
――では、続きの話をしよう。
深い意識の底から覚めた時には、黒い檻の中に居た。ただ、暑すぎず寒すぎず、絶妙な温度の中に居る狼は檻の外に居る男の研究者を見つめる。まさか処分されるのでは……? ここで抜け出そうと思っても、全身に力が入らない。……まだ体力も魔力も戻っていなかったと痛感する。
「安心しなさい、ここでは貴方を悪用したり、処分したりしない」
それでも安心は出来ない。もしかしたら目の前の研究者が悪さをするかもしれないと思ったからだ。
「流石に安心は出来ないか……。君の居た研究施設にある僅かな資料を見たんだ、自分の力が上手く扱えない事も知っている。
ここで取引になるけど、君の能力を調べさせてくれないか? その分細部まで面倒を見るし、君の力を自由に扱えるよう術式や薬も作るし、最終的には自由にしてあげる。どうだい?」
その取引に僅かな思考の中で考え、そして敵対心の視線を与えるのをやめた。面倒も見てくれて、力も自由に使えるようにしてくれて、そして自由にしてくれる……この取引に頷くことにした。といっても……体力が回復して自由になったその時には、大暴れしてやろうかと、その時は思っていた。
静かな地下室で体力の回復を待っている頃、一人の緑色の髪をした女の子が一階から降りてきて狼の前に立った。
「あ! パパとママが言った通り、ワンワンが居る!」
……ワンワン? 小さく首を傾げながらそのまま女の子の話を聞いた。
「わぁ、黒くて大きい……! あ、狼だったね、ごめんなさい。でも狼さんの名前無いみたいだから、どうしようかな……」
なんだか勝手に名前を考え始める女の子。そういえば、と……今まで呼ばれていなかったことに気がつく。どんな名前を付けるのだろうか、と思いながら見ていると……
「よし、決めた! リグニス、でいい?」
リグニス……その名前を聞き、じっと女の子に目を向ける。何だか琴線に触れる名前だと思ったからだ。
「気に入ったかな……? もしそうなら良かった! あ、そうそう、あたしの名前はシズル。よろしくね、リグニス!」
満面の笑みで自己紹介をした。このような女の子であれば退屈はしないのだろう、そう思い突き放すことはしなかった。あれから予定を除けば平日は夕方~夜に、休日は朝からシズルは顔を出しては色々な話をしてくれるようになっていた……最初の内殆どの場合は一方通行ではあったが。
それが後に狼にとって、大きな影響をもたらすとは思いもせず……。
おっと、そろそろ時間だからまた次に回すとしよう。
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リグニス 「…………」 |
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ミキ 「また何か考えているのですか?」 |
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ホンダワケ 「いやぁ、最近ずっとこうだよ? しかも何を考えているのか分からないし」 |
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リグニス 「別に大したこと無い。舞前もここに来ていたのか」 |
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ミキ 「当然です。あくまで、貴方達の監視役ですが」 |
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リグニス 「そうしてくれると有り難い。もし想像し難い事がで起きたら、それなりの対処をしてくれたらいい」 |
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ミキ 「……分かりました。」 |
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ホンダワケ 「でもミキさんも、イバラシティでは充実しているじゃないか~」 |
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ミキ 「それとこれとは別です。協力してくれる面々と合流しましたし、先へ急ぎましょう」 |
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ホンダワケ 「はっはっはっは! そうする~」 |
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リグニス 「全く、騒がしい面々だ……」 |