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ラザー 「……。」 |
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ラザー 「持ち越せないのね、こっちの記憶。」 |
再び目が覚めれば、そこは悪夢の世界。
侵略、の大義の元、誰かが誰かを傷つけ、見も知らぬ善良な誰かはなし崩し的に刃を携え誰かを殺す、『戦争』の場。……リーリアの口から、シロナミから事前にその警句を聞かなければ、きっと足が動かなくなる程の、昏い夢。
その世界で、夢の中から飛び出たような不定形の誰かを、曖昧な意識で撃退し。
次元タクシーの座席に揺られながら、あちらの世界に戻った、といったところか。
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ラザー 「Cross・Rose。次元タクシー。……戦争にしては、随分と便利で発達した機能が使えるものね?」 |
頭上に表示されたCrossRossの基本動作を確認しつつ、タクシーの運転手にかまを掛けてみるが、のらりくらりと躱される。
大方、ハザマの団体戦に於いて平等を期す為の装置と、円滑な戦いの為の装置、と言った所か。
益々以て大義への信頼は揺らぐが、自分が戦うべきはそこではない。
誰も殺さない、殺されない為の戦いだ。
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ラザー 「それでも、先ずは情報。次に力。」 |
題目上は平等を期しているからか、CrossRoss上では意見交流や簡易の物流も出来るらしい。
一つ一つ、一つ一つ、全てを。揺れる車内で、判断していく。
交わす言葉も、いつも通りに。敵意ではなく、善意を伝えるために。
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ラザー 「(……集中して装置を扱うから、頭は痛いし、)」 |
その上で思考と考察も回す以上、疲れで瞼は重くなってくるけれど、
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ラザー 「(……そんな……事で、善意を……)」 |
手折る、わけ、には。
……だって、わたしは、ひとりだから。
『元の所有者でもない僕らが、棄てられたゴミの為にそこまでする義理は無いっちゃ無いんですけどね。…棄てた人達にタンスの角に足の小指ぶつける呪いでも掛けられていればいいんですけど。』
――そりゃまぁ、そうだけども。でもね拝木、私思うのよ。捨てられるって、そこで終わりじゃない。というか、終わりだと信じられてるじゃない。でも、そこで終わりだなんて。ゴミはゴミのままでしかないなんて、なんか嫌じゃない?
ごとん。
『実現不可能だとわかっていることに足掻いている。そんな自分を浅はかだと感じながらも、間違ってはいないと思っている』
『―――ラザー先輩は、破綻しているのに、自己完結してしまっている』
――そうなのよー、巽。言ってしまえばこれ、破綻してる理屈っちゃ理屈なのよ。完璧に幸福な結末なんて、不可能だもの。……でも、願って、信じて、努力してたら。きっと叶うって思ってたんだけど。
ごとん。
『悪いことは言わないわ。貴女、この島から出て行ったほうが良い。『私みたいに失う前に』ね。』
――違うの、お願い、そんな顔をしないでリーリア。私は、友達のそんな顔が見たい訳じゃないの、私は、ただ、貴女と笑顔で、ねぇ、お願いだから、そんな悲しい作った笑顔なんて、
ごとん。
『怪我をする前に。何かを失う前に。早くここから去りなさい。』
違うの、私は。そんな悲しい幸福なんて嫌なの。誰かを捨てて得る仮初めの幸福なんて。だからお願い、ドアを閉めないで。お願い、お願いだから、私、
「お願い、だから……!!!」
ご と ん っ 。
……血の海に、彼女は沈む。
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ラザー 「……ぁ……。」 |
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ラザー 「……。」 |
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ラザー 「……この限られた時間の中、うたた寝するなんて。随分と余裕ね、マーム・ラザー?」 |
『今日、今一瞬』足りとて無駄には出来ない。
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ラザー 「……?」 |
似た言葉を、どこかで聞いた気がする。
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ラザー 「まぁ、後回しにしましょう。やるべきことは山積みだから。」 |
口の中が、妙に甘い。
というよりは、どこかの記憶にこびりついた甘さだろうか。
甲高いブレーキ音が響くや否や、蹴破る勢いでタクシーのドアを開ける。
ここからは、……戦争だ。