さくてまだしゃべることさえままならなかった時、
勝手にものが浮いたり、飛んだり、落ちたり。
そんなポルターガイストみたいな現象は、
簡単にお母さんをノイローゼ気味にしてしまった。
少しずつコントロールが出来るようになってからは、
極力異能を使おうとは思わなかった。
使ってまたお母さんをヒステリーみたいにしてしまうのは嫌だった。
異能を抑える為に、病院にも通った。
感情の起伏が大きくなると、どうしても浮いたり、浮かしたりしてしまうから、
昔は随分と気を付けてた。
今よりももっと、暗い……し、きっとぼんやりしてたと思う。
ベランダから外を見るたびに、ここからふわりと飛んだら
どれだけ気持ちいいのかなと思ったこともあったけれど、
口に出したことはなかった。
そんなころに、みゅーちゃんと、バツ君と出会って。
その頃は本当に、楽しかった。二人と会って遊ぶ時間は、とっても大事で。
でもそう長く一緒に居られないうちに、イバラシティから引っ越しをした。
親戚のおじさんが、お母さんと私の関係性を見て、
お仕事が安定したから、引き取れるようになったからと、
名乗り出てくれた。
今にして思ったら、当時のおじさんは、まだ本当に若かったのに。
それでもそう、言ってくれた。
多分、あのまま一緒に居たら、本当に私も、お母さんも、
ダメになっちゃうっていうのを、おじさんは分かってたんだと思う。
イバラシティを離れて、生活をして。
けれどそこでおじさんに『我慢しなくていい。好きにしていい』って言われて。
ようやく私は、自分の意志で、飛べるようになった。
飛ぶことを覚えた小鳥のように。
水を得た魚のように。
あの時初めて異能は、私の異能になった。
* * *
「……定義」
通信は使えないけれど、端末自体は生きている。
端末の辞書機能を使って調べた言葉の説明はやっぱり難しくて、わからない。
ずっと結ってあったから、髪が引っ張られている気がしておさげをほどきながら考える。
ていぎ。さだめること。
めいかくなげんてい。
きょうつうにんしき。
「……つまり、だれからみても、私はこれがあるから、今こうしてます。
って……わかるようにすること…?自分で自覚をきちんとすること…?」
この世界の人たちは、つまり私たちよりも明確に何らかの『目的』があって
こうして侵略をしてきている。
オニキスさんも『目的』があるから、侵略じゃなくてイバラシティ側で戦ってる。
つまりきっとみんなその『目的』には、譲れないものとか、事情とか、
『何か』があるから、そうなる、わけで。
「――再定義…」
ここは、イバラシティではない。
ゆえに、その常識も通用しなければ考えも通用しない。
この世界を、今を知った上で、もう一度何かを定めなくてはいけない。
言っている意味が分かるようで、まだ理解しきれなくて。
すべてをつかみきることが出来なくて、もどかしい。
瞳を伏せてくるり、宙でさかさまになれば緑の髪とスカートが重力に従って垂れ下がった。