
──瀧本。
ねえ、瀧本。
……ねえ。聞こえてる?
君ったら。君ったら。
なあんにも、返事をしてくれないんだもの。
僕はさ、不安になっちゃうじゃない。
ねえ、どうしたの?拗ねてるの?怒ってるの?
……怯え、てるの?
──あはっ。
もしかして、思い出してるの?
昔の事を。遠くの事を。
ああ。そうだよねえ、そうだよ。だって。
まるで、まるで、夢みたい。
まるで、まるで、おもいでみたい。
落っこちる前にいた世界。君が昔にいた世界。
ワールドスワップ?そう言ったっけ?
はざま、はざまに見て居れば。どんなに嫌でも思い出すって物だよ。
君が、捨てようとしたあの世界。
君だけがいないあの世界。
君の目にはさ、どう映るの?
綺麗?優しい?醜い?怖い?
消したい?それとも、帰りたい……?
……帰りたい。
…………帰りたい、なんて、思わないよね。
だって。
だって。
だって。
だって、だって、だって、だって。
思い返してごらんよ。思い出してごらんよ。
あの世界で、君は、一人だったんだ。
君は、君だけは、一人だったんだ。
誰も愛してくれなかったじゃない。
にこにこ、にやにや、優しい顏は。いつも、いつだって、裏があったもの。
君の両親、それさえも。君を愛して無かったじゃない。
君の事なんて見ていない。君の事はぬいぐるみみたい。
自分かっての押し付けばっかり。黙った君が好きなだけ。
ぬいぐるみの君が可愛いばっかり。
そんな人しか、そんな人しかいなかったじゃない。
ねえ、覚えてる?
いたよね。優しい、女の子。
君と同い年の女の子。
君の事を愛しているって、心配してるって、そう言った子。
君を救いたいって。寄り添いたいって。そう言って、君に近づいてきた女の子。
ひどいよねえ。
君の事なんて、彼女。
何にも、知りなんてしないのに。
自分が愛されたいそれだけなのに。
そうして、君を唆すんだ。自分は違うって嘘を吐くんだ。
僕はね、僕は、初めから。あの子の本当を知ってたよ。
彼女に君は、ぬいぐるみたい。勝手な都合を押し当てられる、そうした黙ったぬいぐるみみたい。
だから、愛してあげるてそういって。手籠めにできるて見下して。
そうして寄って、きただけだって。
君はさ。だけど。
騙されやすくて、はらはらしてさ。
純真、なんだね。正直、なんだね。
あの子の事を、好きって言った。
君はあの子にただ一人だけ、自分を認めてくれたって。
そんな事さえ、呟いた。
騙されてるとも、知らずにさ。
僕はね、僕は、知ってたよ。
君が騙されている事、その事に。
だって、だってさ。
だってさ。
──あはっ!!
あの子の最後を、覚えてる?
君も見たでしょ?知ったでしょ?
電車に轢かれて、死んじゃった。
……覚えてる?
ねえ、覚えてる?
電車に轢かれてそうして見えた、あの子の笑顔のほんとの中身。
赤くて、どろどろ、汚くて。ぐちゃぐちゃ、べちょべちょ、醜くて。
浮かべた笑顔のその下は、泥みたいにした赤い血と、醜ったらしい臓物ばっかり。
君は、彼女の表っ面を。好きだと、そうしてかどわかされて。
だけど、中身はそんな物。
君が話していたものは、ぐちゃぐちゃ醜いそんな物だったんだよ。
そんな物。
そんな物、だったんだ。
本当の中身は、あんなもの。
ふわふわ、きれいな、コットンじゃなかった。
……ねえ。僕がね、僕が。
あの時、そうして無ければどうしただろう。
君は、君は、ずうっとずっと、騙されて、騙されて騙されたまんまだった。
いいよう言われて蹂躙されて。
……そんなの、僕には、許せない。
ああ。
あの時は、危なかった、よねえ。
よかった。
よかった。
ほんとうによかった。
君を守れて、本当に……。
──瀧本。
ねえ、瀧本。
まるで、まるで、夢みたい。
まるで、まるで、おもいでみたい。
落っこちる前にいた世界。君が昔にいた世界。
ワールドスワップ?そう言ったっけ?
はざま、はざまに見える世界。
あそこは、そうして、醜い世界。
君が、捨てようとした世界なんだよ。
君が、居たくないと望んだ世界なんだよ。
でもね、大丈夫。
大丈夫だから。
あの世界では。あの世界でも。
君は、もう、心配なんて、しなくてもいいんだからさ。
君の代わりを僕がするから。
君の代わりに僕が生きてあげるからさ。
苦しい 悲しい 醜い想い
ぜえんぶ、僕が、代わってあげる。
だからね。
安心してよ。安心してよね。
僕はね、僕が、僕はさずうっと、君と一緒に居るんだからさ。
君を守って、あげるんだからさ。
何があっても、一緒だからさ。
ふふ。
嬉しいね。
うれしいよねえ。
ねえ、瀧本。