
ファミリーレストランを見て入る二人。
時間も遅くなってきたこともあり、
客はまばらである。
多少騒がしくしたところで迷惑もかからないだろう。
無論の事、
席は一杯空いている為、
直ぐに向かい合って座る事が出来た。
席に運ばれるお水。
2人はおもむろに広げ――
「……我は水でよい……」
ようとしたところで、映美莉は手を引っ込めた。
奢ってもらえるとしても、
何か悪いなという気持ちと、
女性に対して奢ってもらうという考えがなく、
奢るという考えしか持っていない為である。
実の所お腹は空いている。
だが、それをおくびにもださないよう気合いを入れているのだ。
武士は食わねど高楊枝。
等という言葉が映美莉の脳裏に浮かぶ。
事実、その通り……
やせ我慢である。
「……」
「……」
葵がメニューをテーブルにおいてまっすぐ映美莉を見つめる。
視線を逸らす……訳にもいかず、
その目をじっと見続ける映美莉。
全てを見透かされそうな瞳に視線を逸らしたくなるが、
それをしてしまうと嘘が見破られると思い、
視線を逸らせないのだ。
どんどんと冷や汗が流れ落ちる。
それは僅か3分ほどの事であったが、
映美莉には非常に長く感じられた。
この状況に対し、
相手に引く気がないと悟った映美莉は肩を竦め――
「…オーケー、分かった。
嘘を言って済まない。
遠慮なく頼ませてもらうとも。
……ただ、任せっぱなしというのも我の性に合わぬ。
半分は次の機会にでも払わせていただくよ。」
降参だ、というように両手を小さく上げた。
「まったくもう……
最初から奢るっていってるじゃないですか。
ここまで来て変な遠慮される方が困りますよ。」
ぷくっとちょっとむくれる葵に、
「いやはや、耳が痛いな。
いかんせん女性に負担を強いると思うと、
それを避けようとほぼ条件反射のようなものになってしまっていてね。
うむ。
そう怒らないでくれたまえ、
笑顔の君がステキだよ。
――さて、
それでは、
ドリンクバーと……
ステーキでも頂こうか。
デザートは……食べ終わってから考える。」
とにもかくにも、
ここのお金は出してもらおうと決めれば遠慮なく注文する映美莉である。
「……私はミートスパゲッティと……
それからドリンクバー、
後……
うーん。
この時間に食べても大丈夫かな?
……たまにはいいよね。
後、パンケーキ頼みます。
それにしても、
お肉好きなんですか?」
頼むと決まると早速店員を呼んで注文し、
飲み物を取りに行きながら葵は映美莉の事を少しでも知りたくて、
注文の話から好みを聞く事にした。
「ああ。
割となんでも食べるが、
やはり肉が好きだな。
焼き加減はレアがベストだから、
専門店とかの場合はレアで頼む。
ファミレスの場合は所謂ほど良い焼き加減で出てくるから、
好きな焼き加減を調整する事はできないが、
ファミレスらしいソースの味というのかな。
肉との相性が絶妙でな。
やはりついつい頼んでしまうな。
これが昼間ならクラブハウスサンドとかにするのだが。
……葵は、パスタとかホットケーキとか、
好きなのか?」
その質問を聞いて律儀に聞きながらメロンソーダを入れる映美莉に対し、
葵はオレンジジュースを入れながら、
「そう、ですね。
和食が好きなのですが、
こういう所だと、パスタとかばかり頼んでいる気がします。
なんだかんだで気軽に食べれますし……
量もちょうどいいですから。
デザートは別腹です。
お肉系は……ちょっと重い感じですね。
嫌いではないのですが……」
ほら、お腹周りも気になりますから、
というように、
ちょっとうらやましそうに映美莉の腰のあたりをみる葵。
その視線に気づいたのか、
映美莉は微笑み――
「十分問題ない……
とは思うが、日頃の調整は確かに大切で、
それは人それぞれだからね。
気にする事はないさ。
ああ、そうだ。
お金を返すついでに、
もしよければ軽い運動の指南も出来るよ。
スタイルを綺麗に保つ運動については色々学んだからね。
だから、その、
連絡先の交換といかないか?
後でメールを送っておくよ。」
さらりと円滑な連絡先交換を提案しつつ、
相手の欲しいものを提示するあたり手馴れている。
「そうですね。
これきりというのも寂しいですし、
よければぜひ。
ええと、席に戻ったらお渡ししますね?」
そして、その提案はスムーズに受け入れられ、
心無しかドリンクを入れ終えて戻る映美莉の足取りは軽やかであった。
その後、連絡先を交換したところで料理が届けられた訳だが――
「……よければ一口食べるかい?
代わりに一口そらのも頂ければ嬉しいのだが。」
突然の映美莉の提案に、
「ええ、構いませんよ。
少し見ていると食べたくなりましたし……
それでは……」
「それじゃあ、
あーん♪」
そして、その提案に葵が頷くや否や、
素早く一口サイズに切り取ったステーキをフォークでさし、
肉汁やソースが下にたれないよう手でカバーをしながら、
即座に葵の口元に運ぼうとする映美莉。
いわゆる、恋人がするあーんである。
突然の構成に思わず赤面する葵。
「えっ、あっ……
うー……」
どうすればいいか躊躇し、
戸惑いながらも、
無言で見つめる映美莉の微笑みに目を奪われ、
思わず――
「あ、あーん……」
口を、空けてしまった。
すかさず口の中に流れるような動作でステーキを運び、
食べさせる映美莉、
そして――
「美味しい?」
無邪気な微笑みと言葉で畳みかける。
ずるいというかなんというか、
不意打ちで乙女の純情をくすぐる行為をするのはずるい。
これが元々親しい仲であったり、
冗談をかわす仲ならともかく、
多少、映美莉がへっぽこだったとはいえ、
助けた側と助けられた側。
いうなれば本日の彼女にとってのヒーローであり、
その姿に心奪われた相手である。
そこへきてこの不意打ち。
思わずぼーっとするほどに心奪われ、
ドキドキで食べる味も分からないが、
美味しいといわれると、
途端に、その旨味が口の中に広がるというか……
幸せな気分になり、
「は、はい……
と、とっても美味しかったです……ッ!」
そう答えるのが精一杯。
しかし、
映美莉の攻勢はやまない。
更に畳みかけるように爆弾発言をする。
それは――
「それじゃあ、
我にもあーんをしてほしいな?」
ウィンクをして、口をあける映美莉。
お返しが欲しいとばかりの行動に、
頭が真っ白になる葵。
嬉しいやら恥ずかしいやら、
様々な感情が交錯し――
言われるがままに一口パスタをフォークでからめとり、
映美莉の口に運ぶ葵。
そして、その手が思わず正気に戻って引っ込める前に――
ぱくりと一口食べて、
「ん、美味しい。
ただ食べるのではなく葵に食べさせてもらえると、
格別においしい気がするね。
いや、実際に美味しい。」
なんてしれっと言い放つ映美莉。
真っ赤になって口をぱくぱくする葵に対し、
本当に嬉しそうに、
正気を取り戻すまでみつめる映美莉なのだった。
――気づけばどれほどの時がたっただろうか、
真っ赤になりながら、
自分が何を言って何を返していいかわからない状況ながらも、
食は進み。デザートが出てくる。
頼んでいたホットケーキと、
映美莉の前にはショートケーキ。
そして、
2人の飲み物はコーヒー。
お互い一口飲んだ所で、
葵は正気に戻った。
正気に戻った時に気づいたのは、
自分が一体何を口走ってしまったのか、である。
「あの……
わ、私何か変な事いってませんでしたか……?」
何を喋ったのか覚えてない。
余計な事とか変な事を口走った可能性が多分にあるという事である。
何事もなかったようにふるまうこともできたのだが……
後になって変な約束をしていたりしたらたまらない。
約束を忘れていたとかがあっては……
「変な事というと、
それはデートの約束とか?」
映美莉の返答に思わず心臓が跳ね、
思わず飲んでいたコーヒーを吹き出しそうになる。
デート、
デートといったのか、この人は。
しかも、この分だと、
私は承諾……
「で、デデデ……!」
「残念ながら何が好きだとか、
何が嫌いだとかの話しかしてないね。
どうやら緊張していたようだし、
その時に大切な話をしたりはしないさ。
まずは緊張をほぐして、
しっかりと判断出来る時でないとね。
なし崩しで約束したところで、
相手を楽しませるにはやはり、
出来るだけそういった所を大切にしたい。
まだまだ未熟だけれどもね。
――さて、と……
落ち着いたようだし、
そうだね。
うん、今度二人でデートでもしない?」
そういってウィンクする映美莉。
思わずドキッとするけど、
なんとか堪え……
「そ、そういうのは早いと思います!
一緒に遊びにいくならいいですよ、
喜んでお受けしますから。」
ふるふると首をふる葵であるが、
2人で遊びに行く事自体、
デートといわれればデートなのには気づいてないらしい。
「そう?
じゃあ、それで満足しておこうかな。
ま、脈はあるようだし、
ちゃんと、お返しした後、
ゆっくり二人で遊ぼう。」
それに気づいているのか、
クスクス笑いながら承諾する映美莉に対し、
「一杯遊びましょうね!
それにしても、
手馴れていますよね。
……他の人にも一杯同じこといってるんじゃないですか?」
喜色を浮かべ返答したところで、
ふと気づいたことがあり、
それを聞く葵。
半ば返答が決まり切っている……
というか、
女性を助けるのが当然だとか、
気障な行動もしれってやってのける女相手である。
もちろん、映美莉の返答は――
「それを言われると痛い所ではあるけど、
別に隠す必要もないしね。
レディに対して口説いたり、
お誘いしたりするのは礼儀だと思ってるよ。
とはいえ……
いつだって本気だし、
二人きりの時は君だけを見て、
君の事だけを考えるようにしてるけどね。」
まったくもって馬鹿正直な返答である。
あきれるというかなんというか、
思わず二の句が告げなくなる葵。
その様子をじーってみながら、
葵の反応を待つ映美莉。
「もうちょっと誤魔化すとかしないんですか?」
そんな映美莉の様子に複雑な気持ちになって、
むむむとしかめっ面で問い返す葵に、
「誤魔化した所ですぐにわかる事だし、
変に誤魔化すよりも正直に答えた方が、
我の気持ちの真っすぐさも伝わりやすいし、
後になって拗れる心配もない。
違う?」
いわれてみれば確かに間違ってはいない、
間違ってはいないが……
「確かに。
……ほっぺたつねってもいいですか?」
しかし、行き場のない複雑な感情を貯めておくのは……
馬鹿らしい。
ならばどうすればいいかといえば、
相手にぶつけるのが一番である。
「……」
「……」
思わぬ返答に沈黙する映美莉であったが、
じとーっとした目を向けられ続け、
諦めたのか肩を竦め。
「……お好きなだけどうぞ。」
とだけいうしかなかった。
いうや否やぎゅーっと頬っぺたをつねられる映美莉。
「いひゃいいひゃい!」
思いっきりやられたせいか痛いと正直にしゃべり、
その様子にクスっと葵が笑ってしまって、
手が離される。
「本気でやられるとは思わなかった……
まだひりひりする……」
真っ赤になった頬っぺたをさする様子をみて、
完全にすっきりしたのか、
葵はにこやかな笑顔で告げた。
「それでも、他の人にもっていわれるとイラっとしたんです。
しょうがない人ですね?」
そして、二人は笑いあい――
食事を済ませ別れるのだった。
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えみりん 「――ネタが、無い――」 |
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えみりん 「これは由々しき事ですよ。 由々しき事に違いない!」 |
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えみりん 「しかるにそろそろ打ち切ってもいいのではないか!」 |
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えみりん 「そう思うけど日記やめられないのがこちらになります。」 |
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えみりん 「――ところでなんでチキンレースになるんですかねぇ……?」 |